32回目 この世界と探索者の生活水準
駆け出しの探索者の生活費はそれほどではない。
もっとも安い宿なら、一泊1000円からある。
食事も、味を問わないなら、一食500円くらいでどうにかなる。
単純に考えれば、一日三食と寝床の確保で必要なのは2500円だ。
もちろん、これは最低限の生活だ。
一泊1000円ともなれば、押入れのようなベッドがあるだけ。
そんなベッドが所狭しと並んでる雑魚寝部屋になる。
快適とは言いがたい。
食事だって、味のついてない雑炊のようなものになる。
あるいは、肉や野菜を煮込んだだけのスープになるか。
味付けなぞされてるわけもない。
そこにご飯やパンなどが少し付くくらいだ。
もう少し快適さを求めるなら、値段も当然高くなる。
広さ一畳半程度でも、個室ならば宿泊費は二倍になる。
もう少し味の付いた料理なら、それだけで1000円くらいはかかってしまう。
これを毎日、というのは駆け出しには難しい。
そんな新人達にとって、ソウジロウがもたらしてくれる稼ぎは破格だった。
三日間の稼ぎで手に入れるのは、およそ4万円。
これで一週間を過ごさねばならない。
なのだが、それでも最低限の生活は出来る。
一日2500円なら16日分の生活費になる。
これは宿泊と食事だけで、そのほかの日用品などの購入は含んでない。
それでも、これだけの稼ぎが得られるのだ。
駆け出し・新人と呼ばれる者達としてはありえない稼ぎである。
これだけあるなら、不満はなかった。
生活環境は最低限のものだが、それでもとりあえずは十分だった。
そもそもとして、こうした生活水準はこの世界では一般的である。
一般庶民ならば、狭い家で家族全員が寝起きする。
それこそ、10畳間の一軒家に祖父母・父母・兄弟が7人も8人もいる。
それが当たり前だ。
食事だって、味付けもされてないものが普通だ。
塩などが使われてることの方が珍しい。
だからこそ、そういったものを口にしたいという欲求もある。
あるのだが、それが普通だと思ってる者はほとんどいない。
そんなわけで、ソウジロウが示した方法で文句を言う者はいなかった。
むしろ、これだけ分け前をくれるのかと感動するくらいだ。
おかげで士気は高まっている。
ソウジロウについていこうと考える者も。
そう意識したわけではないが、ソウジロウは人心掌握に成功していた。
新人達は確かにソウジロウを信頼しはじめている。
ソウジロウと新人達、合わせて11人。
利害の一致もあるが、とにかく結束しはじめた。
危険な迷宮に挑むにあたり、それは必要不可欠となる。
そうして培っていく関係が、やがて基盤になっていく。
迷宮探索をする集団。
探索者によって成り立つ、旅団へと。




