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Living Together!  作者: 真夏
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飲み会

 うだるような八月の土曜の昼、レイは掃除を終えて居間の床に寝転んだ。

 ミータのためにこの部屋は常に二十七度を保っているため快適だ。


 「あんたが部屋が汚いとキレるから毎日のように掃除をしないといけないのよ」

 レイがすり寄って来たミータに愚痴っているとニイが部屋に入ってきた。

 「毎日暑いな」

 「珍しく家にいるね」

 「こう暑いと家から出る気も起きない」

 ニイはそう言うとクーラーの温度を下げた。


 イチは無事に免許を取得し今日はバイトだ。ヨンは怪我のため病院に行っているが、おそらく通院も終わるだろう。

 ニイとレイは昼食を取ったあと、ミータが横になっているソファの前の冷たくなった床に座り込む。

 「レイ、今フリーだろう?」唐突にニイが言った。

 「うん。誰か紹介してくれるの?」

 「いや、でも念のために聞いておく。どんな男がいいんだ?」

 「素の私を受け入れてくれる人」

 「それは難しいな」

 レイは思わず笑って、ニイにクッションを投げつけた。

 

 ニイはクッションを片手で受け止め、枕にしてスマホでかったるそうにメールを確認した。

 「何かあった?」

 レイの声でニイは驚いたように顔を上げた。

 「えっ?あー、大丈夫だ。夕方会社に行って少し仕事片づけてくるかな。戻りは遅くなるから玄関のチェーンはかけないでくれ」

 最後のセリフはミータに対してだ。ミータはニイに指された人差し指に頭を擦りつけ喉を鳴らした。


 この家では誰が何時に帰って来るかわからないのでチェーンをかけたことがない。チェーンで遊ぶのがミータの最近のブームなのだ。

 策を考えないと夜中に玄関チャイムで起こされることになるが、それよりもさっきのニイの表情の方がレイは気になった。

 ニイの表情が一瞬曇ったことを本人は認識しているのだろうか。



 その日、ニイは帰って来なかった。翌日戻って来たニイはいつもと変わらない様子だった。




*******




 八月のお盆の時期。

 今日、社会人の三人はそれぞれの会社で飲み会だ。

 ニイの提案で遅くなる日だけキッチンのカレンダーに各自予定を書き込むようになっていた。今回、ニイは暑気払い、ヨンは快気祝い、レイは案件の打ち上げだった。

 


 レイは会社の飲み会にほとんど参加してこなかった。

 イチが大学生になるまでは忙しかったからだ。というより、イチが気になって早く家に帰りたかったからだ。イチからするとレイがいない夜に羽目をはずしたかったに違いない。


 寂しい気持ちをイチの面倒をみるということで補っていることに気付いていたがやめられなかった。

 イチが高校を卒業したのを機にレイは意識してイチを放任するようにした。そして自分も会社の飲み会に参加するようになり、最近では普通に楽しめるようになっていた。

 ただ私的な事を聞かれるのは気まずかった。

 本当のことを言うと聞いた方がもっと気まずくなる。端的に言えばレイは「三人の男と暮らしている」のだ。そして両親がいないと聞いた人の反応は嫌と言うほど知っていて、それはレイを多少なりとも傷つけるものだった。


 だから会話をかわす術を身につけていた。

 今、若手男性社員との会話もそうだ。

 若手男性社員:「どこに住んでいるんですか?」

 レイ:「東京の下町」

 若手男性社員:「一人暮らしですか?」

 レイ:「ハデスと住んでる」

 若手男性社員:「ハデス?」

 レイ:「ギリシャ神話のハデス知らない?黄泉の国の支配者」

 いつもこの辺で話が脱線する。今回も同様だった。



 レイのいる部署は三十人弱で若手社員が多く、そのため異動も多い。

 今回の飲み会は案件の打ち上げということもあり、仕事の失敗談やトラブルの話で盛り上がっていた。

 「レイさんは失敗談ないんですか?」同じチームの後輩が聞いてきた。

 「あるよ。海外チーム宛のメールにHelloじゃなくて Hell(地獄)って書いちゃったりね」

 小さな笑いの後のレイの言葉に沈黙が広がった。

 「それにアシスタントをクビになったから、この仕事をしているんだよ」


 何をしでかしたのかと皆が思っていたところに部長が口を挟んできた。

 「ある特定の人を一発殴りに行くって言うから部長の権限で隔離したんだ」

 ぬるくなったビールを平然と飲んでいるレイを皆んなが驚いて見ていた。

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