3 騎士団での日々はこのように過ぎる
朝6時。美波たち新兵はラッパの音で飛び起きる。3分で寝台を整え訓練服に着替え、全力疾走で訓練場へ向かう。
「おせぇぞ馬鹿野郎!! 集団の輪を乱してるんじゃねぇ!!!」
遅れてきた者は教官の容赦ない鉄拳をくらう。
「装備点検!」
一斉に腰から剣を外し、剣の束、鞘、刃を目視確認し再び帯刀する。次に犯人捕縛用の縄を腰から外し異常がないことを確認し付け直す。
一旦朝食のため食堂へ走っていき、10分で腹に押し込んでまた訓練場へと戻る。
「回れ右! 10キロ走、進め!」
広い訓練場を一糸乱れず走る。
これが新兵のヘトヘトなモーニングルーティンである。
昼休憩は1時間あり多少ゆっくりできるので、同じ班のメンバーと喋りながら食べる者が多い。その後、再び訓練へと入る。
団員たちが延々と腕立て伏せをしている。
「自分に打ち勝て! 自分にィ!! お前ができないとこの部隊全滅だぞ!!!」
「まだいけんだろ!!もっと気合い入れろ!!」
「やる気あんのかぁ!! ねぇなら帰らせんぞ!!」
教官の中でも1番の鬼教官が団員たちに怒号を飛ばす。それにもこの3ヶ月間ですっかり聞き慣れてしまった。
美波は男性と同じ回数やれとはさすがに言われないが、クリアできそうにない回数はやらされる。
体力錬成の時間の後は魔法訓練である。ちなみに魔力のない大半の騎士は体力錬成が続く。魔法訓練は球状の炎や水の球、竜巻など教科書に載っている魔法を使い、魔法無効素材で作られた人形(通称は生贄人形)にぶつける。
これを繰り返し発動時間の短縮や、威力の向上を目指す。その訓練は魔力か集中力が切れるまで行なう。
攻撃魔法の使用は全身に巡っている魔力を手に集め、使う魔法をイメージし、攻撃対象の座標を設定し発動させる。そのため手術中の外科医のごとき集中力を要する。つまり頭も非常に疲れるのである。
これがドロドロ新兵のアフタヌーンルーティンである。
午後3時から6時までは法律や魔法を学ぶ座学から、王都を警らする実習までさまざまである。(騎士団は王都の治安維持機能も兼ねるため見回りも行う。ただ王都は広いため、騎士とは別に治安維持の特化した憲兵隊も存在し、王都の各区域に駐在させている)格闘訓練などもあった。
◇
「ミナ、あんた小柄だし細いし肌も白くって、見た目お嬢様! って感じなのになんで入隊したわけ?」
隊舎で同室になった女の子、アン・テイラーが大浴場から戻ってきて濡れた髪をタオルで拭き、ベッドでくつろぎながら訊ねた。
同室になったその日から仲良くなった、18歳のストロベリーブロンドにタンポポのような色の瞳をした気持ちのいい子である。
「私は国王付き秘書官の採用が決まってて、秘書官はいざという時に国王を守れないといけない、とかで訓練に参加してるの」
私は勉強しながら宰相が作った設定を答えた。
「ミナすごいね! すっごい賢いんだ! アタシなんかバカだし、家も貧乏だったから給料の良さだけでここ来たけどさー。でもそっか、国王様をいざって時は守らなくちゃいけないなら、1班入りも納得かなー? でも相当訓練キツイでしょ?」
「キツイ! つらい! 辞めたい! でもやるしかないよ」
「ミナ……。本当にムリだったら、やめてもいいんじゃない?」
日本人はやはり若く見えるらしく、美波のことを同年代だと思って気安く接してくれるこの友人は、いつも心配してくれる。
ただ、訓練がつらいと宰相に泣きついたら、また失望されるんだろうなと思うと言い出すこともできず、玉座から逃れるという決断もできなかった。
逃げるということは、おそらく神によって殺されるということだから。
頑張ってる美波を応援したい。