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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
一幕 異世界召喚

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19/86

19 恐喝などの容疑で男5人を逮捕

 美波の身代わり生活も1週間が経ったが男が現れることはなく美波は少し焦ってきていた。


 (もうこれ以上学生をするのは耐えられない! 早く出てきて! 怒らないから! 早く出てきなさーい! お母さんも泣いてますよー!!)



 今日の授業は午後の魔法学である。教室に行ってみると、この日は魔法の実践練習ということで、動きやすい服に着替えて運動場に集合となった。講義じゃないなら休めばよかったと美波は激しく落ち込んだ。


 「お前、まだ風邪が治りきってないなら休んでもいいんじゃないか?」

 「マーガレットはいつも頑張りすぎ」


 気づけばマークとヘレンが隣にいた。

 美波は身振り手振りで大丈夫と伝える。


 「いやいや、声も出せないのに大丈夫な訳ないじゃん。厄介な病気とかじゃないだろうな? ちゃんと病院行ってるか?」

 「やだ! 私と一緒に病院行く!?」


 本気で心配しだした2人に美波は身の置き場がなかった。



 「今日は今までの座学を思い出してこの人形にぶつけてみろ!」


 魔法の練習といえばお馴染み。親の顔より見たアイツ。魔法無効素材で作られた生贄人形の登場である。

 生徒らはイメージしやすい魔法や自分の魔力と相性のいい魔法を出し人形にぶつけていく。

 美波も使い慣れた火球をサクッと出して人形にぶつけた。


 (今日こそは目立たない! 絶対にだ)


 しかし案の定、そうはいかなかった。



 「よーし、今度は2人1組を作れ!」


 生徒らが人形を相手にした練習を一通り終えた頃、教師がボッチに対する死刑宣告をした。マークとヘレンが美波も誘ってくれたが遠慮した結果、先生とペアを組むことになってしまった。28歳にもなって何をしているんだろうと思わず真顔になった。


 「これから対人練習をする。全身を防御層包め。それから相手が防御出来ているか確認しつつ攻撃を仕掛けてみろ!」


 防御層とは全身を覆う盾のようなもので、魔法攻撃を弾くことができる。ただし物理攻撃は通る。そして魔力か集中力が切れるまで使うことができる。

 教師が生徒らを見回ってきてから美波の前に立つ。


 「さぁ、リトルフォードもやってみろ!」


 (訓練で散々やったなぁ。あれからまだ2カ月!? 時の流れが早すぎる。いろいろありすぎたから? それとも歳取ったから……?)


 切なさを感じながら、美波は防御層を作り火球を放った。


 「もっと魔力をこめてみろ!」

 (頑張って威力抑えてんの! 目立ちたくないから!)


 ちょっとイラッとしながら、言われた通り威力を少し上げる。


 「もっとだ!」


 更にちょっと上げる。


 「もっと!!」


 また上げる。


 「もっといけるだろ!!!」

 (どこまで威力上げていいの!?)


 美波は普通の学生がどの程度の魔法を使うのかを知らなかった。なので、中威力の火球を一気に10個作りぶつけた。ただし中威力とは美波基準である。騎士団の訓練だとこれくらいはウォーミングアップだったが、ここは学校だ。


 「おぉ!? リトルフォード! やるじゃないか!」


 気づけばギャラリーができていた。


 (マーガレット様。ホントごめん!)


 身代わりが終わった後、マーガレットの学校生活は少し大変になった。



 授業が終わると急いで服を着替え下校した。

 これ以上の身代わり生活は無理だと感じた美波は、ストーカー男がいつも現れる道で男を待つことにした。


 (こうなったら直接対決だ! 来い、来い! 来い!!)


 「マーガレット、こんなところで何してるんだ?」


 まさかのマーク登場である。

 美波は人を待っている、と身振りで伝えた。


 「じゃあ俺も一緒に待つよ。1人にしておけないしさ」

 (むしろ邪魔なんですーー!)


 帰るように必死に身振りで訴えたが、マークは『今日は時間あるから大丈夫』と言って伝わらない。


 「あれ? マーガレットとマーク。何してるの?」


 ヘレンまで何故かやってきた。2人ともここは帰り道ではないはずである。


 (お帰りくださいー!)


 手と目で訴えるが、『マーガレットが心配で追いかけてきちゃった』と言って、ヘレンにも伝わらない。


 (だったら今日は私も帰ります! 2人を危ない目に合わせられないし!)


 美波は訴えようとするも通じない。


 (こっち見ねぇーー!)


 2人はマーガレットが待っていると思っている人を探していて美波を見ていなかった。



 突然、美波は視線を感じた。素早く周囲を確認すると5人の男がこちらに向かってきていた。

 ルークがこちらに来ているのを確認した美波は、マークとヘレンを店の壁際に寄せて守る。


 「マーガレット?」

 「2人とも、下がってて」


 美波が2人に対して初めて声を出す。2人は声が違うことに気づいたが問いただす時間はなかった。


 「うちのお嬢様に何の用だ」


 少し離れたところで美波を見張っていたルークが5人の男たちと向き合う。男のうち1人は例のストーカー男で、残る4人は明らかに反社会的勢力っぽい雰囲気を出していた。


 「俺らが世話んなってる人の坊ちゃんがよぉ、女にフラれて泣いてやがったんで、どんな女か見てやろうと思ってなぁ」


 リーダーと思われるスキンヘッドの大柄な男が、ニヤニヤとルーク越しに美波を上から下まで眺める。ルークはその視線を遮るように立ち位置を変えた。


 「それで? 顔見るだけで満足して帰るようなタマじゃねぇだろ」

 「さぁてね」


 どうやらマーガレットはタチの悪いやつに目をつけられてしまったらしい。このまま放置していたら、いつか危害を加えられるのは確実だろう。


 (叩けばホコリがわんさか出てきそうな男たちだな。領兵か衛兵に引き渡してしまえば、しばらくシャバには出て来られないはず。でも現状ではまだ手を出されてはいない。どうする……)


 美波は何か策がないかと頭を巡らせ、騎士の職質権限を思い出し、それを行使することに決めた。


 「私は騎士団所属の海部です。お兄さんたち、ちょっと手荷物検査させていただけますか?」

 「お嬢ちゃん騎士団ごっこか?」


 男たちはバカにしたように笑う。それを無視して、美波はウィッグとマスクを外し、いつも身につけている懐中時計を開き身分を証明してみせた。


 「やべぇ、逃げんぞ!」

 「なんで騎士なんかが!?」


 途端に男たちは顔色を変えて逃げだそうとするも、美波の魔法によって脚を凍らされ動けなくなる。


 「騎士だと分かった途端逃げだそうとするなんて、怪しすぎますね」


 美波が全員に身体検査を行うと、全員がナイフを所持していた。

 魔物が発生するため、冒険者が帯剣しているこの国では銃刀法違反という罪はない。しかし冒険者でもない怪しい集団全員が刃物を所持していたとして取り調べを受けさせることは出来る。

 美波はマークに警らの衛兵か領兵を連れてくるように頼み、男らは駆けつけた衛兵によって連行されていった。


 美波は改めてマークとヘレンの方へ向き直る。美波は2人に、マーガレットがストーカーに悩んでいたこと、そのため冒険者を雇って護衛に当たらせていたことを伝えた。


 「私がその冒険者のミナミ・カイベです。こっちがルーク」

 「え? 騎士団の人じゃないんですか?」


 改めて自己紹介をすると、マークがあれっ?と首をかしげた。


 「一時期だけ籍を置いていたんですが、もう離れています」


 身分詐称で怒られるかも、と言って美波は笑う。


 「そんなわけで、ここ1週間くらいマーガレットと入れ替わってました。騙すようなかたちになってごめんね」


 美波が頭を下げるとマークとヘレンがブンブンとかぶりを振った。


 「それは全然! だってしょうがないです。それよりもあたし、マーガレットがそんな大変な目に遭ってたの気づかなかった。しかも入れ替わってるのだって……」


 ヘレンが俯く。確かに全然顔違うのにとマークも訝しむ。


 「大事な友達だったら、なおさら巻き込めないよ。それに顔の違いに気づかなかったのは、顔に認識阻害の魔法をかけていたからだし」


 顔だけに認識阻害をかけることで、髪型や髪色、服装や体型で相手から誤解されるようにしていたと説明した。


 「そんな複雑な魔法行使、常時展開できるものか……?」

 「こいつの魔法はいつも常識外れだから気にするな」


 自信喪失しかけたマークに、ルークが補足してやった。


 「つか、騎士団にいたなんて初めて聞いた」

 「いろいろと諸事情があって」


 ルークはまたそれかと肩をすくめ、ため息をついた。



 ストーカー男たちは衛兵に連れていかれ、その後恐喝や強盗、ネグラにしていた倉庫から違法薬物が発見されるなど大量の余罪が判明した。男たちはもう社会に戻ってくることはないだろう。

 地球でも科学捜査などの技術がない時代は犯罪抑止のため、罪に対し罰則が重くなりがちであった。この国でも例によって、である。



 依頼が無事完了し、明日には美波たちが旅立つということで今夜はささやかな宴席が開かれている。


 「良かったですね、マーガレット様」

 「えぇ、これで安心して学校に……いいえ、安心じゃないわ。ミナミが1週間の間に優秀さを惜しげもなく出してしまったから、わたくしハードルが上がってますわ!」


 マーガレットは頬を膨らませるが怒ったふりである。


 「ミナミさん、ルークさん。今回は本当にありがとう! まさか付きまとい男が反社会的なグループと関わり合いがあったとは。マーガレットにもしものことがあったかも知れないと思うと恐ろしいよ」

 「えぇ、最悪の事態が防げてよかったです」


 美波は食堂の長テーブルで食事を楽しみながら正面に座っている男爵や男爵夫人とも言葉を交わす。


 「ルークさんはあの『黒の騎士』なのでしょう? 単独でAランクの魔物を数百も倒したという噂は、わたくしも知っておりますわ。そんな方に娘を警護していただいて安心でしたわ」

 「俺は大したことはできませんでしたが」


 男爵夫人が頬を染めてルークを見る。美波は普段意識しないようにしているが、本来ルークは隣に立つのも憚られるほどの美丈夫である。そして通常はAランカー数人で戦うAランクの魔物と単独でやり合える人外でもある。パーティを組んでいなければ、いろいろな意味で決して今のように隣に座って食事などできない。


 「ルーク、その黒の騎士ってなに?」

 「装備が黒いからだろ」


 ルークはぶっきらぼうに答える。


 「じゃあ騎士の方は?」

 「誰かが勝手に言い出したことだ」

 「騎士といえば、ミナミは騎士様だったって聞いたけれど本当?」


 先ほどまでマーガレットに会いにきていたマークとヘレンから聞いたのだろう。


 「3カ月間だけ新兵訓練を受けたことがあるだけだよ。そうだルーク、次は北部都市のカムリバーグに行こうと思ってるんだけどいい?」

 「南部から始まってこの西部に来て、次は北部か。その順に回ってんのはなんか意味あんのか?」

 「ない。ノリで」


 ルークが美波にジトっとした目を向ける。


 「それでしたらお二方、是非当家の馬車に乗っていってください」


 護衛依頼を受けずタダで移動できる都合の良い申し出に美波はすぐさま飛びついた。

 そしてよく朝、予定通り北部都市カムリバーグへと旅立った。


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