38回目 その頃、彼らは 5
「じゃあ、よろしく」
「ああ、期待に応えてみせる」
新しく迎えた者と声をかけあっていく。
全身甲冑に身を包んだ重装甲の戦士。
それが三人ほど。
更に、それとは別に何人かの軽装の戦士達も。
加えて霊気術の使い手も幾人か含まれている。
ソウジロウの穴を埋める為の人員募集。
しかし、ヨシフサ達はそれだけに留まらなかった。
ついでに戦力強化もはかり、なかなかの能力を示す者達も加えていた。
これにより戦力は一気に向上。
現在の到達深度を更新出来そうな勢いを感じていた。
「ただ、まずは様子見。
それに摺り合わせだな。
あんたのやり方も見てみないと。
それに、俺たちのやり方も見てもらいたい」
「おう、よろしく頼む。
上手くやっていければいいがな」
「なに、心配は無い。
あんたの能力ならやっていけるだろうさ。
むしろ、俺たちが置いていかれないか心配だ」
「ありがとうよ、期待に応えてみせるぜ」
そう言ってヨシフサと新規加入者は笑い合う。
そこには多少の世辞も含まれている。
実際に能力だけ見れば、新規加入者よりヨシフサ達の方が優れてるのだ。
ヨシフサ達が置いて行かれるという事はないだろう。
それを承知の上でお互いにこんな事を言っていく。
こういう事も能力を引き出すのに必要だからだ。
おだてに弱いというのは、人の弱みではあるだろう。
褒められれば悪い気はしない。
そうやって調子づいて、どこかでしくじる。
そうなってしまうからこそ、下手に褒める事も出来ない。
そういう意見も、間違ってるとは言えない。
しかし、褒める・おだてる・世辞を言うのも正しいのだ。
能力があるならそれをしっかりと認める。
認めて褒めるのは間違ってはいない。
正当に評価してるという事なのだから。
仮に能力が足りてなくても、こういった事は必要になる。
今は出来なくてもいずれは、という事で。
やる気を保つためにも、人には励ましが必要だ。
そうやって気持ちを保てれば、先々につながる事もある。
何より今大事なのは、摺り合わせだ。
ヨシフサが言ってるように、これが求められる。
それは戦闘などにおける連携もそうだ。
だが、日常的に顔を合わせる仲になっていくのだ。
余計な摩擦や衝突を生まない事も大事になる。
その為にも摺り合わせが必要になっていく。
その為にも、余計な波風をたてない事も求められる。
それでありながら、必要な事は言えるようにしておかねばならない。
これがとてつもなく難しい。
それでもやっていかねばならないのだ。
「とりあえず、今回はいつもよりは浅いところに行く。
そこで予行練習がてらやり方をおぼえていってもらいたい」
「ああ、分かった。
そうしてくれるとこちらも助かる」
「なに、能力も底上げしてるんだ。
楽勝でこなせるだろうさ」
「たしかに、違いない」
「気は抜けないが、お互いがんばっていこう」
そう言ってヨシフサ達は出発する。
迷宮の奥へと目指して。
貴重な自動車を何台も連ねての出発。
それもまたヨシフサ達が示す偉容になっている。
大手には及ばないが、それを揃える事が出来たという。
それだけの資金を得た、それだけの稼ぎを出す事が出来る。
その証明でもあった。
自然と集まる視線。
それを感じながらヨシフサ達は迷宮へと入っていく。
今日もまた着実な成果をあげられると思いながら。
(やってやる!)
ヨシフサも、ヨシフサ以外の者達もそう思っている。
自分達の明るい未来を確信しながら。
(もっと先に、もっと上に)
確定した事実として彼らはそう思っていた。




