2回目 前世に続き今生でも
「さっきから聞いてればいったいなんだ!
お前の悪い点をしっかり上げてるというのに」
「あ、そう」
横から出てきた声に、ソウジロウは淡々と応える。
まともに相手をするつもりはないようだ。
実際、相手にする理由がない。
ふざけた態度での応対が最適だと。
「だからなんなんだ、ヒロキ」
横から来た相手、梶木山ヒロキに振り向く事もなく手続きを進めていく。
「だいたい、お前はな────!」
「俺はお前みたいに突撃する役じゃないから」
何か言おうとしたヒロキを制してソウジロウが声を出す。
「そんな俺に前に出て戦闘しろと?」
「だから、そういう事ではなくてだな!」
「じゃあ、どういう事だよ、ちゃんと説明しろ。
…………あ、名前はここでいいの?
あと、脱退理由は『一方的な解雇宣言』でいいよね。
さっきここで、皆の前でやってたし」
受付の無気力系事務作業オッサンに確認しながら手続きを進める。
そんなソウジロウにヒロキの怒りは更に沸騰する。
湯気を吹き出しそうなくらいだ。
そんなヒロキの肩に、この場に居るもう一人が手をかける。
「やめておけ」
日千里木トシタカ、旅団の前衛を務める一人である。
「言っても無駄だ、こういう手合いは」
「しかし…………!」
止めるトシタカに、ヒロキはなおも声をあげる。
だが、そうしてる間に手続きは進む。
「おーい、こっちは終わったぞ」
「おう、なら話が…………」
「だからこれで他人だな」
「……なに?」
一瞬、動きが止まったヒロキ。
そんなヒロキの肩をポンポンと軽く叩き、
「それじゃ、さよなら。
次につっかかってきたら、もめ事起こしに来たって通報するから」
そう言ってソウジロウは歩いていく。
「な…………おい、こら!」
ヒロキの叫びが協会内に響いた。
「まったく、あいつは」
去って行くソウジロウ。
その背中を忌々しげにヨシフサがにらむ。
言いたいことも憤りも山ほどあると言いたげだ。
だが、どうにかそれを押さえ込む。
下手に騒いだら、それこそ通報ものだ。
投獄はなくても、叱責くらいはありえる。
そうなれば、無駄な瑕瑾が旅団についてしまう。
ひいては経歴にも。
そんな愚はおかせなかった。
「くそったれが!」
それを見越してるソウジロウに、より腹を立てる事にはなったが。
「だが、これでいい。
最後までむかつく奴だったが。
もう奴はいない」
「そうだな」
「ああ」
ヨシフサの声に、ヒロキとトシタカが頷く。
「もうこれで足を引っ張られる事もない」
「まあ、頭数が減ったのは確かだがな」
「それはすぐにでも補充をする。
穴があく事は無いだろう」
そう言って彼らは今後を考えていく。
追い出した者にかまけてる時間が惜しい。
「というわけで、人員募集だ」
受付の前に立ったままだったヨシフサ達。
すぐに必要な作業に入っていく。
「なるべく急ぎで頼む」
「はあ、分かりました」
やる気のなさそうな事務的な声が返ってくる。
聞いてるだけで気力が減退しそうだった。
やるべき事はやってくれるのは分かってるから文句は言えないが。
「それで、どんな条件で?」
必要事項を尋ねてくる受付のオッサン。
そのオッサンにヨシフサは即答する。
「同じレベルでなくても構わん。
だが、もっと腕の立つのを頼む」
その声にヒロキは大声で、トシタカは静かに口角を上げた。
ヨシフサ達の旅団は、それなりの実力をもっている。
迷宮の中でも深いところに行けるくらいの。
能力的に言えば、ソウジロウもそれなりのものがあった。
だから、同じくらいのレベルというのはそうはいない。
だが、それでも役立たずだったソウジロウより腕の立つ者はいるだろう。
そんな嫌みを込めた言葉にヒロキとトシタカは笑ったのだ。
あまり品の良いものではなかったが。
協会内で悪態をついてる連中の事など知るよしもなく。
ソウジロウはこれからの事について考えていた。
「さてと…………」
いずれこうなるだろうとは予想していた。
旅団内での空気の悪さというか雰囲気は察していた。
だからこそ、身の振り方は考えていた。
「とはいえ」
実際にそうなったら、やはり少し戸惑ってしまう。
「それにしても……」
こうなってしまったのは仕方ないとは思う。
だが、それでもやりきれないものがある。
「こっちでもリストラかよ」
過去の出来事がよみがえってくる。
それは、ここではない別の場所での事。
更に言えば、生まれてくる前の事。
「前世に続いて、何度目だ……?」
生まれ変わる前の話になる。