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38 地味なデスクワーク

 12月のアラミサルでは、度々雪が舞う光景も見られるようになった。

 暖炉で温められた国王執務室で、美波は膨大な予算資料に埋もれていた。


 「さて、予算の承認作業を始めますか!」

 「予算増減の理由も併記してありますから、内容の把握はそう難しくないかと。問題があると思われれば差し戻してください」


 宰相は美波が初見だろうと思って説明するが、その資料の一部は美波も作ったので、見方はしっかり分かっている。なんなら自分の作った部分に関しては承認するだけで終わる。

 美波は資料をペラペラとめくりながら、財務部で手伝っていた時に疑問に思ったことを尋ねた。


 「領主が管轄する地域の管理は今までどうやってたの?」

 「最終決裁を国王が行っておりました」

 「予算管理とか、政策の立案と実行も領主に権利を一部委譲したから、今後その部分は領主の決済済み書類を確認するのでいいかな?」

 「えぇ、問題ないかと思います」

 


 書類を確認しながら、さらに質問を重ねた。


 「文部からは、学校建設費が大きく増えてるね。学校足りてないの?」

 「王都は年々人口が増加しておりまして、毎年建設されてはいるのですが、まだ学校の過密状態は解消されておりません」


 人員や予算の都合上、一気に作ることも難しい。


 「ちなみに一クラスの定員は何人?」

 「多いところだと50人を超えています」

 「うーん多い。40人以下になるようにしたいね」


 王都の人口増加は少なくとも10年は続くという宰相の説明を受け、学校建設事業は申請より予算を増やし対応する。それに伴い教員の人件費も上方修正する。他にも図書館や病院などの公共施設の建設や増築事業も確認していく。

 美波は書類を上から順番に目を通していると、ある項目が目にとまった。


 「王立学院への予算って多いの少ないの?」

 「相対的に見て潤沢な方でしょうか。気になりますか?」

 「ううん、学院に通った時に思ったんだけど、生徒たちの学習意欲が高かったから。予算が少ないのであれば増やしてあげたいなぁと。むしろ充実してるからこそ活気があったのかな」


 美波は納得して読み進める。


 「次は財務部管轄のインフラ整備か。上下水道の維持費。河川沿岸工事。国内主要街道の整備。どれも大事だなぁ」


 次々と処理していく。他にも外交費や軍部予算など用途は多岐に渡った。


 「ん? この交通事故防止対策費ってフワッとした項目があるんだけど何?」


 美波の質問に、宰相が頭痛を堪えるような仕草をしながら、棚から資料を持ってくる。


 「近年、王都で馬車の交通量が増えたことに伴い、馬車と歩行者が接触する事故が増加傾向にあるのです」

 「なるほど、どうしたものかなぁ」


 その場では結論が出ず、その問題は一旦保留にした。




 2週間ほどかけて予算承認を行い、棚上げにしていた交通事故問題に取りかかった。


 「免許制にするのは現実的じゃないし、死亡事故の厳罰化と、御者と歩行者双方に交通ルールを守らせるのを徹底するしかないかな」

 「ルールを守らせるとは、どうやってでしょう?」


 美波は宰相とお茶を飲んで休憩しながら相談する。


 「衛兵を増やして見回りを増やす、交通安全教室を開く」

 「予算大きくなりすぎます」


 その指摘に、美波はそれが問題!とビスケットで宰相を指す。


 「この際、所得税を導入するのはどう? 領主の収入って領地の税収の1〜3割でしょ?大領地の領主だと1割だけど結構莫大じゃない。それと、大きな商会をやってる商人とかもお金持ってるから、その辺りからも取ろうよ」


 美波は所得税について説明した。宰相は目をつぶって考えている。


 「悪くないかもしれませんね。集中しがちな富を分散させられます。ただどう説得するか……」

 「名誉税と言い張る」


 ほぼノープラン。美波はニカっと笑った。宰相は天を仰いだ。


 「説得は私がします」

 便利な宰相、一家に一台は欲しいものである。




 国王の公務は多岐に渡る。高官との面談や会議を行い、また一般の文官や騎士からも話を聞き国の政策を考える。諜報官からは周辺国の状況の報告を受け国としての対応を決める。それから、国にどんな問題があるかを調査しそれの解決策を調べるという業務もある。各地の領主との会談には現地に赴くこともあった。


 目まぐるしく日々は過ぎ、来年には東のカディス帝国皇帝との会談がある。

 現在、北のゾルバダ帝国に内乱の予兆があるため、周辺国との関係強化、特に強国であるカディスとの会談は重要であった。


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