神の気まぐれ
ラストによって破壊された建物はミハエル先生の再生魔法であらかた直った。
だが街に残された瓦礫はかなり邪魔だ。
それが原因で学園は急遽休みになった。
そして朝早く病院を抜け出したアーサーは病院に連れ戻された。
「暇だから来た·····その様子じゃ眠れないようね」
アーサーの病室に果物を持ったアリスが訪れた。
「うん·····昨晩でいろいろ起こったから·····いろいろ考えてた」
外を眺めたままのアーサーは、妙に静かで大人しい。
疲労のせいかもしれないが、アリスには違って見えた。
「詳しく聞かせて」
「······どこから話していいか分からない」
「どこからでもどうぞ」
しばらく沈黙が続く·····アーサーはいつも以上に考え込んでいる。
「プライドの事で頭いっぱいだったんだけど、俺さ、ラストがプライドに殺される時、一瞬喜んじゃったんだ。死んで当然、昔の考えに戻ってしまった」
やっと、考えていた事が言葉に出た。
「そう·····今は?」
「今も少し·····だから嫌になる。それもちょっぴりだけ」
「普通よ、別に悩む程でもないと思う」
「だよな······俺もそう思いたいが·····そうなりたくない」
また沈黙。
空気も少し暗く、重い。
「話変わるけど、チョコどうだった?」
ギクッ。
アーサーは一瞬にして焦る。
「実は·····言いずらいんだけど·····ラストに食べられました。本当にすみません」
「びっくりした·····そんな事で良かった」
「え?」
「また作るわ·····今度は時間かけて」
アリスが見せた表情は寂しそうな笑顔だった。
アーサーは思わず胸を締め付けられる。
「あ、ありがとう·····めっちゃ楽しみ」
アーサーは顔を伏せ、頬を赤めた。
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海の見える屋上ではいつものように美叶がベンチに座って居る。
なびく髪も虚ろな目もどこか美しさがある。
「久しぶりに会いに来てくれたね。それに珍しい······ルーナ1人で来るなんて」
そんな美叶の後ろにはルーナが静かに立っていた。
「隣いいか」
「どうぞ」
一言確認を取り、ベンチに座るルーナ。
美叶はそんなルーナを見てニコニコしている。
「何で笑ってる?」
「ルーナが1人で来てくれた事が嬉しいんだ。ちゃんと僕の事が好きだったんだね」
「確認を取るのが好きだな、人間は」
ルーナは相変わらず興味無さそうに話す。
「まるで人間じゃないみたい言い方·····それはともかく僕は神だ」
「あっそう」
「昨日はラストが死んだらしいね?まったく愉快愉快·····殺ったのはまたもやプライドだって話だけど·····本当なの?」
「アーサー言わく本当だ」
「じゃあ、後2人か·····アーサーに先越されると僕的には困るな。プライドはともかくラースは僕が直々に殺す」
ルーナは殺気立った目で遠くを見つめる美叶をしっかりと見ていた。
表情はないがただ見ている訳ではない·····明らかに思考が伴っている。
「殺す·····よく言うぜ、人を殺した事があるのか?」
「あるよ。島に来る前、愛瑠達と共に七つの大罪信者を殺した······後悔はない」
即答だった。
「そうか·····ならいい事教えてやる·····美叶の知りたいこと」
「それは興味深い」
美叶の遠くを見ていた目がルーナに向けられた。
「誰にも言わない方がいい」
「分かった、言ってくれ」
「七つの大罪のアジト、突き止めた」
一瞬にして美叶は表情を変えた。
正確には表情が固まったと言うべきかもしれない。
「どこ?」
「アメリカ·····細かい場所はこの地図を見れば分かる」
ルーナは美叶に地図の入った封筒を渡した。
「どうやって突き止めたの?」
「内緒。奴らのアジトは廃墟になった城だからすぐに分かるはずだ」
「なぜ僕だけに?」
美叶は少し震えながら問いかけた。
「理由はない·····あるとするなら気まぐれだ」
「な、納得出来ない理由だ······僕を騙しているようには見えないし、疑ってる訳でもないがモヤモヤする。なぜこんな大きな情報を僕にだけ?」
ルーナはすぐには答えず、美叶と目を合わせたまま静けさに溶け込む。
「理由を求めるのが好きだな」
「けど、納得を優先したい」
美叶がそう呟くとルーナはゆっくりと立ち上がった。
だが少しふらつき、力の抜けた体を美叶の肩に倒れるように預けた。
「·····ルーナ?」
「ラースを倒せば分かるさ」
美叶の耳元でルーナはそう言った。
だが美叶が次に瞬きをした時にはルーナの姿は消えていた。
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翌日。
朝早くから島の門が開かれた。
理由は美叶が島を出てったからだ。
魔導師達がそれを知ったのは門が閉じて2時間後だった。
「会長、門が開かれたらしいんですけど·····誰か島を出たのですか?」
普段滅多に門は開かれない。
疑問を抱いたミハエル先生は会長室に訪れていた。
「ああ、美叶が荷物をまとめて出ていったよ」
「美叶が?荷物をまとめって言う事はもう戻らないって意味ですか?」
「そうじゃが?」
会長は食い付き気味のミハエル先生を見て不思議がる。
「·····妙です」
「妙?」
「美叶は七つの大罪へ復讐する為だけに島に残っていました。ラースとプライドは刑務所に居るグリードとスロウスを狙うのが普通·····美叶としてはそれを狙いたい······なのにこのタイミングで島を出たのです」
「つまり?」
「見つけたのでは?七つの大罪の居場所·····あるいは手がかりを」
会長は腰を抜かし、ミハエル先生を見たまま椅子から転げ落ちた。
そしてやらかしたと言わんばかりに、
「ど、どうしたら良い?」
「今すぐ美叶の居場所を突き止め、見張りを付けさせるのが1番かと」
「分かった」
会長は慌てて部屋を出て行った。
「だとしてもどこから情報を手に入れたんだ······協会ですら持ってない情報をなぜ美叶が·······引っかかるな」
その後も数分間、ミハエル先生は眠そうだった目を瞬きせず、考えていた。
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学園が始まり、日常が始まろうとしていた。
「おいおい、怪我治ったのか?」
俺はぎこちない歩き方をするアーサーを見て、少し苦い顔をする。
「怪我は先生の魔法で治ってる·····痛いのは変わらないが」
「無理してまで来んなよ」
「嫌そうな顔するなよ、やっぱりジャック俺の事嫌いなのか?」
「嫌なら奴なら口を聞かないね」
俺がいじわるくそう言うとアーサーは少し安心したように笑った。
「ジャック、後で話がある」
アーサーは急に真剣な表情をした。
俺はすぐに勘づいき、
「いつ?」
「帰り、歩きながら話そう」
「分かった」
話の内容は少し気になる。
「2人共おはよう」
俺とアーサーの席を横切ったアリスがいつも通り冷たい表情で優しく言った。
だがいつもとは違って今日は何か言いたそうに立ち止まっている。
「おはよう······な、何か用?」
それに気づいたアーサーが恐る恐る言う。
「今日だよ」
「今日?」
「テストの結果!朝張り出されたらしいよ」
「あ、そうなんだ」
そう言えばついこの前までテスト期間だった。
アリスはテストの結果が出るといつもアーサーと競う。
それはアリスがアーサーに1度もテストで勝った事ないからだ。
負けず嫌いのアリスには苦痛だろう。
「見に行こ」
「はい·····」
廊下に出てテスト結果を見に行く。
アリスが嬉しそうに走るのは珍しい。
かなり自信があると見た。
張り出されたテスト結果の前には何人もが騒がしい状況で群がっていた。
それでも俺達の結果は後ろからでも分かった。
理由は順位が高いからだ。
結論を言う······3位がアリスで4位がアーサーだった。
アリスはそれを見て飛び跳ねて喜んだ。
「やった!やった!私の勝ち!」
ちなみにアリスは500点中460点、アーサーは500点中446点だった。
ちなみにちなみに、俺とルーナは満点で同率1位だ。
アマノが居たら褒めたたえてくれただろう。
「見た·····おめでとう」
子供のように喜ぶアリス、アーサーもそんなアリスを目にするは初めてだ。
「次はジャックにも勝つから」
「それは無理だよ」
俺は嫌味だと分かるように即答した。




