18 ワゼンでの休日
学校のない日曜日。
マーガレットに誘われて美波とルークは、最近学院の近くにできたというカフェに来ていた。
マーガレットは見るからに高級そうな生地と縫製のワンピース姿、お洒落着を持っていなかった美波は屋敷の侍女に借りたシンプルなワンピース、ルークも同じく借り物のシャツとスラックスにジャケットを着ている。
人気店らしく、少し待ってから入った店内はアースカラーを基調としており、天井や壁、テーブルにはドライフラワーが飾られている。
4人掛けの席に美波とマーガレットが対面して座り、美波の隣にルークが座った。マーガレットが『可愛くお願い』して連れ出したルークは店の華やかな雰囲気に若干居心地悪そうにしている。
「ここのお店はスイーツがどれも美味しいのですって。……どうしましょうミナミ、種類がありすぎて選べませんわ!」
マーガレットがメニューと睨めっこしている。
「ほんとだ。1個、いや2個くらい、いっちゃう?」
この世界に来てからスイーツを食べる機会がなかった美波は甘いもの欲が爆発している。
口調もいつもの敬語ではなく、『せっかく3人で遊びに行くのだから友達のようにお喋りしましょ?』というマーガレットのお願いで2人とも砕けた話し方だ。
「そんなに食べられませんわ!」
「やっぱり?」
2人は言い合いながら一向に注文が決まる気配がない。
「とりあえず2個注文しろ。食い切れなかったら食べてやるから」
ルークがため息をつきながら提案する。
「素敵な提案だわ! ありがとう!」
マーガレットは花のように顔を綻ばせる。
「さすがルーク。3週間毎日UNOに付き合ってくれた男は違いますね〜」
「うるせぇ」
テーブルはそれぞれ注文した紅茶やコーヒーと、ケーキ6皿で隙間なく埋まっている。
「ところで、ミナミとルークは付き合ってますの?」
マーガレットが唐突に始めた話題に2人は口の中の物を吹き出しそうになる。
「っげほっ! いきなりなに!?」
美波はギリギリでケーキを飲み下す。
「だって、冒険者の男女が2人きりでパーティを組んでるなんて、誰だってそう思いますわ!」
確かにマーガレットの言うとおりで、男女ペアの冒険者は大概夫婦かカップルである。それ以外の場合は男女複数人のパーティである。
「ルークと私はそういう関係じゃないから!」
美波が慌てて否定する。
「こいつと付き合うやつなんかよっぽどの物好きだな」
ルークは唇を歪めて笑う。
「自分がちょっとイケメンだからって調子乗るな」
「自分が男に声かけられないからってひがむな」
ガルガル威嚇する美波をルークは余裕の笑みで受け流す。
「ふふふ、仲がいいわね」
「やめて!」
「やめろ」
マーガレットの言葉に2人は食い気味に否定した。
「それよりマーガレット、今日は外出るの怖かったりしない? 大丈夫?」
美波が話を変えるついでに気になっていたことを聞く。なにせマーガレットはストーカー被害真っ只中である。
「えぇ、大丈夫よ。1人だったら出歩く気は起きなかったかもしれないけれど、今日は2人がいるもの」
マーガレットはニッコリ笑う。
「魔法が使えるとは言え、現状1人で出歩くのは危ねぇ」
「ストーカーのせいで出歩けないなんて癪だなぁ。付きまとう気も失せるくらいボコったらダメ?」
優雅にコーヒーを飲むルークの横で美波がケーキにフォークを突き刺しながら憤る。
「駄目に決まってんだろ脳筋。それ過剰防衛どころかただの暴行だからな。捕まりてぇのか」
「なんだとぅ。脳に筋肉つくほど鍛えてねぇですよ」
「そういう意味じゃねぇだろ」
2人の軽口の応酬にマーガレットはクスクス笑う。
「でも迷惑行為ってことで兵士が対処してくれたらいいのにねぇ」
美波の呟きに2人とも頷いた。
こうして3人の優雅な休日は流れていく。




