ルーナとの死闘
下校時間、学園に分かりやすくチャイムが鳴る。
「どこか行くの?」
寮とは逆の方向に行く俺とアーサーを見て、アリスが首を傾げた。
「うん、少し買い物」
「そう、じゃあまた明日」
「また明日」
機嫌良さそうに笑うアリス、アーサーもつられて笑い、その場を立ち去る。
「アーサーってアリスの事好きなの?」
しばらくしてアーサーの表情を確認しながら聞いた。
「ど、どうしたんだ?急に」
少し戸惑ったようにも見えた。
だがすぐに笑って見せた。
「気になった·····答えて」
「·····友達として好き」
「異性としては?」
「そういうのは自分の事を話してから聞くべきだぜ?ジャックがアリスの事好きか·····言ったら言う」
やってやったみたいな表情を浮かべるアーサー。
「まったく·····俺は10歳だぜ?恋愛感情はかなり薄いね······あったとしても俺が愛するのはアマノ1人だ」
「10歳とは思えない発言だな·····まぁー俺も言うて分からない······意識すると目合わせれないから意識しない事にしてる」
「そう·····そろそろいいな······くだらない話は終わりとして、本題に入ってくれ」
学園からかなり離れ、人通りの少ない街並みに来た。
アーサーの話を聞くにはいい場所だ。
「今から話す内容、どんな内容だと思う?」
重要な話と気づいた俺を試すような質問だ。
「七つの大罪の事、もっと言えばプライドの事」
「なんでそう思った?」
「話があると言ったアーサーは真剣だった·····それも頼み事をする時人々がする目·····俺に頼み事·····つまり自分の力ではどうしようも出来ないと言う事だ。そこで思いつくのはプライドだ」
「正解······さすが神様」
「プライドの足取りを掴んだのか?」
アーサーは俺を焦らすかのように間を開けた。
早く答えて欲しい······そう思った瞬間、アーサーは憂いに満ちた表情で、
「正体が分かった」
「正体が分かった?居場所が分かったとかなら分かるけど、神であるプライドにその言い方だと·····まるでアーサーも知ってる見たいな言い方じゃない?なんか変な表現の仕方だ」
正体が分かった·····明らかに違和感を感じる言い方だ。
人間の世界で言う『犯人の正体が分かった』などとは訳が違う。
アーサーは人間、プライドは神、住む世界が違うのだから。
だが次の瞬間、俺は理解した。
「正体が分かった·····正しい表現だよ·····プライドはルーナだ」
な訳·····と言いたいとこだがアーサーはルーナが神だと言う事を知らない。
なのに神と言う共通点を当てたのは少し気になった。
「けどこの前プライドが来た時ルーナは一瞬に居た。ルーナはプライドと戦っていた······辻褄が合わない」
「俺もそこに疑問を抱いた·····だが相手は神だぞ?未知の力がある。それにジャックは途中気絶してたんだろ?」
「夢····あるいは幻覚を見せられていたと言いたいんだな?確かにそれなら納得できる」
俺が少し考え込む仕草を見せるとアーサーはこちらを細い目付きで見てきた。
「何?」
「お前、知ってたんだな?ルーナが神だって事を」
――やらかした。
まさかアーサー相手に引っかかっるとは思わなかった。
「カマかけるなんて、勉強できるだけじゃないんだな」
「ルーナが神、そこに何の疑問も持たなかった·····なぜ黙っていたんだ?」
「言わなくてもいいと思った、次から言うよ」
「案外素直なんだな·····そうしてくれ」
「俺に手伝って欲しい事·····ルーナがプライドだと確かめる事か?それとも?」
「ルーナを倒す事だ、できるならジャックの魔法か何かで拘束·····恐らく無理だが」
「分かった、話は分かった。まず作戦はどうする?」
「それに関しては考えがある·····」
その時、アーサーの瞳には純粋な正義があった。
島に潜み、誰にも認識させず、時には皆に認識させ、己の都合で人々を巻き込む大罪神。
そんな神から島を、人を、未来を守ろうとする単純で純粋な正義、アーサーにはそれがある。
「その考え、先にアーサーが死ぬかもよ?」
「承知の上さ」
「気に入った、それで行こう」
数分後、アーサーから作戦を聞いた俺は思わずニヤリと笑を零した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その作戦を実行に移した日は休日である日曜日だった。
「2人きりで遊ぶなんて楽しみだな、アーサー」
アーサーはルーナと2人、静かな早朝を迎えていた。
2人は遊ぶ約束をしていた。
勿論、アーサーにとって楽しい遊びでは無い。
「そうだね、2人で遊ぶなんて初めてだもんね」
朝7時、少しくらい静かなら分かるがあまりにも静かな朝だった。
まるで人々が皆息を潜めているかのように。
「ここは島の北側、実はここには俺ら2人しか居ないんだぜ?」
足を止めたアーサーが震えるような声で言った。
悲しそうな声だが、ルーナからは背で表情が見えない。
「知ってる」
「人々は皆南側で眠っている······言葉通り皆だ。お察しの通りジャックの魔法だ」
「そのジャックは遊びに参加しないのか?」
「悪いな·····俺だけが遊び相手だ·····七つの大罪、プライド·····いいや、今は敢えてルーナと呼ぶよ」
「どっちでも構わない、どっちも俺じゃないのでね」
アーサーは服の内側から隠していた剣を取り出した。
少し苦しそうにも見えるアーサー、一方ルーナは嬉しそうに見える。
善と悪、人間と神、苦と楽、あらゆる面において2人に共通点などない。
それでも、今からする事は2人共同じ······違うものは勝敗だけ。
今まで1番やりずらい相手、アーサーにとってはルーナがそうだ。
いくら憎むべき七つの大罪でも、今まで友達として接してきた事実は変わらないのだから。
「一緒に死んでやる」
「その意気だ、昔のお前のように殺す気で来い」
ルーナの言葉を聞き覚えたアーサーは天に向かって手を突き上げた。
異常なほど徐々に体温が高くなる。
その熱さは砂漠をも超え、近くの建物を溶かすほどだ。
上を見上げたルーナが見たものは、あまりにも近い大きな太陽だ。
大きいと言っても本物程ではなく、建物1つ潰せるくらいの大きさだ。
「最大威力、ウェザー.サン!」
太陽は容赦なくルーナの頭上に落ちる。
建物が吹き飛ぶ中、不思議な事に地面だけは傷つかなかった。
理由はすぐに分かった。
ルーナが太陽を焼けた片手で持ち上げていたからだ。
「キャッチ、次は俺が投げる·····取れよアーサー」
ニヤリと笑ったルーナは太陽をアーサーに投げ付ける。
「ちっ、ウェザー.サン解除」
アーサーに当たる前に太陽が消えた。
魔法を解除したからだ。
「ウェザー.クラウン」
切り替えるように雲を作り出すアーサー。
すぐに雲に乗り、空中に避難する。
「追いかけて来ない?」
ルーナはそんなアーサーを見上げるだけで追いかける様子では無かった。
アーサーは思わず拍子抜けた。
「飛べるはずだ·····なぜ来ない?」
「後ろだ」
そう言ったのはアーサーの背後を取ったルーナだ。
転移空間から身を乗り出している。
「爆破」
ルーナがアーサーの手に触れると手が火花を放ち爆破した。
「いぃぃ!グリードの爆破魔法!?」
「闇魔法」
更にアーサーの体を手から出した黒いモヤで縛り上げる。
「何!?」
「はい、空気弾、バンッ!」
残りの左手も空気弾が貫通し、血が溢れ出た。
「野郎!!」
あまりの苦痛の為、アーサーはルーナを蹴り飛ばし、体にまとわりついていた黒いモヤを体に纏った熱で燃やした。
「ケケっ、手を見る事をおすすめするぜ」
「これは!?」
アーサーの左手の傷口は腐りかけている。
「毒魔法だ」
「なぜ仲間の魔法を使える?」
「神だから」
とぼけた返答をしたルーナはアーサーに手を向ける。
魔法が来るのが分かっても何の魔法かは分からない。
アーサーはできるだけルーナの視界に入らないよう雲で移動するが常に見られてしまう。
「磁力魔法」
「な!?」
激しく逃げ惑うアーサーの体はピタリと止まり、ルーナの手元に引き寄せられる。
「真理の義眼でも持ってんのか!?こんな複数の魔法を扱えるなんて」
手元に来たと思うと次は遠くに吹き飛んだ。
アーサーは不時着し、立つどころか意識が曖昧だ。
「いぃぃ······」
「父を殺され、母が自殺、こんな時代にそんな状況を作ったのはだーれ?」
アーサーとルーナにしか分からない事だった。
アーサーの両親が死んだ事なんて誰にも言ってないのだから。
「ラース·····」
「その通り。なぁアーサー、母親が自分を置いて死んだから·····女性が苦手なのか?父親が殺されたから·····周りの死が怖いのか?」
血を流し倒れ込むアーサーの近くでルーナが囁くように質問と詮索を行う。
それも知っている答えをアーサーに確かめさせるように。
「ラース、アイツさえ居なければ幸せな少年時代だった·····けどなアーサー、アイツが居なければ今の幸せは無かった······ジャックに出会う事も、アリスに出会う事も、無かったかもしれない······この島は確実に無かった。そんな運命のどこを呪いたいんだ?ラースか?自分か?それとも神か?お前は一体何がしたかったんだアーサー」
ぼーっとしていたアーサーは、不思議とルーナの言葉が鮮明に聞こえた。
そして言われた事を考えていた。
「確かに·····お前と会え、戦えたこの人生は素晴らしい······この妙な感情でお前と俺が友達だった証だと実感できるよ」
爽やかに笑ったアーサーはルーナを強く抱き締めた。
ルーナの体を潰す勢いの力で抱き締めた。
「ウェザー.エンド」
静かに瞼を閉じ、魔法を唱えた。
瞬間、2人は光に飲み込まれ爆発音と共に吹き飛んだ。




