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27 貴族のお茶会はこのように

 翌日、シャーウッド一家と朝食を取り、今日も屋敷に滞在させてもらい明日王都に向けて出発することになった。


 「ルークは今日、何するの?」


 隣に座り優雅にベーコンエッグにナイフを入れクチに運ぶルークに尋ねる。


 「10年帰らなかった間に溜まってた俺宛ての手紙を読んで処理するのと、部屋に残してあってもう必要ないものの処分とかだな」

 「そっか。私は何しようかなー」


 することがない、と顎に手を添えて考え込む。


 「それでしたら、私と一緒にお茶会に参加なさいませんか? 昨日の晩餐会でお茶会に参加なさったことがないというお話でしたので。いい経験になりますわ」


 フローレンスは本日、隣の領地であるイキシア伯爵領の夫人のお茶会に招かれているということだった。


 「いいですね。でも夫人と私、どういう関係性ということにしますか? 私は次期国王だって言うつもりはないですし。そもそもいきなりそんなのが来られても迷惑だろうから」

 「そうですわね。でしたら私の遠い親戚の子というでしたら問題ないかしら?」

 「遠い親戚にこんな外国人顔がいても突っ込まれないなら私はいいですけど。あと着ていく服どうしよう。着替え含めて服は全部この騎士団支給のシャツとパンツしかないですよ?」

 「それ騎士団の服だったのか。毎日同じだなとは思っていたが」


 ルークが改めて上から下まで視線を向ける。


 「ルークだって毎日同じじゃん」


 小馬鹿にされたような気がした美波は反撃する。


 「俺のは冒険者専門の服屋に魔物素材を渡して、3セット一気に作ってもらったんだ」

 「一度に洗い替え用まで作ったから常に黒ずくめなんだ。ちなみに素材にした魔物って?」

 「黒ずくめって。インナーのシャツは白だろうが。素材はドラゴン。だから機能は、防水・速乾・断熱・防御力強化が付いてて、破れないし汚れない。完璧だな」

 「何それ!? その服、最強装備じゃん。買うとしたら値段つかないやつ……」


 美波はルークの服がどんな高級ブランドの服よりも高いと知って、なんだか触るのも怖くなった。


 「カイベさまは私のドレスを着てください。まだ袖を通していないものがありますので」

 「そんな新品の着られませんよ! もっとこう、お下がりとかでいいので」


 固辞する美波にフローレンスはとんでもないと首を振る。


 「カイベさまにお下がりなど! むしろ私がカイベさまのお下がりを着たいというか……いえ! 何でもありませんわ!」


 フローレンスの本音がポロリした。美波は『ここにも国王信者が……』と若干引いた。

 フローレンスが良いのであれば美波にこれ以上拒否する理由もないので、ありがたく新品のドレスを着させて貰うことにする。



 元々がフローレンスのためのドレスのため落ち着いたデザインの水色のドレスは、バランスを取るためヘアメイクを華やかにしたことにより美波によく似合っていた。

 ドレスは高めの襟が首を半ばまで隠し、6分袖の先にはレースが縫い付けられている。胸元や裾にある大ぶりの花の意匠が特徴的だった。

 髪型は左耳の辺りに髪を集めて編み、お団子のようにしたシニヨンを作り、お団子の上に大きな生花を飾り華やかさを足す。


 「カイベさま。出来ましたわ」


 鏡の中で美波の着付けとヘアメイクをしてくれたシャーウッド家の侍女が満足げに微笑む。


 「すごい。お嬢様っぽい〜!」


 美波も頭を左右に向けて出来栄えを確認して感動している。


 「カイベさまはお可愛らしいですから、よくお似合いですわ」

 「ふへっ。お世辞でも嬉しいなぁ。ありがとうございます」



 用意ができたフローレンスが客室まで迎えに来て、揃って玄関ホールに向かう。

 美波が階段を降りると、手紙の仕分けを一旦中断して見送りに出てきたルークもいた。


 「あっルーク。見て見て! 可愛くない?」


 美波はルークの前でクルッと回ってみせる。


 「あぁ、可愛い」


 ルークは目を細めて微笑しながら答えた。素直に褒められた美波はポンッと顔が赤くなる。


 「えっ、いやっ、そんな」


 (ルークが笑ってるの初めて見た気がするんだけど!? イケメンの笑顔は破壊力が高すぎる!! これは使用禁止だわ)


 脳内でイケメン万歳祭りが開催されている美波は、ルークの前で呆ていた。


 「あらあら。カイベさま、そろそろ出るお時間ですわ」


 なおも呆けている美波はフローレンスに手を引かれて屋敷を出た。




 馬車で4時間。出発が早かったため、美波は移動時間をほとんど寝て過ごし、イキシア領にあるイキシア伯爵のカントリーハウスに到着した。

 屋敷はシャーウッド家のそれより二回りほど小さいものの、敷地内に広大な土地を有し、庭にあるトピアリーが印象的な屋敷だ。

 玄関前に馬車を止め、執事の開けた扉をくぐり屋敷へと入る。


 「シャーウッド伯爵夫人! 来てくださって嬉しいわ」

 「イキシア伯爵夫人。お久しぶりですわね。お元気にしてらした?」


 イキシア伯爵夫人は淡いグリーンの髪をしたフローレンスと同年代の女性だ。美人が並ぶと眼福である。


 「あら? こちらの可愛らしいお嬢さんは?」


 イキシア伯爵夫人はフローレンスの隣にいた美波に視線を移す。


 「急に人数を増やしてしまってごめんなさいね。この子は遠い親戚の子でミナミと言うの」

 「お初にお目にかかります。ミナミ・カイベと申します」


 フローレンスが馬車の中で打ち合わせた通り、親戚の子として美波と紹介する。美波は設定上フローレンスと同格の家の出身ということになっており、イキシア伯爵夫人に対してカーテシーは行わず軽く会釈する。


 「初めまして。ケイト・イキシアですわ。異国の香りがする可愛らしい方ね」


 イキシア伯爵夫人が美波を見てにっこり笑い、美波たちをお茶会を行う部屋へと案内した。



 大きな窓からは庭のトピアリーや花々が眺められる部屋には2人の女性が座っていた。


 「1人急に来られなくなった方がいてお席はあるのよ。どうぞ2人ともお掛けになって。ミナミさんはこの2人とも初対面ですわね? こちらがヘザー・トンプソン子爵、隣がブレーク男爵家のミシェルさんですわよ」


 円卓座る美波の右隣にフローレンス、左隣にはミシェル、そのまた隣にヘザーが座っている。


 (爵位を持つ女性は初めて見たな)


 この国では爵位の継承は男子のみであったが、50年前に法改正され、男女問わず長子優先となっている。

 美波はお茶会とはどんなものだろうと様子を見る。すると、主催者であるイキシア伯爵夫人が参加者全員に話を振り、全員が入れる話題を選んでいることに気づく。

 話題は多岐にわたる。家族や親族の話題、特に結婚話が多い(宰相は20年ほど前からずっと見合い話を断り続けており、フローレンスはもう諦めているらしい)それから、それぞれの領地運営話や、ミシェルはカムリバーグの学院に通っており、そこでの授業の話。ここにいる全員がどこかの学院に通っていたことがあるので皆懐かしみながら聞いていた。


 「ミナミさんは学生かしら?」


 イキシア伯爵夫人が美波にも話を振る。


 「私は来月から王城で働くことが決まっています」


 美波はフローレンスと決めた設定を答える。国王も王城勤務なのには違いない。


 「あらぁ! 優秀なのねぇ! フローレンスも領地に戻ってくる前は王城の文官よね? 後輩になるのかしら」

 「後輩? どうなのかしらね。うふふっ」


 フローレンスは笑って誤魔化した。フローレンスはこの嘘はついていないが本当のことも言っていない絶妙な会話楽しんでいるようだ。いい性格をしている。


 「ミナミさん王城の文官になるんですか!? 私も学院を卒業したら王城で働きたいと思っていて。試験難しくなかったですか?」


 ミシェルが話に食いつく。


 「私はえぇっと、宰相に誘われて一緒に働く特別枠だから。参考にならなくてごめんなさい」


 美波は申し訳なさそうな顔をする。


 「あの宰相閣下に誘われて一緒に仕事をするなんて、やっぱりすごいです!」


 ミシェルの目が輝いている。美波は不正入試で入ったような気分になり、憧れの視線が少し痛い。


 「どこ行っても宰相って憧れの人になってるけど、あの人オニだからね。あの人1回の説明で全部覚えろって方針だし、なのに説明はすっごい長いし細かいし。覚えてないとため息つかれるし。運動が得意ってわけでもないのに騎士団の訓練に入れるし。騎士団の訓練では剣でボコボコにされるし、筋トレは罵声浴びながら動けなくなるまでさせられるし、山中行軍では1週間山籠りでお風呂にも入れないし」


 美波は思い出しながら、ちょっと怒りが湧いてきた。


 「ウチの息子がごめんなさいね」


 フローレンスの謝罪には憐憫もこもっていた。



 「ウチの領地で作っているウイスキーの生産数を増やして王都で売ろうと思っているのですけど、どう売り出したらいいと思いますか?」


 トンプソン子爵が4人に対してアイデアを募る。


 「前に頂いたけれど、トンプソン領のウイスキーは美味しかったわ。知り合いの商会に話を通しておくわね」


 イキシア伯爵夫人が知り合いを通して流通できるよう取り計らうことを約束する。


 「私はそうね、王城の知り合いにおすすめしておこうかしら」


 フローレンスは昔のツテを使うという。一方、学生のミシェルは役に立てそうにないと曇った表情で謝った。


 (なるほど。貴族はこうやってお茶会とかの社交を通じて事業を盛り上げるのか)


 「それじゃあ、商会取り扱うことが決まったら、大々的に試飲会でもしたらどうですか?」


 美波が思いつきで言ってみる。


 「試飲会? それはどうやるんでしょうか?」


 トンプソン子爵が小首を傾げながら美波に質問する。


 「えーと、人通りの多い道かお祭りのときにでも出店を出して、通行人に無料でひと口分くらいを飲んで試してもらうんです。そしてその場で買えるようにします。量が用意できるならできると思います」


 美波はこの世界でも上手くできるかと少し不安になりながらも案を出す。


 「顔馴染みの店で頼めば試飲させて貰えることもありますが、大々的にやるのは面白いですね。ぜひやってみたいです」


 トンプソン子爵は前のめりで美波の提案に食いついた。子爵は目線を落としてぶつぶつと何かを呟いている。頭の中で試飲会で用意するボトルの数や場所の選定などを、すでに頭の中で始めているようだ。


 「もうすぐ夕方になることですし、そろそろ終わりにいたしましょうか」

 「もうそんな時間? 本当に楽しい時間はあっという間ね」

 「名残惜しいです」


 それぞれ別れを惜しみながら領地へと帰っていった。

 帰りの馬車の中では美波がルークとの旅の思い出を話し、フローレンスはルークの子供の頃の話をして盛り上がった。


 (あのルークがなんでも宰相の真似をしたがったり、ずっと後ろをついて回ったり、剣術の稽古でお兄ちゃんに勝てなくて泣いたりしてたなんて。今の仕上がりからは想像できないな)


 シャーウッド家の屋敷に戻った美波は、出迎えたルークの顔を見てニヤつく顔を抑えられなかった。



 そしてもう一晩をシャーウッド家で過ごした美波は、ルークとともに王都へと向かった。

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