13 冒険者からメイドにジョブチェンジ(?)
投稿する前に想像していた10倍くらい読まれていて嬉しいです。ありがとうございます。今後も頑張ります。
南部都市セレゥ領は世界の海洋貿易の中心地であったが、陸路での中心地は西部都市ワゼンである。
美波たちはワゼンを通って西方各国へ商品を運ぶ商隊の護衛として同地へとやってきた。
道中の1週間に出た魔物も大して危険なものはおらず、平穏無事な旅路であった。
「やってきました! 西部都市ワゼン!」
例によって荷馬車の御者台に座っていた美波は、領門を無事通過した瞬間手を広げて大声を上げる。それを今回は御者としても活躍したルークがやれやれと肩をすくめた。
領門をくぐってすぐに商隊と別れた2人はギルドのワゼン支部へと向かった。
「今度はどんな依頼がいいかなー? 周辺地域の魔物討伐か、魔物の素材集めか、お店のお手伝い系か、何か面白そうなのがあればいいけど。要人警護とかでもアリ」
美波は目を輝かせてルークに話ながらギルドに入る。
依頼完了報告をしに受付に向かいがてら掲示板の依頼を目の端に入れた。
「あった。要人警護依頼」
美波が思わず足を止める。想定ランクはC。受注可能なランクだ。依頼書の詳細を読み進める。
「んんー、貴族令嬢のストーカー対応。うわぁ大変……。条件は受注パーティには女性がいること、か。なるほど、それはちょっとハードルが高い」
冒険者はきつい・汚い・危険な3K労働ゆえに、もともと女性の割合が少ない。それに加えてCランク以上となるとさらに少ない。だから夕方という冒険者が依頼を終えて帰ってくるような時間帯でも依頼が残っていたのだろう。もしかしたら数日貼りっぱなしだったかもしれない。
「ルーク、この依頼どう? 誰も受けなかった結果、事件になっても嫌でしょ?」
「お前、俺の意見聞く気ねぇだろ。……まぁいいんじゃねーの?」
美波は依頼書を受付に持って行った。
ワゼン領内に別宅を構えている一代貴族のリトルフォード男爵家の屋敷は領都のはずれにある。
その屋敷の主人、ジェームズ・リトルフォード男爵は、先のカディス侵攻の際に特別隊隊長として活躍し、貴族に叙された人物である。しかしその時に脚を負傷し、今は領地経営に専念していた。
美波たちは、乗合馬車の停留所から歩いてそこにやってきた。
屋敷の門からは美しく整えられた庭と貴族の屋敷にしては慎ましやかな建物が見える。美波たちは門を開け前庭を通り、屋敷の扉をノックした。
出迎えたのはこの家の家令と思われる風格漂う70過ぎの男だった。
「依頼を受けてくださった冒険者の方でしょうか?」
やり手の男は一瞥しただけで見抜いた。
「はい、Cランクのミナミ・カイベと後ろがAランカーのルークです」
「よくぞお越しくださいました。どうぞ中へ。ただいま主人を呼んでまいります」
美波たちを応接室へ通し一礼すると、家令は男爵を呼びに部屋を出た。
「貴族の屋敷ってもっと大きくて豪華で調度品もいっぱいなイメージだったんだけど」
美波が部屋を見回しながら感想を述べる。
「公爵家や侯爵家はそのイメージ通りの家だな。リトルフォード家は10年前の功績で叙された一代貴族だからこれが普通。領地も大きくないから収益も少ない。普通は領地にいるはずだが、例の令嬢がここの領地にある学校にでも通ってんのかね」
スラスラとルークが説明する。
「確か一代貴族って爵位を子供に継げないんだっけ? で、平民から男爵に叙された人のことを言うんだよね。っていうかルーク詳しすぎない? 公爵家の家の中なんて普通知らな__」
言い終わらぬうちに男爵が到着し、うやむやとなった。
「私がジェームズ・リトルフォードです。この度は依頼を受けてくださり感謝します。どうか、娘を助けてやってください」
そう言ってブラウンヘアの頭を深々と下げる。美波は慌ててソファーから立ち上がった。
「頭を上げてください! あの詳しくお話を聞かせていただけますか?」
この国は6歳から15歳までの大多数の子供は領内の国民学校もしくは私立学校に通い、それ以降は主に金銭的に余裕のある家の子供が進学する。つまり裕福な平民とわずかな奨学生、貴族の子女は国内主要都市にある3年制の『王立学院』へと進学する。余談だが、進学者の中でも特に優秀な者は王立学院ではなく、4年制の『王都学院』へ行くことになる。男爵の娘、マーガレットは王立学院ワゼン校に通う18歳の少女だ。
王立学院は周辺道路を渋滞させないため、特別な事情があるものを除き、馬車での通学を許可していない。そのため、マーガレットもこの屋敷から王都中心地にある学院まで徒歩で通っている。
問題はその通学中にあった。マーガレットは1カ月ほど前から、下校中に毎日30代前半くらいの男がいることに気づいた。彼女は最初『男もこの時間にいつもこの道を使っているだけだろう』と気にしなかった。
しかし気になって男の動きを追ってみると男はマーガレットが学校を出てすぐの道から家のすぐ近くまでついて来ていることに気づいた、という話だった。
「おふたりには登下校時にマーガレットの護衛をお願いしたいのです。貴族の子女は登下校時に使用人を伴うことが多いのですが、当家には余裕がなくマーガレットは1人で通学しています。実害がないので馬車通学申請も通らず、憲兵にも相談できず……。なので使用人が毎日ついていると分かって諦めてくれればと。そのようなわけで、おふたりにはしばらくの間メイドと執事に扮して護衛をお願いします」
男爵の言葉に美波は目を丸くし、ルークは顔を顰めた。
話が終わると、男爵夫人とともにマーガレットと思われる女の子が応接室に入ってきた。
夫人の方に似たらしい、クルクルとした巻き毛が可愛いブロンドの少女だった。
お互いに挨拶を交わして明日からの段取りを確認する。
こうして美波たちは翌日からメイドと執事になることが決まった。
部屋数だけはあるから護衛任務の間は当館に泊まってくれ、という男爵の言葉に甘えた美波たちは、翌朝、貸与されたメイドと執事に着替え、お嬢様の出発準備が整うのを玄関ホールで待った。
念のため、それぞれ服の下に剣を仕込んでいる。
「ルーク、なんか妙にサマになってませんか?」と美波がまじまじと見ると、彼は「気のせいだ」とそっぽ向いた。いつもの不機嫌そうな顔が悪化している。
「本日からマーガレットお嬢様の護衛を勤めます。どうぞ安心して通学なさってくださいね」
緊張した面持ちで玄関ホールやってきたマーガレットに、美波が安心させるように笑いかけ、3人は屋敷を出た。
男爵家は領都の外れにあるため通学には片道40分かかる。今日から2週間ほど護衛をし、それでも男がストーカー行為をやめない場合、美波たちが男に行為をやめるよう直接注意する段取りになっている。
「マーガレット様は学院で何を学んでいらっしゃるんですか?」
美波はせっかくならと護衛中に貴族令嬢との会話を楽しむことにする。この国の身分制度はそれほど厳しいものではないものの、支配者階級ではあるため、一般的に平民は貴族に対して丁寧な対応をする。美波もお嬢様に対しては依頼主でもあるし敬語だ。
「学院は必修科目に加えて、色々な授業の中から5つを選択して、1年間学ぶことができる仕組みなのですが、わたくしは今年は文学とアラミサル王国史、ゾルバダ語に社会学と魔法学を選択しておりますわ」
選択する授業は少ないけど大学みたいだな、と美波は興味を引かれた。
「どんな基準で選んだのですか?」
「わたくし、卒業後は領城か王都で文官をしたいと思っておりますの。ですので、文官になるために必要な授業を1年生の時から取っておりますわ。……文学だけは趣味ですけど」
マーガレットは顔を手で覆い、はにかんだ。
(この子、すごく整った可愛い顔をしてるけど仕草もめっちゃ可愛いんだよね。ストーカーの気持ちがちょっとわかっちゃうような……)
40分かけて歩き、学院の門前に立った。校門のところからは広大な運動場と平行に3つ並んだ校舎が見える。登校してきた生徒らは使用人と短く挨拶を交わし学校へと入ってゆく。美波もそれにならってマーガレットと向かい合う。
「それではお嬢様、いってらっしゃいませ」
40度のきれいな礼をする。しかしそれはメイドのものではなく、見るものが見れば明らかに騎士の礼だった。応用が効かない美波である。
ルークはそのまま帰ろうとしたが、美波に挨拶を強要され渋々礼をした。こちらはきちんと執事の礼になっていた。
その姿は意外にもサマになっており、美波は少し驚いた。
マーガレットもふふっと笑って応えた。
「えぇ、ミナミ、ルーク。行ってくるわね」




