人を食う猫又お兄さんに屠殺される話
吹雪には逆らえない。
今は9月頃で軽い気持ちで低山に上ろうとしていたのが間違いであった。
登山口から山頂までは快晴であったのにもかかわらず、下山し初めてから急に寒くなり雪まで降り始めた。やがて風が強くなり吹雪まで出始め、地図を見る隙さえない。
何故か今日は時間がたつのが早く、もう日が暮れ始めた。これはおかしい。
胸がざわざわしながら、歩を早めた。
しばらく歩いて、登った時には見かけなかった民家があった。完全に道を間違えたようだ。
思いきって道を聞いてみようか…?
しかし、こっちもあっちも怖いだろう…俺は気まづさに負け民家を通りすぎようとした。
きいぃ…と、民家の扉が開き、中から黄色い光が洩れ、住人が出てきた。
俺は不意をつかれて、反射的に足をとめ、住人の姿を見た。
猫…?ジブリに出てきそうな二本足の三毛猫が出て来て、こちらに手招きをしながら言った。
「おやおや、道にまよわれましたか?寒いでしょう。ちょうど茶を入れましたので一緒に飲みませんか?吹雪が止むまで、休んでもよいですよ。」
普通なら知らない人を親切心であっても家で休ませたりなんかしないだろうし、タイミングが良すぎてしかも一目見て何も聞かずに迷っているだろうなんて言うのだ、怪しすぎるのだが、何故か俺は…生返事をして中に入ってしまった。
三毛猫は俺を先に入れ、扉の鍵をがちゃりとかけた。さっき開けたとき、鍵をあける音なんて聞こえなかったが…?
家の中は意外と狭く、一人用の簡易ベッドと台所、
木製の椅子二脚と丸テーブル、そして暖炉のみの簡素な山小屋という感じだった。
入ってきた扉とはまた正反対に裏口と推察する扉があって向こうはわからない。
椅子におかけくださいと言われた通りにかけるとお茶が来るのを待ちながら寒さで消耗した体をちぢこませる。
「すーぐ用意しますからねー」
と言いながら三毛猫は俺の後ろを通り、いかにも鋭そうな湾曲した爪で器用にお茶の入った湯呑みを置いた。
「ね、猫さんは飲まないんですか?」
「いや~頂いてます。」
俺の後ろに立ったまま、器用に湯呑みを持ち、湯気の出ていないなにかを飲んでいる。
ずずずっと啜った茶の熱さはほどよく、そしてかなり甘かった。甜茶より甘い。
思わず俺は一口飲んで口を離した。そして、意識がふっととびそうな眠気が来て、湯呑みの中身をこぼしそうになった。
「あ…ねむ…」
「疲れたんですね…大丈夫…寝てていいですよ。」
「へ…?」
椅子ごと体を引かれ、
三毛猫が抱きつくように俺の胴体を持ち上げ、。
そして肩に担いだ。手足に力が入らなかった。
「な、何を…」
「すいませんね…食べ物が少ないもので、せめて苦しみがないように鎮痛剤をたくさん入れたんですよ。」
「あっ…あ…」
「驚いたでしょう?実は雪なんて振ってないんですよ。私の幻術も捨てたもんじゃないですねぇ」
運ばれていった先は…裏口だろうか?
そして外の風景と血溜まりが視界に入った。野ざらしの椅子に座らされ、みけ猫がろーぷのようなものをとる。そこは雪どころか水溜まりもなく物干し竿にまっ逆さまに吊り上げられた熊、うさぎ、鹿、そして服を脱がされた人間も動物達とおなじように首をぱっくり引き裂かれて、血抜きされていた。
首から垂れた血溜まりだったのだ。そして隅に投げ捨てられずたずたに引き裂かれた血まみれの服。
そして首筋を三毛猫が肉球で後ろから撫でてくる。
「ふふ、察しがいい…今から解体されて美味しい肉になる気分はどうですか?今から…首を開いて、
服を引き裂いて、あなたを吊るし、血を抜きます。だから、苦しまないように、先に、首を締めて、
殺してあげますね?」
「や、やめ…」
目尻に涙を溢れさせた男の首に三毛猫の両手の平の暖かい肉球が触れ、男の呻き声が鈍い音とともに途絶えました。
意外と近くで猫又が人や動物を食って暮らしていることはあるのです。本当です。
下山にはくれぐれも気を付けて。