17回目 その頃、彼らは 1
さて、ソウジロウがなんだかんだで新たな一歩を踏み込んだ頃。
彼の古巣もいつも通りの活動に向かおうとしていた。
ただ、今まで通りとはいかない。
ソウジロウが抜けた事もあるが、彼への気持ちがまだおさまってない。
特にその場に居たヨシフサ達三人は。
彼らは憤りがおさまらなかった。
それもこれも、反省の色など全く見せないソウジロウが原因である。
実態がどうであれ、彼らの視点からすれば、ソウジロウは本当に役に立たない人間なのだから。
「まったく、あいつは」
そんなぼやきや文句が口を吐こうというもの。
「どうしてああなんだ」
「しょうがない事だがな」
ため息が漏れてくる。
「一緒にやってきた仲間と思えば、これまで我慢もしてきたが」
そう言う彼らの胸にはやるせなさが渦巻いている。
彼らとソウジロウは新人の頃から行動を共にしていた。
と言っても、それは望んで組んだというわけではない。
その当時、他に組める者がいなかったのだ。
何せ新人の頃は十把一絡げの新人の一人でしかなかった。
能力や才能に優れた者は他に大勢いた。
それらに比べれば、ヨシフサ達は取るに足らない小者の一人であった。
今はそれなりに頭角をあらわしてるが、彼らにもそんな頃があった。
その時に一緒になったのがソウジロウを含めたこの四人である。
そんな四人が中心になって今の旅団になる集団を作った。
他に余っていた者を誘い、頭数だけは揃える事が出来た。
その当時、これが旅団を名乗れるまでに成長するなど誰も思わなかった。
ただ、目の前の生活をどうにかする事で精一杯だった。
そんな旅団をここまで押し上げてきた、という自負が彼らにはある。
辛く苦しい日々だったが、どうにか死なずに生き延びてこられた。
まだ数年程度の年月しか経ってないが、もう遠い昔の事のように思える。
なのだが。
「あいつは本当に」
「足を引っ張ったよな」
「ああ、そうだな」
振り返る記憶の中のソウジロウは、常にそんなものだった。
彼らの中では。
「まだ行けるのに、いつも帰ろうとするし」
体力も食料も薬もまだ残ってる。
にも関わらず、最初の頃はある程度の時間になったら帰還を促してきた。
「そのせいで、稼ぎがどれだけ減ったか」
「戦闘でも、前に出ようとしなかったからな」
守りに徹する神伝流であるというのは分かってる。
だが、それにしても前線に出る事がなかった。
だいたいが、後衛の前あたりに陣取り、一歩引いた所にいた。
「もう少しどうにかならいのか、あれは」
「あと、よく後ろに引き下がっていたな」
戦闘の時はともかく、そうでない時はほぼ後衛の方に行っていた。
荷物持ちなどが気になるのは分かる。
だが、それよりは前方に出て警戒してもらいたかった。
さもなくば、もっと後ろに下がって、後方を警戒するとか。
「あいつには前衛に立つという心構えが無いのか?」
そんな不満が常に口から出てくる。
とにかく前に進む事を押しとどめられる事が多かった。
そのせいで、どれだけ行軍が遅れた事か。
予定通りに進まない事も多々あった。
「まあ、もういないから良いが」
ヨシフサはそう言って、何かを断ち切ろうとする。
「あいつはもういない。
これからは、もう少し先に進めるようになる」
「そうだな」
「ようやくだな」
ヒロキとトシタカが頷く。
「代わりの人間も斡旋してもらったし。
これで本来の探索が出来る」
「いよいよだな」
「ああ、最前線の旅団に並ぶ日も近い」
今のヨシフサ達は、まだ迷宮の最奥までは行ってない。
だが、そこに列席するという栄誉と名誉までもうすぐだと信じている。
「これから、より大変になると思うが、頼むぞ」
「もちろん」
「任せろ」
そう語り合うヨシフサ達は、明るい色の夢を思い描いていた。