1回目 リストラからの定番な始まり
「なんだって?」
園原ソウジロウは思わず聞き返した。
そんな彼に、目の前にいる男は苛立った声で告げる。
「お前はクビだ」
ソウジロウの所属してる迷宮探索者旅団。
その団長である、椎加原ヨシフサは同じ事を繰り返した。
ここは世界に出現したいくつかの迷宮の前に出来た町。
迷宮探索者達が集って形成された場所である。
その町にある探索者協会の一つ。
その建物の広間での出来事だった。
そんな所でのクビ────解雇宣告である。
普通ならありえないだろう。
まずもって、もう少し穏便に行うものである。
だからこそ、ヨシフサの意図が見える。
穏便に済ますつもりは無いと。
また、それはヨシフサだけの考えではないようだった。
ヨシフサと共にいる他の団員達。
彼らも揃ってる事からして、事前に根回しもされていたようである。
つまり、示し合わせてのこの場で行ってるとみてよい。
(やれやれ)
ソウジロウとしては呆れてものが言えない。
そこまでして公衆の面前でやる必要があるのかと。
(目立ちたがりなのかな、こいつらは)
良くも悪くも、これでは噂になるだろう。
だが、こうなってしまったものは仕方ない。
せめて、ある程度は話を引き出しておかねばならない。
「一応、理由を聞かせてもらおうか?」
つとめて平坦な、そして冷淡な声でソウジロウは尋ねる。
さすがにそれくらいははっきりさせてもらわないと納得出来ない。
もっとも、
(ようやく来たか)
そういう思いも強い。
いずれこうなるとは思っていたからだ。
「もちろんだ」
ソウジロウの問いかけに、ヨシフサはここぞとばかりに口を開く。
この瞬間を待っていたと言わんばかりだ。
実際、言いたい事があって仕方ないのだろう。
「まず、お前は戦闘において全く役にたってない!」
そこからヨシフサの糾弾は始まった。
「お前は戦闘では攻撃はほとんどしない。
いつも守ってばかりだ。
そのせいで、どれだけ戦闘が長引いてると思ってる」
「あー、はいはい」
それを聞いて呆れた。
それはこれまで何度も聞いた事だったからだ。
「まあ、お前の流派はそういうものだ。
なんでそんなものを学んだのか分からんが」
「それはそれは」
「そうと分かってれば誘いはしなかったが」
「運が悪かったな」
今更だなと思う。
知らずに旅団を組んだのは運が悪い。
だが、それでも今まで一緒にやってきたんだろうに、と思ってしまう。
「それにも関わらずだ。
ならば戦闘以外で役に立つならともかく。
探索でこれといって活躍するでもなし。
偵察や警戒、荷物持ちもやろうとしない。
そういった雑務もしない奴を、これ以上置いておけるか」
それも今まで何度も聞いてきた。
「あまつさえ、やたらと足を止めて探索の進行を邪魔する。
これでクビにならないと思ってるのか?!」
「あ、そう」
聞いててソウジロウはだんだん呆れてきた。
返答もおざなりになっていく。
その態度がヨシフサらを苛立たせていく。
「なんだその態度は!」
怒声が響く。
周りにいた者達も一斉にヨシフサに目を向ける。
だが、怒鳴られたソウジロウは「はいはい」と淡々としたものだ。
「そう言うならかまわんよ。
出て行くから、脱退手続きをしようぜ」
特に反発する事もなく、ソウジロウは受付へと向かった。
脱退手続きをとるために。
あまりにもあっさりした態度である。
それには逆にヨシフサらが驚くくらいだ。
「…………往生際が悪いと思ったが、そうでもないんだな」
ソウジロウを追って受付にやってくるヨシフサが呟く。
意外そうに。
そして、不服そうに。
だがソウジロウは、
「言われた通りに辞めてやるんだ。
文句いうなよ」
と淡々としたものである。
それがヨシフサのしゃくに障る。
「もう少し反省の色くらい出せばいいものを……」
「なんで?」
心底心外そうにソウジロウは漏らす。
「何も悪くないのになんで反省しなきゃならん?」
ソウジロウからすればそれが全てであった。
当然ソウジロウ視点の話で、他の者達は違う意見だ。
「ふざけるな!」
その違う意見が横から入ってきた。