43回目 今までとたいして変わらない、それでも少しずつ進んでいる今
「さてと」
樫山探索者協会の受付。
相変わらず繁盛などとは無縁な空間である。
ソウジロウはそんな所に旅団の者達をあつめていた。
「今日から人が入る」
そう言って自分の隣に並ぶ者達を示す。
募集をかけてもなかなか集まらない新人。
その確保の為に、ソウジロウ達はあの手この手を使っていった。
それでもなかなか人は集まらず。
それでもあちこちから一人二人と引き込んでいった。
今日も、そうやって集めた貴重な新人の紹介だ。
「いつも通りだが、迷宮入りするのはもう少し先になる。
二週間くらいは研修をやってもらう」
定番化した台詞を口にして、新人紹介を終える。
新人はこの後、ソウジロウの言った通りに研修を受ける事になる。
引退を余儀なくされた者達による、迷宮探索の基礎講座を。
実際に迷宮に入るのはそれからになる。
また、この時点ではまだ霊気玉は渡してない。
研修の段階で脱落した時の事を考えてである。
そこで霊気玉を渡したら無駄になる。
さすがにそこは警戒していた。
実際、逃げ出した者もいるので、これは当然だろう。
そうして残ったのが19人。
まだまだ零細で弱小な旅団である。
それでも壊滅もせず今も続いている。
人数も増えて戦力も増強されてきている。
歩みは遅いが、少しずつ成長していた。
そんなソウジロウ達の活動は、今では少々変化している。
その一番の理由は、ソウジロウの懐具合だった。
最初の頃は馬車型トラックである程度奥まで進んでいたのだが。
今では徒歩になっている。
これはトラックの賃貸料が払えなくなったからだ。
それだけソウジロウの懐具合はさみしくなっていた。
なにせ、自動車そのものがまだ珍しい。
危険な迷宮にそんな貴重品で乗り込むのだ。
賃貸料も馬鹿にならない。
それを支払い続けるのは困難だった。
念のために言えば、蓄えが消えたわけではないが。
だが、さすがにこれ以上の出費は、と思ってしまった。
その為、迷宮での活動は泊まり込みが基本になっている。
往復の時間を少しでも削るためだ。
ただ、泊まり込みとなると、人数が必要になる。
寝てる間の見張りが必要になるからだ。
一応、化け物除けの香や器具などもある。
しかし、それらも万全というわけではない。
安全確実な方法は存在しない。
最悪の事態への備えは常に必要だ。
幸いにも、トラック使用を控える直前に、人数が確保出来た。
ギリギリの人数だが、夜間の見張りも出来るようになった。
そのおかげで、探索そのものは順調に進んでいる。
収入も確保出来ている。
新人達も成長し、人面虫程度なら簡単に撃破できるようになった。
このため、戦闘における不安はかなり解消された。
倒せる数自体はそこまで大きな変化は無い。
だが、同じ数を倒すのにかかる手間は減少している。
それでも、なかなか先には進めない。
やはり人手が足りない。
ソウジロウはそう判断していた。
先に進むには、まだまだこの程度の人数では足りないと。
(もうちょっと増やして、レベルも上げないと)
そんな事を考える。
安全性や確実性を考えれば、どうしてもそうなってしまう。
化け物が強くなるし、数も増える。
そんな所に、今の人数では不安だ。
何より、稼ぎを増やすには人海戦術が効果的だ。
一人当たりの収入は増えないが、一人に注ぎ込める経験値が増える。
より強力な戦力を確保する為にも、人数増加は必須である。
質の強化はそこについてくる。
とはいえ、ソウジロウの所に来てくれるような者は少ない。
11人が19人に増えるのに三ヶ月かかっている。
以前の旅団でもそうだったが、弱小が成長するのは大変だ。
(気長にやるしかないか)
分かっていることだ。
この現状を受け入れるしかない。