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7回目 場末の寂れた協会を選ばざるをえなかった、だからここを選んだ

「こんちはー」

 気のない挨拶をする。

 応対した職員は、そんなソウジロウを物珍しく見つめる。

「何かご用で?」

「探索者登録に。

 移籍しにね」

「わざわざウチに?」

「ああ、そのつもりだ」

 職員はしばし呆けたようにソウジロウを見つめた。



「まあ、ここがどうなってるのか、話は聞いてるよ」

「それなのにか?」

「ああ。

 そんな所なら俺でも入れてくれると思ってね」

「…………犯罪者は無理だぞ、さすがに」

「安心してくれ、そんなんじゃない」

 さすがにそこまで腐ってはいないようだった。

 それが分かってソウジロウは安心した。



「リストラされたんだよ。

 だから、余所じゃ入会を断られそうなんだ」

「なるほどな」

 それで職員は納得出来たようだった。

「世知辛いもんだな、探索者ってのも」

「今更だよ」

 オッサンはため息を、ソウジロウは肩をすくめるしかなかった。



 旅団や協会を変える。

 口で言うのは簡単だが、そこには様々なしがらみが発生する。

 そこには関係する様々な者達への評価が出てくる。

 単なる離脱なら、さほど問題は無い。

 事情があってそうなったのだろうで終わる。

 だが、リストラ・解雇となるとそうはならない。



 リストラ・解雇となると、された側の評価が下がる。

 理由や事情によるが、それが一般的な反応だ。

 そういった扱いをせざるえないような事情があるのだろうと。

 実際にどういった経緯があったのかなど関係なく。

 なぜなら、詳細を調べるほど人は暇では無い。

 単に見聞きした覚えやすい出来事だけで判断する。



 ソウジロウも例外ではない。

 他の協会や旅団に移るのは難しい。

 移籍理由を聞けば難色を示すだろう。

 また、先ほど協会の広間で大声で解雇宣告をされている。

 その話はとてつもない早さで広まってくだろう。

 追い出したヨシフサ達もそれを狙っていたのかもしれない。



 そんなわけで、他の協会に出向いても門前払いの可能性があった。

 他の探索者達だって同じような反応をするだろう。



「それが分かってて、わざわざ他の協会に行くかよ」

「なるほどな」

 受付のオッサンも納得したようだった。

「だが、それならなんでウチに?」

「決まってんじゃん」

 意地の悪い笑みを浮かべるソウジロウ。

「ここなら俺でも入れるだろ?」

「…………」

 しっかり足下を見ている。

 そんなソウジロウにオッサンは言葉も無かった。



「見たところ、人もいないみたいだし。

 俺みたいなのでも欲しいんじゃないの?」

「まあ、そりゃそうだが」

「それに、俺なら即戦力だ。

 問題なく活動できる。

 そこそこ活躍してたところでの経験もある」

「まあなあ……」

「入れて損はないはずだ」

 まったくもってその通りだった。



「分かったよ」

 オッサンもあれこれ言いはしない。

 人は喉から手が出るほど欲しい。

 使える人材ならなおさら。

「ここに記入してくれ」

 登録用紙を出して促す。

「それで、何か条件は?」

「とりあえず、三ヶ月。

 提携期間はそれで。

 お互い様子見は必要だろ」

「…………そうだな」

 短くオッサンは応えた。



 協会によるが、たいていの場合期限を決めて契約する。

 一ヶ月とか一年とか。

 その間だけ協会所属として活動する事になる。

 探索者は所属協会に地下迷宮で得たものを持ち込み。

 協会は所属する探索者に優先的に便宜をはかる。

 こうした協力関係・業務提携が、探索者と協会の基本的な関係になる。



「それと、協会のもめ事は俺とは関係なし。

 そちらの借金とかを俺に放り投げたりしないでくれよ」

「そりゃもちろん」

 基本的な事だが、こういった事も確認しておかないといけない。



 恐ろしい事だが、実際にこういった事件も発生している。

 協会が抱えた借金を、知らぬうちに背負わされたという事も起こりうる。

 あるいは、探索者が協会に預けておいた資産を持ち逃げされた、というような事も。

 それを避けるために、探索者もそれなりの警戒をしなくてはならなかった。



 ここがしっかりしてる事が、優良協会の証にもなる。

 突き詰めれば信用だ。

 ここなら馬鹿をやらないという証明。

 それは実績で示すしかない。

 そういう所に探索者は集まってくる。



 ソウジロウはそこにも賭けていた。

 この協会、落ちぶれてはいるが、阿漕な事はしてない。

 経営・運営が左前になっても、探索者の資産などに手を付けたりはしなかった。

 また、離脱していく探索者達にも、別の協会を斡旋するなどしている。

 人が良いと言えるかもしれないし、お人好しと呆れるべきかもしれない。

 だが、正直だ。

 誠実でもある。



(そうでなくちゃ)

 一方的な解雇宣告を受けたソウジロウである。

 能力などよりも、そういった人柄のほうが好ましく思えた。

 嘘をつかない、裏切らない。

 そんな人間でなくては、まともな付き合いは出来ない。



「それじゃ、これで」

 書類を書き上げたソウジロウは、受付のオッサンに渡す。

「ああ、確かに受け取った」

「じゃあ、今日からここに所属で」

「よろしく頼むよ」

「分かってるって」

 遊んでるつもりはない。

 むしろ、すぐにでも動き出したいくらいだ。



「それで、一応顔を見ておきたいんだけど」

「誰のだ?」

「この協会の協会長に。

 いるんだろ?」

「ああ、そういう事か」

 オッサンは頷く。

「それなら問題ない。

 もう顔は合わせてる」

「…………?」

「儂がこの協会の協会長だ。

 一般職員から雑用、使いっ走りも兼任のな」

 そういってオッサンはおどけた表情を見せた。

「樫山マサタネだ。

 よろしくな」

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