31回目 懸念はあるが、それが実現する可能性の低さと、それ以上の利点で打ち消せると信じている
「それならそれで仕方ない」
ソウジロウは動じる事も無くそう言い切った。
「出て行って欲しくはないけど、行くってんなら止められない。
まあ、笑顔で見送るしかないな」
「でも、それじゃ……」
「受け入れる先があるかどうか分からんけど」
「まあ、それは…………」
言われてみて、それももっともだと思った。
移籍したくても、募集してるところが無ければどうにもならない。
そして、移籍で求められるのは高い能力だ。
それこそ、ソウジロウ並の強さでもなければ難しいだろう。
今の新人達の能力では、門前払いが落ちだ。
そんな新人達の移籍を気にしても仕方ない。
ソウジロウの考えは確かにもっともだった。
「それにだ」
「はい?」
「今、協会長に頼んで新人の募集もしている。
俺はこれからここをもっと大きくするつもりだ。
そこから出ていくのか?」
「それは、まあ……」
「そんなつもりは」
「無いですね」
言われて新人達も考える。
今日、あらためて見たソウジロウの強さ。
そんな人がいる所から抜け出す理由がない。
それに、稼ぎもある。
今までの倍くらいの実入りがあった。
こんな所から抜ける必要が思いつかない。
それに、この協会が大きくなるなら。
抜け出して他の所にいく理由もなくなる。
時間はかかるだろうが、そうなればいずれ自分達も古参になる。
わざわざ別の所にいって、下っ端からやり直す事もない。
「それでも余所に行くってんなら、しょうがない。
俺も引き留めはしないさ」
「なるほど」
新人達も納得した。
それなら、強くなってここに残った方がいい。
「分かりました、そうします」
「おう、そうしてくれ」
話はこれで終わった。
稼ぎの使い方が決まる。
三日は霊気玉を換金して生活費を稼ぐ。
その後の三日分は経験値として使っていく。
これで成長を促していく。
今までだと、稼ぎを全て山分けにしていた。
その分で成長もやりくりしていた。
それが普通ではある。
だが、ソウジロウはそういったやり方をあえて排除した。
山分けした分でやりくりしてると、成長が遅くなる。
どうしても経験値として使える分が減るからだ。
それを排除し、まずは一人を徹底して強くする。
こうする事で、成長を早めることが出来る。
以前の旅団でやっていたことだった。
最初は難色を示されたものだが。
効果が分かるとこの方法に切り替わっていった。
それというのも、成長が出来なければろくに稼ぐことも出来ないからだ。
化け物を相手にするなら、それなりの強さが求められる。
それが最弱であっても、強いにこしたことはない。
だが、普通にやっていたらとんでもなく時間がかかってしまう。
それを短縮するために、まずは一人を強化する。
この方法なら、かなり早い段階で強力な戦力を得られる。
以前の旅団でもこの方法で序盤を切り抜けた。
新人だけで組んでいたので、苦労は今よりも大きかったが。
それでも上手くいったのだ。
成長したソウジロウがいる今ならば、もっと上手くいく。
今回手に入れた霊気玉。
最弱の化け物のものなので、経験値は一つあたりおおよそ5点分。
一回の探索で手に入るのが500個前後なので、経験値は2500点。
一週間でおよそ7500点が手に入る計算になる。
そして、技術や能力は経験値1万点で上昇する。
二週間で一回だけは成長が出来る計算になる。
一ヶ月が四週間だとすれば、およそ3万点。
三回の成長が出来る。
一回の成長でもそれなりの違いは出てくる。
これが三回分ともなれば、大きな差になっていく。
一ヶ月という短い期間ではありえない成長速度だ。
割を食うものもいるが、それもいずれ順番をまわすことで納得してもらう。
第一、短期間で今まで以上の戦力が手に入るのだ。
不満があっても、得られる利益の方が大きい。
本気で反対する者はいない。
早く自分の番になって欲しいと言うことはあっても。
ただ、この方法でも問題はある。
単純な事だが、収入は減る。
金銭的な稼ぎを犠牲にするのだからしょうがない。
その分を強さという形で得ているのだから。
ただ、やはり生活には金銭が必要になる。
どうしてもそれは圧迫されてしまう。
しかし、それも現状を考えれば特に不満が出るほどでもない。
ギリギリではあるが、生活水準そのものは悪くない。
新人や底辺の探索者としては、極めて普通の生活はしている。
それだけの稼ぎにはなっている。




