22回目 これまでにない激しい戦闘に臨む新人達
何人かがソウジロウと並び、陣取っていく。
事前に打ち合わせはしていたので、配置は分かってる。
割り当てられたところに立って、敵を待つ。
その間にも人面虫は数を増やしていく。
それは、迷宮の入り口付近ではあり得ない数だった。
「いいか、よく見ておけ」
ソウジロウが声をはりあげる。
「あれが、迷宮での当たり前だ。
普通はあれくらいの数が出てくるからな」
それを聞いて新人達は顔を青くしていく。
見れば、何十という数が押し寄せてくる。
それが当たり前、普通という。
「嘘だろ」
誰かが漏らした。
それが新人達の思いを代弁した。
彼らの常識からかけ離れた現実。
それを認めたくない、受け入れたくなかった。
だが、迫る化け物という現実は、そんな逃避を許さない。
立ち向かわねば、死ぬだけだ。
それだけ化け物の数は多かった。
人面虫だけだが、それが何十と見える。
一塊になって来てるわけではない。
小さな塊が波状に襲ってきてるようだ。
5匹10匹といった集団が、間隔をあけてやってくる。
それだけが救いであった。
一度に全部を相手にしなくていい。
ただ、終わりが見えないのが気にかかる。
間に隙間があっても、続けざまに何度も戦うのは厳しい。
一応、何人か交代として後方に控えているが。
それでも、今の人数でやれるのかどうか。
新人達の心配はそこにある。
だが、もうあれこれ言ってる場合ではない。
もう敵は来てしまってるのだ。
だったら、無理してでも戦うしかない。
彼らは否応なしに腹をくくっていく。
敵の第一波は、ソウジロウに接触していく。
先ほどと同様にソウジロウは、間合いに入った人面虫を切り捨てていく。
正確に頭を切り落としていく様が凄まじい。
前衛に立つ者達は、己との腕の差を見せつけられる。
そんな彼らの前にも少しずつ人面虫が迫ってくる。
杭とソウジロウによって食い止められてたのだが。
しびれを切らしたのだろうか。
何匹かはそれを避けるように横にそれていく。
進みにくい杭を越えながら。
そうして進む先に立つのは新人。
彼らも刀を抜いて人面虫を待つ。
そして、接触したところで刀を振っていく。
ソウジロウほどではないが、彼らの斬撃も確実に人面虫を倒していく。
彼らは二人一組になって敵を討っていく。
ソウジロウほどの能力がない事を考慮してだ。
二人もいれば人面虫くらいはどうにかなる。
彼らも新人ながら迷宮に潜ってきたのだ。
最低限の戦闘はこなせる。
そんな彼らの太刀筋は、ソウジロウとも違う。
飛刃流の豪快とも違う。
それぞれ別流派のものだった。
主に人面虫を撃退する者は、様々な方向から人面虫を斬りつけていく。
一撃の威力はないが、攻撃回数の多さで対応してるようだ。
それに、立ち位置の変化も結構大きい。
迫る敵に合わせて右に左にと移動を繰り返す。
そうして攻撃範囲をひろめていく。
技で知られる諸橋流の戦い方だった。
その傍らに控えてる者も、ただ突っ立ってるだけではない。
諸橋流によって広範囲が守られてるとはいえ、穴は必ず発生する。
その穴を抜けてこようとする人面虫を狙っていく。
鋭く早い太刀筋で。
それは、居合いで知られる相羽流の動きだった。
攻撃の多彩さが売りの諸橋流。
一撃の鋭い早さで知られる相羽流。
その二人を組ませる事で、こぼれた敵を葬っていく。
彼らは自分の持ち味を活かしながら、押し寄せる敵を撃退していく。
しかし、疲労はどうしても発生する。
特に動きが激しくなる諸橋流の使い手は。
広範囲に攻撃を仕掛けられるという事は、動きも多くなるという事になる。
そんな使い手達に、後方からの援護が飛ぶ。
新人達の中にいる霊気術の使い手達。
そんな彼らには、後方からの支援が求められていた。
それも、敵を倒すといったものではない。
前線で戦う者達の体力回復だ。
これで戦闘時間を出来るだけ延ばしていく。