37回目 その頃、彼らは 4
そうして新人を迎えていく。
その際に、彼らはあらためて思う事があった。
採用にあたり、ソウジロウがしてきた事である。
「あいつは本当に…………!」
そこでもヨシフサ達は憤りを感じていった。
今まで、新人の採用にはソウジロウも噛んでいた。
むしろソウジロウは、この点において強く出てきていた。
他の様々な面では控えめだったのに。
むしろ、口出しはあまりしない方だった。
……してきた時は、相当に鬱陶しいものだったが。
そんなソウジロウは、たいてい不可解な人選をしていた。
なぜか能力や技術が低い者を選んでいたのだ。
他に有望な者がいるにも関わらず。
どちらかといえば、使えない者を選んでる事が多かった。
いつもそうだったというわけではない。
時折、能力や技術の優れた者を入れる事もあった。
なのだが、それでも能力だけで選んでるという事はなかった。
優れた者と劣った者。
そのどちらかで劣る者を選ぶ事の方が多かったのだから。
「何を考えてたんだか……」
今となってはもう分からない。
聞きに行けば良いだけだが、そんな気にはなれない。
今更ソウジロウの顔など見たくもなかった。
それに、聞くほど大した意味があるとも思えなかった。
「まあ、気にするなよ」
「そうだ。
今はこれからの事を考えよう」
考え込むヨシフサに、ヒロキとトシタカが声をかける。
それもそうだとヨシフサも思い直す。
「とりあえず、こいつとこいつ、それからこれだな。
こいつらを入れようと思う」
「ああ、いいだろう」
「文句は無い」
書類をみながら決めていく。
いずれも見所のある者達だった。
いずれも防御力の高い者達だった。
装備や技術がその方向に向いている。
重装甲で、攻撃を受ける事に特化した技術が見られる。
「これなら、壁になってくれるだろう」
期待した働きを求められそうだった。
「いつから来てもらう?」
「明日からでもだな」
「やっぱり、早く迷宮に潜りたいか?」
「もちろん。
彼らの実力も見てみたし。
それに、稼がないとな!」
「そりゃそうだ」
「違いない」
三人は顔を見合わせて笑った。
「とにかく、遅れを取り戻そう」
「ああ、そのつもりだ」
「当然!」
三人は声を重ねていく。
ここで留まるつもりはない。
もっと奥へ、もっと先に。
新進気鋭というところを抜けて。
目指すはダンジョンの最奥。
大手が進んで到達したその先。
まだ誰も見たことが無い深奥。
迷宮探索者達が目指すべき場所だ。
危険が伴うのは確かである。
怪我だけでは済まない損失もつきまとう。
それでも、探索者はそこへと向かう。
それだからこそ、探索者はそこへと進む。
そこには様々なものが付いてくるからだ。
名誉。
栄誉。
賞賛。
評判。
他の者達からの熱い目。
そして、こういったものがもたらす利益。
それらが探索者達にもたらされる。
評価が高まれば、得られるものも多くなる。
人々は好印象を抱き、それに伴って多くのものがよってくる。
そこには打算も含まれてる。
これはどうしようもない。
純粋な憧憬だけというわけにはいかない。
しかし、それでも舞い込んでくる機会や利益は捨てがたい。
今回の募集の結果もその一つだ。
評判が良い、評価が高い。
だから人がやってくる。
我こそはと思う者が名乗りをあげてくる。
そのほとんどは箸にも棒にも引っかからない小者であってもだ。
腕の立つ者もやはりやってくる。
そういった者達も、名前や看板によってくる。
これだけでも十分だろう。
迷宮の奥を目指す理由としては。
何の報酬もなく迷宮の奥を目指しはしない。
危険だらけの迷宮に挑むのだ。
相応の報いがなければやってられない。
もちろんそれだけではない。
危険を踏み越える。
強敵を突破する。
巨大な何かに挑み、勝利する。
それがもたらす爽快感や達成感もある。
利益だけが理由というわけではない。
浪漫。
そう言って良いだろう。
あるいはこうも言えるだろう。
子供の夢。
そんなものが動機でもある。
食っていくだけだと味気ない。
そこに夢や希望、憧れがあるからやる気も出る。
ヨシフサ達だってそれは変わらない。
もちろん利益が欲しい。
そちらの願望の方が強い。
しかし、それだけではないのだ。
危険と隣り合わせ。
だからこそ乗り越えたいという欲求がある。
それがやって、その先に向かいたい。
その先が見たい。
冒険のその先に行ってみたい。
そんな思いもあるのだ。
もっと危急の理由もある。
地下迷宮に存在する化け物。
これを放置してると、外にあふれだす。
そうなれば多くの被害者が出る。
そうならないようにするためにも、迷宮内で化け物を食い止めねばならない。
英雄だ、ようするに。
英雄になりたい。
そんな思いだってあるのだ。
神話や伝説にうたわれるような。
例えそうでなくても、人々に語られるような。
語り継がれるような。
そんな存在になりたい。
野心と言えばそれまでだろう。
だが、野心であってもあるのだ。
他の誰かを助ける存在になりたいという望みも。
それが出来るような偉大な男になりたい。
そんな願望があるからこそ迷宮に挑む。
その為にも奥まで進まねばならない。
今の場所で足踏みをしてる場合ではない。
「行くぞ、奥まで」
「おう」
「おう!」




