21回目 彼らは見る、自分達とは格段に違う強さを
「どうなると思う?」
「さあ?
負けるとは思わないけど」
「でも、万が一ダメだったら」
そんな声が新人達から上がる。
彼らもソウジロウの強さは理解してる。
登録証で能力値も見た。
同じ新人達を4人同時に倒しもした。
しかし、それが化け物相手にどれだけ通じるのか?
そこはまだ見てない。
見てないから不安もあった。
そんな不安を背中に受けながら、ソウジロウは進む。
ほぼ一直線になってやってくる人面虫に向かって。
それに無造作に向かいながら、刀をだらりと下げる。
下段、あるいは陰の構えや斜の構えと言われるものだろうか。
それを更に崩したような格好で、人面虫と衝突していく。
両者の衝突を、新人達は固唾をのんで見つめた。
それがどんな顛末を迎えるのか。
その結果で彼らの今後が決まる。
ソウジロウが勝てばよい。
だが、そうならなかったら、新人の彼らの命運も尽きる。
否が応でもソウジロウの勝利を望んでいく。
同時に興味があった。
ソウジロウの強さはどれほどなのか?
化け物相手にどれだけ通じるのか?
人間相手に戦った時の姿は見ている。
だが、彼らはまだ化け物と戦ってるソウジロウを見てない。
だからこそ、純然たる興味もあった。
そんなソウジロウと人面虫との接触。
結果は一瞬にして出た。
下段に構えていた刀が持ち上がった。
そう思った瞬間に、先頭にいた人面虫の頭が床に落ちていた。
「え?」
「え?」
「は?」
そんな声が新人達から出る。
あるいは、驚きのあまり、声すらも出ないでいる。
何せ、本当に一瞬だったのだ。
結果から、ソウジロウが人面虫のクビを切ったのは想像出来るのだが。
その瞬間が目でとらえられなかった。
同じ事がその後も続く。
迫る人面虫を次々と切っていく。
その都度、頭が床に転がる。
特に苦戦する事もなく、ソウジロウは敵の第一弾を撃退した。
「なんだ、あれ」
「さあ?」
「見えたか?
俺は見えなかった」
「俺もだ」
全員、呆気にとられている。
動きが全く見えなかった。
ただ、起こった結果だけを目にするだけだ。
どうやってそうなったのか?
その過程が分からない。
刀で切ったのは間違いないが。
その動きがとらえられなかった。
だから何をしたのか分からない。
参考にしたくても、全く出来なかった。
「おい、何してる」
ぼけっとしてる新人達をソウジロウが呼ぶ。
「早く回収してくれ」
「あ、はい!」
慌てて新人達が動き出す。
手に袋を持ちながら。
彼らは倒れた人面虫の所に向かう。
既に人面虫は事切れつつあり、その体が霧状に散り散りになろうとしていた。
迷宮に居る化け物も特徴だ。
死ぬと死体も残さず消えていく。
その為、迷宮に化け物の死体が残る事は無い。
ただ一つ、とある物だけを残していく。
霊気玉。
化け物を倒すと残るものだ。
そう名付けられた通り、玉のような形をとっている。
大きさは直系2センチほどか。
これが化け物の生命の源になってる。
同時に、探索者の収入源でもある。
化け物を倒し、この霊気玉を持ち帰って売る。
それで探索者は生計をたてている。
霊気玉は文字通り霊気の塊だからだ。
霊気とは生命の源だ。
そして様々な動力源にもなる。
これを用いて動く様々な道具が存在する。
ソウジロウが運転してきた馬車型トラックもその一つだ。
これにより、この世界の文明は成り立っている。
通常なら、こういった道具を用いる際は、人の霊気を用いる。
使う度にいくらかの霊気を注ぎこみ、機械を動かしていく。
だが、これだと人に負担がかかってしまう。
そこで、化け物を倒して得る霊気玉の出番になる。
無尽蔵と言えるほど出現する化け物。
霊気玉も、ほぼ無尽蔵に採取出来る。
これを持ち帰る事で、探索者は金を得ている。
何せ需要は無限と言って良いほどある。
消耗品である霊気玉は常に求められていた。
このため、地下迷宮は鉱山のようなものと見られる事もある。
化け物が出る危険地帯というだけではない。
その化け物すらも、ある意味資源扱いである。
命がけで採取する危険な物質だが。
それでも求めるものは多い。
それだけではない。
探索者にとっては別の価値もある。
経験値だ。
探索者の能力や技術の向上。
これに霊気を用いる事が出来る。
霊気玉の霊気を取り込む事で、人は能力を上昇させる事が出来る。
また、様々な技術や知識を手に入れる事が出来る。
この構造はまだ解明されてはいない。
そういう現象が起こるのが分かってるだけだ。
だが、探索者にとってはその理由や仕組みは関係ない。
命がけで挑まねばならない危険な仕事である。
戦って勝てる可能性を高められる。
ならばその手段に飛びつくだけだ。
迷宮の奥にいる、より強力な化け物にも対抗しなくてはならない。
それが出来るくらいの強さを手に入れる為だ。
幸い、今のところ弊害や副作用といったものも見当たらない。
だったら問題は無いだろうと考えてもいる。
何にせよ、この霊気玉が探索者の生命線なのは変わらない。
生活手段としても。
己を強化する手段としても。
だから探索者は危険を承知で化け物と戦っていく。
その成果がそこに転がっている。
急いで回収せねばならない。
無くなるものではないが、放っておくのももったいない。
それに、そう暢気にしてられない理由もやってくる。
「次が来たぞ」
ソウジロウが声をあげる。
新たな化け物があらわれたのを告げる。
「そろそろお前らにも頑張ってもらうぞ」
その言葉に新人達は前をみる。
新たに迫ってくる化け物は、先ほどよりも多い。
「さすがにあれは、俺だけじゃ無理だ。
お前らも気合い入れろ」
その声に、新人達があわてる。