3回目 失敗を踏まえて努力しても、努力が無駄になる事が世の常で
ソウジロウが生まれ育った日本。
20世紀の後半に生まれ、そのまま21世紀に突入。
その前半の頃に死んだ。
それなりに長く生きる事は出来たのは確かだ。
しかし、幸せだったとは言いがたい。
幼少期はそれなりに元気に遊んでたとは思う。
しかし、小学校に入ってから何故かイジメの対象に。
以後、暗い気持ちで小中学校を過ごし、高校へ。
高校ではイジメは無かったが、ひたすら空気となって過ごした。
青春らしい青春は無かったと言える。
それでも真ん中よりはちょっと上の大学に入学。
中小というより小企業に就職をした。
幸い、後の世にいうブラック企業ではなかった。
だが、残業や休日出勤はほとんど無かったが、薄給な職場だった。
そんな職場に10年。
バブル崩壊などの影響などなどで見事に会社倒産。
以後はバイトと派遣社員を転々として暮らしていった。
たまに就職出来ても、入ることが出来たのはブラック企業。
何度リストラをくらったか分からない。
最後はどこかのアパートで永眠。
眠りについてそのままあの世行きとなった。
そんな人生を二度と送らないようにと思って頑張ってきたが。
転生してきたこの異世界でも、めでたくリストラとなってしまった。
「なんでこうなるんだか」
嘆きも出てこようというもの。
それなりに頑張ってきたつもりではいる。
確かに戦闘で積極的に攻撃には出なかった。
しかし、それには理由もちゃんとある。
敵を引きつける為に。
後方の味方が襲われないようにする為に。
その為に多くの敵を引きつけていたからだ。
また、流派の問題もある。
これはソウジロウが学んだ戦い方にある。
これが世間では使えないと評判のものだった。
少なくとも、探索者達の間では。
流派と呼ばれるのは武術の体系を指す。
共通する部分もあるが、流派ごとの特徴もある。
攻めの一手に尽きるもの。
多彩な技を誇るもの。
一瞬の太刀筋が鋭いもの。
そういった違いが流派によって存在する。
ソウジロウの学んだ流派は、その中でも異色だった。
神伝流。
相手の攻撃が当たらない位置取りと、攻撃を武器で受けるのを専らとする。
その為、防御に特化した流派として有名だった。
ただ、あまりにも防御特化なために、攻め方が全くないとも言われている。
それだけでは戦闘にならない。
だから、使えない流派と言われてもいた。
そんな神伝流を身につけたのは、言ってしまえば偶然だった。
この世界の出身地である村の近くに住んでいた老兵法者。
その人が身につけていたのが神伝流だった。
ソウジロウはその人を師として神伝流を学んだ。
なんのことはない、他に選択肢が無かったのだ。
だが、やってみるとこれが面白かった。
性に合ったのだろう。
確かに相手の攻撃を避ける為の歩法。
そして、相手の攻撃を受けるだけの型。
それは世間で言われてる通りのものだった。
これでは敵を倒せない、そう思いもした。
しかし、それでいて意外な多彩性もあった。
身を守るという事を念頭に置いてる為だろうか。
可能な限り様々な状況に対応できるような体系になっていた。
実際、ソウジロウが学んだものは多い。
襲われても瞬時に刀を抜けるように、抜刀術を。
刀が無くても対応できるように、素手の体術を。
そこらに落ちてる棒きれでも対処できるように、棒術・杖術を。
更には、落ちてる石すらも使う、礫術を。
刃物を投げ飛ばす、手裏剣術を。
一つ一つは専門流派ほど洗練されてはいないだろう。
だが、幅広く学べた事で、対処できる状況が増えた。
更にこれらを踏まえて、師である老兵法者からとある事を教えてもらった。
それを知った時、ソウジロウは興奮にふるえたものだ。
残念な事に、それを使う機会はこれまでほとんど無かったが。
それもこれも、他の前衛が攻撃一辺倒だったからだ。
やむなく襲ってくる敵を引き受け、防戦一方になってしまった。
おかげで神伝流のすごさを身を以て体験する事が出来た。
敵の攻撃で怪我をする事がほとんど無かったのだ。
後衛に敵を行かせないために、多くの敵を引きつけたにも関わらず。
それだけでも神伝流のすさまじさを知るには十分だった。
それも今となっては過去の出来事でしかない。
結局その価値を仲間は理解する事もなかった。
その挙げ句にリストラである。
あえて舐めた態度をヨシフサ達には見せたが。
本当は結構落ち込んでいる。
「今度は上手くやりたかったんだけどなあ……」
もう終わった事と割り切りたいが、なかなかそうもいかない。
どうしてもため息が漏れてくる。