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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「cotton candy」

作者: 霧月 神











君は甘いわたあめの様な存在……











「cotton candy」













君はふんわりと微笑み、隣のカレに相槌を打つ。

それは特別なことではない、小さな日常の光景で。









僕はいつも気にも止めたことなんて無かったんだ。










ただ、その日は……




微笑む君と隣のカレが




口付けをした。









隣のカレと君の影が重なるソレを

僕は見て、しまったのだ。














それは一瞬。











だけど余りにも衝撃的な一瞬で。










口をあんぐりと空けた僕は、君とカレに気付かれてしまったかもと内心ヒヤヒヤした。































~僕は、しがない物書きです~




















執筆が止まると来る、小さな喫茶店。

そこは、軽食は旨いが珈琲はイマイチ。






しかし、外を一望出来る窓側の席は、

物思いに更けるのには最高で。


思いついた言葉を綴るメモ帳を片手に

たまに訪れる。



僕は、この喫茶店のちょっとした常連だったのだろう。

















四月。




散り急ぐ桜が舞う季節に初めて君を見た気がする。

日常の中に溶け込んでいて、あまり記憶にないが…。











煮詰まった文章を投げ出して、不規則な時間に飯を食いに出た。








桜舞う窓辺から外を眺めれば、まだ色褪せていない初々しい制服に身を包んだ子供たちの帰宅時間だった様で、

キラキラした窓枠の風景に、懐かしさを噛み締めた。













そんな時、不意に目に入ったのは

まだ切り立ての髪を気にする『君』









他の子供たちとは少しだけ纏う空気が違ったからか、なんとなく気になった。













桜舞う季節から、この窓枠は私だけの『絵画』……否、『映画』になり、










『映画』の主人公は『君』になっていた。













春が過ぎ、夏が来て……











落ち葉舞い散る季節になると、









『君』の隣には『カレ』がいる様になった。












いつも一人だった『君』の映画は、

『君』に『カレ』が笑かける映画に替わり、




胸が少し、ほんの一瞬モヤモヤした気がしたが










それも気にも止めることなく、忙しい日々の中の一時を喫茶店で過ごした。















そして…










落ち葉が落ちきって、冷たい風が吹き抜ける様になった時に。













窓枠のスクリーンで『カレ』が『君』に







口付けをしたのだ。










美しい青春映画の一幕には有りがちだが











いつの間にか、主人公の『君』に夢中になっていた私は







口をあんぐりと空けたまま………

ソレから目を離せずにいた。多分、数瞬だけ。

















『君』が『カレ』の口付けを拭うなんて行為を見る前に、









私は窓枠のスクリーンから離れてしまったから。













急ぎ足で家に戻り、

原稿用紙の前に腰を下ろすと……











「…は…はは……」













渇いた笑い声が溢れた。















そうか







私は、







自分が思うよりも













『君』を………






















書こう、『君』をモデルにした物語を。








それは、綿飴の様にふんわりと甘くて



すっ……と消えてしまう











淡い恋の話

























「先生、書けましたか?」

「Σ春野!!!」










ビクゥゥッッ!!!!

背後からの冷たい声にビクつくのは条件反射で。








「時代背景変えたりするから書けないんですよっ!!!」










全く……







と、言いながら

原稿用紙替わりのPcを覗き見る春野は、俺の担当で←










「大体『私』ってなんすか私ってww…先生、私なんて一回も言ったこと無いじゃないすかww」

「…いいじゃないか、これは俺の独白的ノベルじゃぁなく、『私』と『君』の淡い……」



「…淡い恋の物語、ですよね。作家先生はこの後も「君」に淡い恋を持ち続けるんですもんね?…『俺先生』と『春野オレ』みたいな…肉欲の無いピュアな恋……」




「あー、あー、あー………それは春野が泣いて俺にすがり付いたから…」

「泣いてないですし、それは策略ww」











ケロリとした態度なコイツは、あの淡い恋をした五年後の『君』

すっかり逞しくなった精神力の片鱗は、あの頃から頭角を露にしていた様で←








文章(これ)の時っ!!ずっと気になっていた男がいるって相談をしてたらいきなりキスされたんだから!!!……んで、「気になっていた男」を見たら居ないしさ~!!ツレだと思ってたヤツからは迫られ続けるしで……ちょっと凹んだのは確かだけど…。…で?原稿はいつ上がりそう?」










するりと背後から抱き締める『俺』の『担当で初恋の人で現在の恋人』が頬擦りをする。












「…〆切までには…」

「……えー、じゃあ後二日?…早く上げて、歳下の恋人と肉欲を貪ろうとか考えないの?」


「Σ肉欲言うなさっきから!!!…そしてソレを求めるなら邪魔をするなよ…つか担当なら尚更……」



「はいはい先生?…早く原稿あげて、俺を抱いてね(はぁと)」

「…はぁ……元よりそのつもりだっての。…さて、執筆再開」
















淡い恋の物語を書こう。













あの頃の恋は、愛に変わりつつあり、










淡く消えてしまう綿飴はキラキラしたカタマリの飴玉に変わりつつあるけれど。














『私』の物語の様に

あの頃の『俺』の恋は、












春色の










「cotton candy」


















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