15回目 お前らはいらん、他の奴だけで十分だ
「それじゃ、あらためて言うぞ。
迷宮では俺の指示に従え。
やり方も俺の知ってる事は全部教える。
だから、とにかくついてこい」
もうその言葉に逆らう者はいなかった。
迷宮での能力はまだ分からない。
それは戦闘力だけではかるものではないからだ。
探索というのは、様々な要素を組み合わせて行うものだ。
戦闘とはそのうちの一種である。
これだけで全てを決めるわけにはいかない。
しかし、しっかりと目に見える形で示されたものもある。
ソウジロウは確かに強い。
新人探索者ではどうにもならない程に。
それだけの強さがあれば、迷宮探索もそれなりにはかどるだろう。
少なくとも、新人だけでやってるよりは良い。
また、経歴もそれなりにある。
それは樫山探索者協会にいる誰よりも長い。
それだけの期間生き残ってきたのだ。
探索能力も備えてるとみるべきだろう。
しかも、到達深度が凄まじい。
新人達では行くことなど決して出来ないところまで挑んでる。
そんな者の持ってる手法・方法に触れる事が出来るのだ。
これほどありがたいものはない。
「────やります」
誰かが口火を切る。
それを引き金に、次々に賛同の声があがる。
「俺も!」
「私も」
「俺もだ」
まだ衝撃と痛みに苦しんでる四人以外の全員が意思を表明した。
「わかった」
ソウジロウもそれを受け取る。
「ただし」
はっきりと示しておくべき事もある。
「お前ら四人。
お前らはつれていかない」
その言葉に周りにいた者達が凍り付く。
それは予想外のものだった。
「お前らは俺にケチをつけた。
難癖をつけた。
登録証って言う証拠を見せても疑った。
あまつさえ、俺が神伝流だからってコケにした。
そんな屑なんざいらん」
痛みにうめく四人。
その四人の耳にもその声を届いている。
だからうめきながらも彼らも背筋を凍らせた。
「そこまで言ったんだ。
覚悟はしてたんだろ。
聞いてないとか知らなかったなんて聞かん。
言ったこと、やったことの責任はとれ」
容赦のない、厳然とした物言いだった。
しかし、道理に則ってる。
やるからには、結果から逃げるわけにはいかない。
四人のとった態度は決して褒められたものではない。
その言葉と行動と態度の結果である。
だから痛い目にもあった。
そして、排除された。
それくらいはされて当然である。
「何もそこまで……」
協会長の樫山が取りなそうとする。
だが、
「ダメだ」
ソウジロウはにべもない。
「こういう所で許せばつけあがる。
こういう連中はな」
それはソウジロウのささやかな人生訓だった。
今生においても、そして前世においても。
「まあそれくらい…………そうやって許すから馬鹿や屑や悪党がはびこる」
「それは…………」
「こういう奴らが足を引っ張る。
どこまでも邪魔でしかない。
そんなのつれて、迷宮なんぞに行けるか」
「…………」
「協会長、あんたがこいつらを囲うのは自由だ。
あんたの権限だ。
好きにしろ」
「まあ、それは……」
「だが、俺の下に入れる事は絶対にない。
この先ずっとだ」
そう断言されては、協会長としてもどうしようもなかった。
協会に誰を所属させるか。
それを決めるのは協会長の自由である。
これを覆す事は出来ない。
だが、協会に所属する探索者が誰と組むかは、探索者の自由である。
当事者同士が納得していない限り、旅団を組むことは出来ない。
そこを無理強いする事は、協会長といえども許される事ではなかった。
「あと、お前らもだ」
今度は新人達にソウジロウは向く。
「こいつらを取りなすなら、その時点で外す。
お前らの意思は聞かん。
俺とやっていきたいなら、その覚悟はしておけ」
「…………」
「返事はどうした?」
無言になってしまう新人達に、容赦なくつきつける。
ここで返事が出来ない、明確な意思表示をしない奴に用はないからだ。
「…………分かりました」
「はい」
「そうします」
ぽつぽつとそんな声があがってくる。
それを聞いてソウジロウは頷く。
「なら、今から俺の旅団に入ってもらう。
とりあえず休み二日を入れて体を休めろ。
その間に、迷宮探索についても教えていく」
そう告げると、ソウジロウは全員に休むよう指示を出す。
彼らは迷宮から戻ってきたばかりだ。
まだ装備も外してない。
そんな者達をそのままにしておくつもりはない。
疲れをとって明日に備える為にも、まずは休息が必要だ。
「ああ、それと」
協会に戻ろうとする新人達に、もう一つ声をかける。
「なんですか?」
「今夜から明後日まで、次の出発までの宿代と飯代は俺がもつ。
だから、金の事は気にするな」
皆が一様に驚いた。
「今回だけだからな」
そう言うソウジロウは協会長に伝える。
「こいつらの分の宿泊費、あとで教えてくれ。
念のために言っておくけど…………」
膝をつく四人を指して念もおす。
「…………あれは加えないからな」
容赦がない、とことんまでやるのか、と誰もが思った。
(こうしなくちゃならん)
呆然とする協会長と新人達。
それを見ながらソウジロウは思う。
(図に乗る馬鹿はいらん)
お人よしの代償がどうなるかは、解雇でもっていやというほど知った。
自分なりに気づくことはしてきた。
協力できる事はやってきた。
その都度最適な動きを模索して行動してきた。
結果も出してきた。
その結果が、この日の追放である。
そんな事をしてきた連中は、突っかかってきた四人とそっくりだった。
見た目が、ではない。
性格や行動がだ。
だからソウジロウは、そういった者を切り捨てていく事にした。
優しさや穏やかさは、そういう連中には必要ない。
それらにはそれらにふさわしい態度がある。
相応の対応をこれからはとっていく事にする。
ただ、それだけのつもりだった。
しかし、何事も起こらないという事はなく。
これが理由で二つの事が起こった。
一つはソウジロウの容赦のなさへの恐れ。
楯突くととんでもない事になるという事が浸透する。
もう一つは、そんなソウジロウへの絶賛。
今回叩きのめされた飛刃流を使う四人は、他の者達から煙たがられていた。
横柄というか横暴なところが目立つ。
探索にいく仲間という事でこらえていたが。
今回の事で爽快な気分になった。
おかげでソウジロウには、恐れと賞賛が入り交じる感情を抱く事になる。
確かに容赦のなさは怖い。
しかし、同時にこうも思った。
『馬鹿な事をしなければいいんだな』
四人に容赦なく対処したのは、四人の行動が原因である。
それを考えればソウジロウがどういう人間なのかも分かってくる。
馬鹿な事をしなければ、ああいう事にはならないと。
それが分かってるなら、恐れずに接していけばいい。
新人達は、彼らなりにソウジロウとの接し方を見いだしていった。
ソウジロウも、そんな新人達の態度を好ましく思っていた。
無駄な衝突をしないでいられる賢明さは好ましい。
突っかかってくるだけの輩よりはよっぽど付き合いやすい。
それがソウジロウには大事な事だった。