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24 突撃! 実家訪問

 2人はカムデンから乗合馬車で1日を費やしシャーウッド領へとやってきた。

 町の中心部には八百屋や肉屋、雑貨屋や道具屋などがあり、田舎町ながらも買い物には不自由しなさそうである。中心部の外には牧草地や農地が広がっていた。

 美波たちは歩いてルークの実家へと向かう。シャーウッド公爵邸は中心部のほど近くに居を構えていた。


 「ここがルークの実家かー。うん超豪邸」


 白を基調とした2階建ての20LDKくらいありそうな大邸宅である。


 「それ言うならお前んち城じゃねーか」

 「あぁあれ私の家か。じゃあ私んちお前んちの10倍〜」

 「子供か」


 ルークが美波の額をぺしりと叩く。



 屋敷が見えてから玄関まで15分ほど費やし辿り着く。

 ルークは玄関扉の前でドアノッカーを握るも棒立ちになって固まってしまった。


 「ここまできて引き返すなんてないから! ほら!」


 美波はドアノッカーを握るルークの手に手を重ね、扉を叩いた。


 「当家になにか……ルーク坊っちゃま!!」


 応対で出てきた白髪に執事がルークを見て一瞬固まったのち、急いで伯爵と夫人を呼びに行く。


 「坊っちゃまか〜」

 「うるせぇ」


 ルークとともに屋敷に入った美波は玄関ホールを一通り眺める。正面には2階へと続く階段があり、壁には絵画が飾られている。左右は部屋へと続く廊下がある。木製の壁や床は竣工から今日までの長い月日を感じさせた。

 コツコツと早足で進む足音が聞こえると、2階から2人の男女が降りてきた。


 「ルーク!!」


 黒髪をアップスタイルにまとめ、目鼻立ちのくっきりした美人がルークに駆け寄り抱きしめる。


 「あなた、冒険者になると書き置きして家を出てから10年も顔を見せずに……! 元気にしてた? 怪我はない? ちゃんと食べてるの?」


 女性はルークの顔や肩、腕を撫で回して異常がないかを確認している。見比べてみれば整った造形や髪色は遺伝を感じさせた。そして心配し瞳を潤ませる姿はまさしく母だった。


 「ルーク、今まで連絡一つ寄越さずに……。心配していた。おかえり」


 女性のすぐ後ろに立つ男性はスカイグレーの髪と神経質そうな顔の造形は宰相との血縁を感じさせた。


 「あら? そちらのお嬢さんはどなた? もしかしてルークの恋人かしら?」


 家族の感動の再会がひと段落ついたところでルークの斜め後ろにいた美波に夫人が気づいた。


 「いえ、ルークとパーティを組んでるミナミ・カイベと言います。ちなみに来月国王に即位しますので、今後ともよろしくお願いします」


 美波は夫妻に向かって頭を下げた。


 「えっ!?」

 「はっ!?」


 夫妻は揃って驚愕し、ルークにどういうことなのか説明しろと目線で訴えている。


 「旦那様、奥様、まずはお部屋へご案内してはいかがですか?」


 有能執事が助け舟を出す。


 「そっそうね、お部屋へ行きましょう」


 夫妻の先導で美波たちはドローイングルームへと通された。



 ドローイングルームはいかにも貴族の屋敷といった趣で天井からはシャンデリアが下がり、置かれた家具のデザインはどれも凝ったものだ。


 「この絵って小さい頃のルーク?」


 美波が暖炉の上の壁に飾られた家族の絵画に気づく。


 「あぁ、俺が5歳の時だな」


 美波は絵と今のルークを見比べる。


 「かっわいい〜。ルーク、こんなに大きくなって……!」

 「誰目線だよ」

 「それで、カイベさまはこの国の次期国王になられるのですか……?」


 伯爵が恐る恐るといった様子で美波に話しかける。


 「はい、そうです」


 美波が肯首する。すると夫妻は改めて最上級の礼をとった。


 「あっ頭上げてください! まだ国王じゃないですしただの冒険者ですから!」


 美波は慌てふためいて2人に礼をやめさせようとする。


 「私はロバート・シャーウッド、隣は妻のフローレンスです」


 美波と夫妻は挨拶を交わしてソファーに腰掛ける。


 「ルーク、カイベさまとどうして冒険者をしているの?」


 美波の正面に座ったフローレンスが訊ねる。


 「こいつは王様になるのが嫌になって城を抜け出して、冒険者ギルドで加入試験を受けてたんだ。そこにギルドに依頼を見に来ていた俺が偶然居合わせて、ギルマスに言われてパーティ組まされた」


 ルークがあの日の状況を思い出しながら説明する。


 「ルーク!! カイベさまに対してその口の利き方はなんだ!? 不敬だぞ」


 ルークの口調に驚いたシャーウッド伯爵が厳しく叱責する。


 「いいんです! パーティの仲間だし友達? だし非公式の場だし!」


 シャーウッド伯爵の剣幕に慌てて美波が擁護する。伯爵はカイベさまがそうおっしゃるならと語気を弱めた。


 「カイベさまとパーティを組むまでは何をしていたの?」


 フローレンスは10年音信不通だった息子がよほど気がかりだったらしい。根掘り葉掘り聞きたい様子だ。


 「特段変わったことはしてない。魔物の討伐をしたり、商隊や要人の警護をしたりだ」


 ルークは照れくさいのかあえて無表情に努めている。


 「でもふつうに依頼こなしてたんじゃAランクにはならないでしょ? なにしたの?」


 これは以前から美波が気になっていたことでもあった。


 「あー、護衛依頼中にドラゴンに遭遇した。2回」

 「ドラゴン!? しかも2回!?」


 ドラゴンは討伐難易度Sクラスに指定されており、ドラゴンの襲来は大規模な被害が予想される災害と認識されている。アラミサルで確認されるのか20年から40年に1度と言われている。


 「それと各国の王族、貴族からの依頼を受けるとギルドポイントが多く入る。ギルドとしても粗野な冒険者を派遣して揉めたくないんだろう。ギルマスにそういう依頼ばっか回された結果だ」


 ルークは王都を拠点にしているから、そのギルマスとは美波の加入試験をしたあの試験官だ。どうやら便利に使われてきたらしい。


 「苦労したんだね……」

 「かわいそうな子を見る目で見んな」


 夫妻も心配そうな目でルークを見る。


 「大丈夫だから」


 ポーションで治り切らないような怪我もしていないから、安心するようにと言う。


 「ルーク、今日は泊まっていくのか?」


 シャーウッド伯爵の言葉に、ルークはどっちでもいいから美波が決めろと振る。


 「実家で数日ゆっくりしていきなよ。私が泊まっても大丈夫ならだけど。あっ急に来てご迷惑だろうし、ご飯はキッチン貸して貰えれば自分で作るので」


 自分の世話までさせれないと美波が遠慮する。


 「とんでもない! 次期国王陛下をおもてなしするには至らない部分も多々あるかとは思いますが、晩餐もご用意しますしごゆっくりなさっていってください」


 シャーウッド伯爵は美波を下にも置かない歓待ぶりである。


 「ありがとうございます。それじゃあ積もる話もあるだろうし、ちょっと散歩でもしてこようかな」

 「それでしたら誰か護衛をお連れください!」


  美波が気を利かせて退席しようと腰を浮かせる。それにシャーウッド伯爵が待ったをかけた。


 「いえ大丈夫です。そういえば護衛することはあってもされたことはなかったな」


 時期国王なのにと言って笑う。そして3人を残してドローイングルームを出た。


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