8回目 先払いで色々用意してもらう、これが先行投資になるよう願いながら
「あー、なるほど」
受付のオッサンかつ、この協会の協会長。
そんな人物を前にして、ソウジロウは笑った。
「そっかそっか」
「ご理解してくれたかね?」
「ええ、もう十分すぎるほど」
うらぶれた協会だ。
人もろくに雇えないのだろう。
協会長が実務をこなさねばならないというところか。
「もしかして、一人で全部?
そんなに大変なの、この協会?」
「手伝いをしてくれる人が何人かいるが。
正式な職員は儂一人だな。
それくらいには大変だぞ。
抱えた借金で」
「なるほど」
だいたい聞いていた通りである。
ただ、それがどの程度なのかははっきりさせておきたい。
「それで、借金てのはこの協会が潰れるほど?」
「このまま返済が滞ればな」
「それって支払いきれないってやつ?」
「かなりギリギリだな。
利子すら返せてない」
「大分まずいな」
「そうだよ、かなりまずいんだよ」
危機的な状況である。
だが、協会長は笑った。
「まあ、こんだけ大変になれば、慌ててもしょうがない。
笑ってないとやってられんよ」
「そりゃそうだろうけど」
気持ちが分かってしまうのがなんとも言えなかった。
地下迷宮でにっちもさっちもいかなくなった時、そんな気分になる。
慌ててもしょうがないから開き直る。
そういう心境なのだろう。
「でもまあ、とりあえず協会として機能してるならそれでいいよ」
「どれだけ出来るか分からんがね」
「装備品や消耗品の調達。
所属探索者からの情報収集。
集めた情報の整理とまとめ。
治療と宿があればとりあえずは」
「まあ、そこらは一応あるにはある。
ご期待にそえるかどうかは分からんが」
「あるならいいよ。
適正価格で提供してくれるなら」
「ぼったくりも違法行為もしてないから、それは安心してくれ」
ソウジロウからすればそれで十分だった。
「それで、所属してる探索者は?
何人くらいいるの?」
「まだ、15人くらいはいる。
全員新人に毛が生えた程度だがな」
「へー。
こういっちゃなんだけど、意外に残ってるんだな」
「ありがたい事にな」
「うん、それだけの戦力があるならどうにかなる」
ソウジロウにとってはそれで十分だった。
数だけは揃ってる。
「それと、俺からもあちこちにいる連中に声をかけてみる。
どれだけ引っ張ってこれるか分からないけど」
「そりゃありがたいな」
人員増強が急務な衰退協会だ。
頭数が増えるだけでもありがたい。
「戦力になるかは分からんけど」
「よほど酷い人じゃなければかまわんよ」
そんな心境である。
「じゃあ、ちょっと出てくる。
出来るだけ声かけてくるから」
「ああ、わかった」
「それまでに、色々揃えておいて。
先払いで置いてくから」
そう言って金を出していく。
手持ちの中から、50万円(現代日本の貨幣価値と同等)ほどを。
「これで揃えておいてくれ。
薬と治療品と野外生活用具を。
あと、車の手配もお願い」
「…………何人分だ?」
「新人全員分。
それと、もし人を連れてこれたらそいつらの分も」
「分かった、何とかしよう。
それで、いつから出発するんだ?」
「新人が帰ってきて、休日一日か二日をはさんでから。
そのつもりでいる。
いつくらいに帰ってくるの?」
「予定通りなら、あと二日だな」
「じゃあ、五日後に出発予定で」
「分かった。
それに合わせておこう」
さすがは協会長、少し驚いたが、仕事は的確にやってくれるようだった。
「しかし、いいのか?
これだけの金をいきなり出して」
「それを取って逃げ出すかもって?
借金漬けなのに、たかだか50万で?」
どれだけ膨れ上がってるか分からないが、50万でどうにかなる程度ではないだろう。
「持ち逃げするにも、たったそんだけのはした金で?
どう考えても割に合わないじゃん」
「まあ、そうなんだがな」
「だったら問題ない」
それが分かってるなら問題は無い。
損得の計算が出来るなら、ここで逃げるような事はないはずである。
「それで逃げるんなら、この協会を俺がもらっちまえばいいんだし」
「それはそれで酔狂じゃないか?
こんな潰れかけの協会なんぞ」
「看板があるのと無いのじゃ全然違うから」
何もないよりは、何かしらあった方がマシである。
廃墟や瓦礫でなければ。
「まあ、確かにな」
「それを50万ぽっちで売るなんてもったいないこと出来る?」
「出来んな、もっとふっかけないと」
「なら、安心だ。
持ち逃げされる心配は無い」
されても損は無い、とは言わなかった。
言うまでも無く伝わっている。
「あと、帰ってくるまでに用意しておいてくれ。
寝床と旨い飯を」
「ああ、分かった。
快適かどうかは分からんがな。
味のほうもあまり期待しないでいてくれよ」
「……いずれ改善される事を期待しておくよ」
そう言ってソウジロウは人集めに出向こうとする。
「ああ、待ってくれ」
「うん?」
「用意する部屋と飯は何人分だ?
集めた人間の分もいるなら用意するぞ」
やはり協会長である、そのあたりもしっかり分かっていた。
「保存食でいいよ、来るかどうか分からないから」
「なら、そうしておこう」
アクションの部分はもうちょっと先になりそう