35回目 その頃、彼らは 2
「とはいえ、居なければ居ないで厳しいな」
ソウジロウが出て行った直後。
旅団が拠点にしてる宿で、椎加原ヨシフサはこれからの事を語っていく。
「あれは、ろくに仕事はしなかったが。
だが、完全な無能というわけではなかったからな」
それを聞いて他の二人も頷く。
戦闘担当なのに、あまり前線に出ようとしなかったソウジロウ。
その事にヨシフサ達三人は不満を抱いていた。
しかしそれは、ソウジロウを見くびっていたからではない。
神伝流という流派故に攻撃能力が低いのは仕方ない。
だが、能力は優れていたと認めてはいる。
「しっかり前に出れば良いものを」
不満の理由はそこにある。
彼らは彼らなりにソウジロウを評価はしていた。
自分達より一段か二段は低く見積もってるしても。
それでも、戦闘が出来ないとは思ってなかった。
実際、ソウジロウはそこそこ戦っていた。
諸橋流のヨシフサほど攻撃範囲は広くない。
飛刃流の梶木山ヒロキほど攻撃力も突進力もない。
相羽流の日千里木トシタカほど一撃の早さや鋭さもない。
だが、決して無能でも無力でもなかった。
前線には出てこようとしなかったが、迫る敵は確実に倒していた。
守りを固めてはいるが、全く攻撃が出来ないわけではない。
能力が上がった事もあるのだろう。
稼ぎが増えたあたりから始めた能力増強。
それによりソウジロウの能力も上がってる。
その能力のおかげで攻撃も当たるようになった。
…………ヨシフサ達はそう考えていた。
また、盾としてはそこそこ役に立ってもいた。
神伝流だけはある、というべきか。
攻撃については見るべきものがない。
だが、敵の攻撃を避けて受ける。
その技術は目を見張るものがあった。
その能力があるなら、前に出て敵を食い止めるべきである。
ヨシフサ達はそう考えていた。
だが、そうせずに前線と後方のあたりに陣取っている。
それが問題だった。
「本当にあいつは……!」
怒りが止まらない。
あれだけの防御力があるなら、前に出て敵を食い止めろと。
そう言ったことも一度や二度ではなかった。
「本当に、困った奴だ」
「あの頑固さ、話にならん」
ヒロキとトシタカも同意見だった。
「まあ、いい。
素直に出ていったんだ。
その潔さだけは褒めてやろう」
「もっと絡んでくると思ったんだがな」
「何を考えているんだか」
素直に出ていった事は賞賛出来る。
しかし、我を通したとも言える。
ヨシフサ達の言い分を聞かなかったという意味では。
下手に居座られるよりは良い。
だが、納得も合点もいかない。
くすぶりやしこりがどうしても胸に残る。
「だが、それよりも人だ。
あいつがいなくなった分を補わないと」
「そうだな」
「早速募集をかけよう」
ヨシフサ達はそうそうに行動にうつっていく。
彼らも馬鹿では無い。
やらねばならない事は分かってる。
それを疎かにしたり蔑ろにはしない。
ただ、いくつか見落としてる事がある。
抜けてるというべきだろうか。
思い違いや心得違いとも言う。
ソウジロウの代わりは簡単に見つかる…………。
そんな思い込みを彼らは抱いていた。
いうならばそれは、彼らの視点でしかない。
あくまでそこにこだわり、本質を見てない。
見ようともしてない。
それは、神伝流が守りの流派だと考えてる事にも見られる。
これは幾分仕方が無いものではあるが。
だが、もう一つ決定的に見落としてる事がある。
なぜソウジロウは前に出なかったのか?
どうして前衛と後衛の間に立っていたのか?
その理由を彼らは気にかけようともしなかった。




