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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
一幕 異世界召喚

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28 国王の帰還

 美波は北部都市から観光しながら、のんびりと王都へと戻ってきた。その結果、気付けば9月の戴冠式までわずか2週間となっていた。

 王都を囲む城壁の門をくぐりメインストリートを歩くと王城が見えてくる。


 「どうしよう。今さらどんな顔で戻ったらいいの!? 死んだと思われてるかな。どう思われるんだろう!?」

 「やっぱ怖気づいたじゃねーか」


 美波はオロオロしてルークにしがみつく。


 「まぁ怒られはするんじゃねーか? でも生きてたって分かれば喜ぶだろ。この国にとって国王はいるだけで価値があるからな。国民の精神安定剤だ、お前は」


 ルークは破顔して笑った。


 少し懐かしさも覚えながら城下を歩き、王城城門から少し離れたところで美波は立ち止まった。


 「じゃあここで。私が冒険者になってから今までずっと旅に付き合ってくれてありがとう」

 「見てて面白かったからついて行ってただけだ」


 美波にはその言葉が本音半分照れ隠し半分だと分かった。


 「じゃあ、またどこかで!」

 「あぁ、じゃあな」


 美波が手を振る、ルークはそれに軽く手を上げて答える。そして2人は同時に踵を返して歩き出した。

 約3カ月、パーティを組み一緒に旅をした2人の別れはあっさりしたものだった。




 馬車が行き違える大きさの城門には騎士が2人いた。


 「お嬢さん、王城には関係者以外入れませんよ」


 (さて、どうやって入ったものか。いきなり宰相呼べって言っても文字通り門前払いだろうな)


 とりあえず騎士団の懐中時計を取り出し言う。


 「一応職員? です」

 「所属は」

 「えぇと、文官?」


 そんな適当な申告で入れるわけがない。


 「いや見たことねぇよ。お嬢さんの顔立ちはこの辺じゃ見ないから目立つし」

 「じゃあ近衛のジャックかロビン呼んでもらっていいですか?」

 「知り合いがいるのか。まぁいい、呼んできてやる」


 騎士の1人が使いに走ってくれた。親切な男だ。




 「ミナミ! お前何してんだよ!」


 近衛の制服に身を包んだジャックが走ってやってきた。


 「ごめんごめん! 通行証とか持ってなくて止められちゃった」

 「城門出る時は身分証を持って出るの決まりだろ! 次はもうやるなよ? すみません。こいつ俺の同期です。入れてやってもらえますか?」


 ジャックは騎士に頭を下げた。美波も慌てて頭を下げる。


 「分かった。行っていいよ。お嬢さん次は気をつけろよー」


 美波とジャックは30度の礼をして立ち去った。



 「それでどこに行くんだ?」

 「宰相のところ。どこにいるかな?」

 「今の時間なら執務室じゃないか? 俺も近衛の詰所に戻るし途中まで一緒に行くよ」


 広い城内を歩きながら久しぶりの会話を楽しむ。


 「新兵訓練が終わってから何してたの?」

 「まぁ、基本的には変わらず訓練だな。今は国王様がいないから警護の任務もないし。お前は何してたんだ? 城で一切見かけなかったぞ?」

 「今まで各都市で色々学んできたんだ。いい経験したよ」

 「なんか雰囲気変わったな。自信がついたって感じか? いいじゃん」


 美波はニッと笑った。




 ジャックと別れ、宰相執務室の前へ着いた。


 (どんな顔すれば……笑う? 泣く? んーーー)


 「ミナミ……さま?」

 「うわっ!!」


 宰相は所用で室外に出ていたらしい。扉の前で佇んでいるのを発見されてしまった。


 「……宰相。ただいま戻りました。勝手してすみません」


 美波は深々と頭を下げる。宰相は心底ほっとしたような泣きそうな顔になる。


 「おかえりなさいませ」




 美波が帰還したことは近しい者たちにはすぐ伝えられた。


 「ミナミさま……! ご無事で何よりでございます……!!」

 「えぇ! 本当に!」


 侍女長のソフィーと侍女筆頭のケリーは涙ぐんでいる。


 「私もご無事のご帰還をお祈り申し上げておりました。それにしても、一体今までどこにいらっしゃったんですか?」


 私たちも必死に探していたんですよ、とチクッと小言を混ぜながら宰相秘書官のオリヴァーが聞く。


 「冒険者になって4大都市のうち3つを巡ってきました」


 美波は各都市での出来事を話していく。


 「セレゥでの疫病、領主の対応が早いと感心しましたが、ミナミさまが動いておられたんですね」


 オリヴァーが関心している。


 「あと、旅をしてて気になったのは、街の屋台で買ったご飯で時々お腹痛くなったり、風俗店で違法に働かされてた女性たちがいたからそれは衛兵に捕まえてもらったりとか。屋台は衛生管理もうちょっと厳しくしたほうがいいね。風俗店へは立ち入り調査を定期的にすべきだね。あとストーカー対策に付きまとい行為を規制する法律も」


 普段あまり表情を変えない宰相が驚いている。


 「早速そのように法整備をいたしましょう。……ミナミさま。私は謝らないといけないと思っていたのです。私は新しい国王であるあなたに大きすぎる期待をしておりました。前国王陛下は積極的に公務をされる方ではなかったので、私が政治に関するあらゆることを段取りして、陛下の許可を得なければなりませんでした。ですので、次期国王に対する理想が高いものになってしまったのです」


 宰相は深々と頭を下げた。美波はそんなんでも不審死は免れるんだ?と聞くと国にとって悪いことをしなければ大丈夫と宰相は言った。美波が考えていた以上に縛りは緩かった。拍子抜けである。


 「まっ、おかげで冒険者をするのにも役立ちました。なので許してあげます」


 美波は腰に手を当てて大げさにふんぞり返った。


 「ぷっ、くくくっ」


 周囲は笑いに包まれ、鉄仮面宰相ですら笑いを堪えられなかった。




 それぞれ仕事に戻り、美波は宰相の説明を聞くため部屋に残された。


 「戴冠式はもう2週間後に迫っています。ミナミさまには急ぎ段取りを覚えていただき、あとは衣裳合わせをします。衣装はほぼ完成しているのでサイズ調整です」


 美波はこの国に来てすぐの頃に体のあちこちを採寸されたなぁと記憶を思い起こした。


 「戴冠式は城の礼拝堂でやるんだっけ? 誰か他に参加者とかっているの?」

 「当たり前です、戴冠式ですよ。成人している貴族全員が新国王のご尊顔を拝しに来ます」

 「ふぁ!? 何人になるのそれ!?」

 「1000人は超えます」


 美波はちょっと気が遠くなった。


 「戴冠式のあとは舞踏会です。戴冠式の夜に舞踏会を開くのが慣例となっております。国中の貴族が集まりますから、ここで効率よく社交ができるというわけです」

 「新国王だけじゃなく、参加する貴族にとっても、ってわけね」


 なかなか効率的だと美波は感心する。


 「国民への顔見せとかはないの? バルコニーからお手振り、とかパレードとか」


 日本の皇室や海外の王室をイメージして考える。


 「ゾルバダ帝国や他の国ではそういった儀式もなされていますが我が国ではやりません」

 「それはなんで?」

 「国王陛下は神に選ばれて即位なされますから、国王陛下は現人神なのです。あまり人前に出るということはありません」


 美波はなんとなくモヤモヤとした気持ちになる。


 (国王を神格化……。この国って絶対王政なんだよね。王権神授説ってやつ? ってこの国じゃ、神に選ばれて国王になるんだから文字通りすぎる。確かに普通選挙制なんてないし、地方領主は何をするにも中央にお伺いを立てる。問題がありそうに思うのは民主主義国家で生まれ育ったからなんだろうな。実際やめなきゃいけないほど問題があるようには思えない。う〜〜ん、考えがまとまらない)


 思考の迷宮に入り込んだので一旦考えるのをやめた。



 「ミナミさまにもお戻りいただいたことですし、近衛兵や専属の侍女たちと顔合わせをしておきましょう」


 宰相が侍従に騎士団長や近衛、国王付き侍女を呼ぶよう指示する。

 30分も立たず宰相執務室に近衛50人とケリーを筆頭とした侍女4人が集められた。

 部屋に来たジャックとロビンが美波に気づく。


 「あれ? お前なんでここに?」

 「ミナミ、久しぶり!」

 「まーまー、あとでわかるよ。ロビンは久しぶりだね! 元気? 近衛の仕事はどう?」


 3人で軽く喋っていると宰相が咳払いをして会話を切った。


 「ミナミさま、全員揃いました」


 美波は改めて全体を見て一人一人と目線を合わせる。


 「皆さん初めまして。私が2週間後に国王になりますミナミ・カイベです。よろしくお願いします」


 微笑んで軽くお辞儀をする。

 その場の全員が驚いているようだったが、厳しく教育された王城勤務者だけに取り乱すことはなかった。


 『ミナミが王様!? 嘘だろ!!?』


 勤務歴の浅いジャックとロビンを除いて。



 改めて一人一人と挨拶を交わしていく。


 「騎士団長のハロルド・ジョーンズです」

 「新兵訓練の修了式にお顔は拝見しております」


 美波は訓練を懐かしんで笑う。騎士団長らしい上背のある男は美波を見下ろして言う。


 「あなたは国王陛下となられるのですから、私に敬語は不要です」

 「すみません、でもこれがミナミ・カイベという国王です。誰に対しても誠意を持って接することが大切だと考えていますので」


 日本人が思い描く国のトップ像は譲れない。それに偉そうにすることもできそうにない。

 騎士団長は複雑そうな顔をしながらも引き下がった。

 その後も階級順に並んだ騎士たちと挨拶を交わす。そして最後に並んだジャックとロビンのところまできた。


 「今まで黙っててごめん。これからも今まで通り友達してくれると嬉しいんだけど」

 「おっおう。……いや、はい喜んで?」

 「なにそれ酒場?」

 「煮るなり焼くなりしてください!」

 「ロビンも私の話聞いてた!?」


 3人とも同時に吹き出して笑い合った。



 次に並んでいる侍女の方へ向かう。


 「ミナミさま、国王付き侍女を紹介しますね。向かって左から順番にドロシー、シャーリー、ジェマ、キャサリンです」


 美波はそれぞれ握手をして短く会話をする。


 「まだまだ知らないことも多いので、助けてもらえると嬉しいです」

 『はい!』


 気の良さそうな人たちでよかったと美波は胸を撫で下ろした。


 戴冠式はもうすぐだ。


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