26回目 かつて来た道を再び歩まねばならない鬱陶しさと、かつてには無かった要素とを天秤にかけながら
化け物を呼び寄せる香を焚く。
それによって、再び敵があらわれるのを待つ。
再び迷宮の奥から人面虫がやってくる。
それをソウジロウ達は次々に撃退していく。
やり方は一回目と変わらない。
それを何度か繰り返して成果を出していく。
続けるごとに新人達もやり方を体得していく。
技術が上がる程ではないが、無駄な動きが減っていく。
だんだんと慣れてきたのだろう。
技術レベルに応じた動きが出来るようになった。
そう言えるかもしれない。
新しい事をやろうとすると、どうしても体が固くなる。
本来持ってる能力や技術も十分に出せない。
何度も繰り返した動作であってもだ。
それも、回数を重ねる事で慣れていく。
慣れれば自然と本来の能力を出せるようになる。
今の新人達はそういう状態になってきてる。
おかげで、戦闘の効率は上がっていく。
ある程度の所で頭打ちにはなるが。
そこが能力と技術の限界点になる。
本来もってる能力が発揮されたのだ。
それ以上があるわけがない。
まれに、効果的な一撃などが出てくる事もあるだろう。
しかし、それは幸運が味方をした場合だ。
そんな事は滅多にない。
それを念頭にソウジロウも考えていく。
まず、今の状態を可能な限り続けること。
それでも、この状態を基準には考えない。
むしろ、それよりも下の状態を基準にしていく。
動き続ければ疲れもする。
体は大丈夫でも、気が滅入ってる事もある。
そうした場合、普段の状態の一割二割引きという状態にもなる。
それくらいを基準に考えていく。
でなければ、長期戦を生き延びる事は出来ない。
短距離走の速度でマラソンを走る事は出来ない。
にも関わらず、短距離での速度を基準に長距離を考える。
まともであれば、これがどれほど無謀な事か分かるだろう。
しかし世の中にはこんな事を強要する者がいる。
(ああはなりたくない)
前世で遭遇した連中。
それらを思いだして反面教師にしていく。
決して見習ってはいけない、愚かな実例。
それによってボロボロになっていく組織。
そのくせ責任も取らずに逃亡する屑。
(あんなのになっちゃいけない)
気持ちをあらたにしていく。
それでも現状ではどうしても無理をさせてしまう。
足りない人数とまだまだ低い実力。
それらの限界あたりで無理をさせざるえない。
彼らはよくやってくれている。
だからこそソウジロウは、彼らに負担をかけない状態にしたかった。
(早めに規模を拡大したい)
他にもやらねばならない事はあるが、まずはこれである。
人が多ければ交代要員を作れる。
その分だけ負担は減る。
その為にも稼げるようにならねばならない。
(とりあえず、今日の成果を見てからだな)
今日一日で、どれだけ稼げるか。
それによって抱える事が出来る人数が決まる。
成果が大きければ良い。
だが、そうでなかったら、考えを軌道修正せざるえない。
まずは新人達の実力を伸ばす。
そこからになる。
(やっぱり、先は長いか)
追い出された旅団。
そこに追いつくには、まだまだ長い時間が必要そうだった。
だが、知らず知らずソウジロウはやりがいを感じはじめていく。
でなければ先のことなど考えない。
この事にソウジロウが気づくのは、ほんの少し後になる。
(やれやれ)
その時にソウジロウは、ほんの少しだけ苦笑した。