9回目 危険な稼業のなれの果てを再利用
「さーて、まだいるかな」
樫山探索者協会を出て、少し急ぎ気味に歩いていく。
「無事ならいいけど……」
剣呑な事を言いながら目的の人物のたまり場に向かう。
探索者の町でもうろんな事で有名な場所。
低所得層が集まる区域。
そこでも更に掃きだめとされるような部分へ。
危険と隣あわせの探索者。
成功すれば儲けも大きいが、一度の失敗で人生を失う事にもなる。
大怪我で現役を続けられなくなった者などがそれだ。
そうした者達は、日常生活に戻る事も出来ない。
ちょっとした怪我なら良いが、手足を失うなんて事もあるのだ。
そうした者が普通に暮らせるほど、この世界は甘くは無い。
その瞬間に労働力としての能力をほとんど失うからだ。
そうした者を雇うような者は皆無である。
そんな者達が集まってる場所。
そこへとソウジロウは出向いていく。
土産に保存食を途中で買い込んで。
時折こうして現役離脱を余儀なくされた者達の所に出向いている。
ただ、今日はいつもと違って目的がある。
出向いた区域の更に外れ。
家と家の間の路地や、ちょっとした隙間。
そこに入っていき、その先へと向かう。
もう町の外としか言えない場所。
そこに、ソウジロウが渡したテントがいくつか張られている。
「よう、まだ生きてるか?」
声をかけるソウジロウ。
それに応じるようにテントから何人かが出てくる。
「おう、生きてるよ」
「そいつは良かった。
差し入れだ」
「ありがてえな」
そう言って起き上がった者達は保存食を受け取っていく。
そんな彼らは、腕がなかったり足がなかったり、片目がなかったり。
迷宮探索で様々なものを失っているのが一目で分かる。
中にはまだ若い、二十歳にもなってないような若者すらいた。
そんな若さで既に人生の可能性の大半を失ってしまってるのだ。
これが迷宮探索者の偽らざる現実である。
現役でのし上がる者もいる。
そこそこの所で稼ぐ者もいる。
だが、こうして人生の大半を失う者もいる。
命を失う者なんて、それこそごまんといる。
最悪からは逃れられたとは言えるだろう。
生きてはいるのだから。
しかし、生きてるからと言って幸せとは限らない。
彼らはそんな状態だった。
他人事とは思えないので、ソウジロウはこうして差し入れをもってきていた。
それで、ここの連中とは面識がある。
「それで、今日も差し入れか?」
「まあね」
この中の代表者的な者がソウジロウに応じる。
他の者は、保存食を分け合っていく。
また、町外れのこの近隣で、自給自足のために働いている。
無許可無申請ではあるが、田畑を作って、どうにか食い扶持を確保していた。
そんな彼らにソウジロウは、
「仕事を持ってきた」
と告げる。
「この度、めでたくリストラされまして」
「そりゃ豪快な話だな」
「それで協会を移籍した」
「良くある話だな」
探索者界隈ではさほど珍しくもない事である。
「それで、今にも潰れそうな所に行ったんだけど。
ここが人手不足でね」
「それで俺たちに?」
「そういう事」
「そりゃまあ…………ありがたい話だな」
まともな働き口がない者達である。
稼げる仕事があるなら喜んで出仕する。
ただ、それでも内容は確認しなくてはならない。
「どんな内容だ?」
「それはこれからだな」
そこはソウジロウもはっきり出来ない部分だった。
「協会長のオッサン次第だし。
ただ、それでもやってもらいたい仕事はある」
「何を?」
「新人研修」
「なんだそりゃ?」
代表者は怪訝そうな顔をした。