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愛を知らない神様  作者: ビター
ラスト編
93/113

ラスト

 

  ラースは魔導士協会の男と共に小さな人目につかない部屋に移動していた。

  協会の男は手元のタブレットで何かの動画を流す。


  「これは町に配置されているカメラで撮られた映像です」


  カメラに映っていたのはいたのはラトニーがプライドに刺されて死ぬ映像だった。

  だが妙な事に、


  「私の目には力尽きて死んだように見えました。けど魔導士は皆口をそろえて言うのです······プライドが殺ったと」

  「その通りだよ、こいつは魔導士にしか見えない」

  「プライドの魔法について何か知っているのですか?」

  「魔法じゃない······こいつは災害みたいなものだ」

  「それって――」


  男がふとラースの表情を覗いた。

  ラースの表情は目を見なくても怒っているのが分かった。

  それも怒りMAXという訳ではなく、少し我慢が混じったなんとも言えない表情だ。


  「それって·····何だ?続きは·····何だ?」

  「いえ、なんでもないです」


  男は思わず目を逸らした。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  七つの大罪ラスト。

  ラストは七つの大罪の中で1番の大量殺人鬼だ。

  もっとも多い殺し方は空気弾による射殺······正確には射殺ではないが。

  その他にもなぶり殺し、悲惨な拷問による殺人、他者と他者の殺し合わせ、七つの大罪で唯一殺人を楽しむ男だ。

  戦場に居た時期も合わせると軽く200人は殺している。

  歴史上でもトップクラスに命を弄んだ男。

  今アーサーはそんな男と戦っている。


  「良く最初の弾を避けたね」

  「ニヤニヤすんな·····腹立つ」

 

  ニヤリと笑ったラストはアーサーの剣に空気弾を当て、剣を吹き飛ばした。

  すかさず距離を縮めたラストは拳や蹴りをアーサーと交える。


  「ちっ、パワー負けする」

  「大丈夫大丈夫!まだ学生でしょ?これから力つくよ!」


  力はラストの方が強い。

  腕で身を守るがアーサーがラストの拳や蹴りを耐えるように踏ん張る。


  「ボクシングじゃない、総合格闘技だ·····それも殺しアリの」


  ラストはアーサーの腕を掴み、腹に蹴りを入れた。

 

  「くっ!」

  「もう一発!」


  ラストはアーサーの腕を離し、もう一発蹴りを入れた。

  だがラストの手は、


  「太陽の熱を体に纏えるようになったのかい?おかげで手の皮びらびらだ〜」


  皮膚が溶け、血だらけになっている。

 

  「剣!」


  腹を痛めたままのアーサーは近くに落ちてる剣に手を伸ばす。


  「アーサー!剣はダメ!男の子だろ?拳で語ろうや!!」


  だが、再びラストに腹を蹴られる。

 

  「いってぇ!!拳はこっちだろ!!」


  アーサーは睨みを効かせてラストの足の親指を叩くように殴った。


  「普通に痛てぇよ」


  少し不機嫌になったラストはアーサーを屋上から蹴り落とした。


  「野郎!」

  「受け身とれ!アーサー!」

 

  アーサーは咄嗟に雲のクッションを作り、着地した。

 

  「お腹痛みますか〜?」


  だが背で着地したアーサーにすかさずラストの飛び蹴りが当たる。


  「くっ!あああああぁぁぁ!!」

  「痛みますか·····ならオペの時間にしましょう!」


  手が使えないラストはひっこいくらいに蹴り攻めだ。

  更にもう一発、アーサーは蹴られ地面に落ちた。


  「2度も俺に勝ったのに······3度目は負け戦·····理由はシンプル。3度目が本当の実力だから」

  「まだ·····」

  「じゃあ、オペを開始します」


  アーサーの首を足で踏み潰すラスト。

  同時に、アーサーの服から小さな箱が落ちる。


  「何これ?」

  「それは······」


  苦しみながら抵抗するアーサーの前で、箱を開けるラスト。

  箱の中身はアリスの手作りチョコだ。


  「誰から貰ったの?美味しそうだね」

  「返せ!」

  「ダーメッ」


  アーサーの目の前で、チョコはラストに食べられた。

  それも一口で美味しそうに。


  「うん!上手い!君の味がするよ」

 

  食べ物の恨みは怖いと言うがまったくもってその通りだ。

  ラストはアーサーをプツンとキレさせた。

  アーサーはラストの足を熱を纏った手で掴み、くしゃりと捻り潰した。


  「ありゃ?」

  「ぶっ殺す!」


  更に立ち上がったアーサーはラストの顔に綺麗な一発をぶち込んだ。


  「なっ······立てない······がァ!血も止まらにゃい?」


  壊れた建物の壁まで吹き飛んだラストは口と鼻から出た血と折れ曲がった足を見て、困惑している。


  「頭が·····クラクラする·······睡眠は取ってきたのに·······もしかしなくても······金欠か!?」

  「貧血だろバカ······てめぇよくも舐めたマネしてくれたな?」


  フラフラで座り込んでいるラストの前に、剣を持ったアーサーが立ちはだかる。

  剣は鞘が壊れ、刃が見えている。


  「舐めてないよ·····食べただけ」

  「ざけんな」


  剣を振りかざすアーサー。

  だが剣はラストの首元で寸止めされた。


  「·····殺らないのかい?」

 

  血だらけの表情でニヤリと笑うラスト。


  「俺は1度お前を殺した·····2度も殺さない」

  「そうですか」

 

  バンッ。

  小さな音だが確かに聞こえた。

 

  「え?」

  「殺さないなら死にな」

 

  アーサーの胸から血が滲み出た。

  ラストの溶けた指から放たれた空気弾が、アーサーの胸を貫いたのだ。


  「ラスト·····てめぇ······」


  アーサーは膝を震わせ、ふらついた。

  それでもふらついた体は倒れず、前に一歩歩き、ラストの顔に弱々しい拳を当てた。


  「あ·····れ?」

  「魔力が上手く練れていなかったようだな······俺は、ピンピンしてるぜ?」

 

  勝ち誇ったようにニヤリと笑うアーサーを、弱々しい表情で見上げるラストは、悔しそうに片目を細めた。


  「強くなったね、君の勝ちで良いよ。けど、生き残るのは俺らしい」


  ラストがそう言った瞬間、なんの前触れも無くプライドが現れた。

  音も無く、空気の揺れも無く、瞬きの一瞬にして現れたのだ。


  「プライド!?ジャックが放っておくはずがない······まさかジャックを倒して来たのか!?」


  状況を察したアーサーは武者震いがした。

  そしてラストはプライドの肩を借りて立ち上がる。


  「残念、死ぬのは君だよ」

  「いや······お前だ、ラスト」

  「ははは!いつものジョークは帰って聞くよ」

 

  プライドの目は顔に付けた複数の手により良く見えない。

 

  「ジョークじゃない·····俺の正体を知りたいか?」

  「正体?」

 

  アーサーは2人の会話を聞いて、怯えていた。

  少し先の未来が何となく分かったからだ。


  「アーサー、教えてやれ」

  「······人じゃない、神」

 

  ラストは怯えながら言うアーサーを見てもまだ分かっていない。

 

  「プライドが神?」

  「けど今だけは死神だ······ラスト、黄泉の国へお帰りください」

  「は?」


  アーサーの感は当たった。

  プライドはラストの心臓を抉り取り、心臓を風船のように潰した。

  無論、ラストの命は尽きた。


  「お前は······本当に何がしたい?」

  「後2人だな·····いや、正確には1人だが······頑張れよ復讐者」

  「お前――」


  アーサーは一瞬だが確かに見た······プライドの不気味で美しい瞳を。

 

  「またな」


  プライドはラストの遺体を抱えて、消えた。

 

  「馬鹿な······けど似てる·······声も見た目も雰囲気も······全部似てる――」

 

  アーサーが困惑したのはプライドがラストを殺したからでは無い。

  ある疑いが生まれたからだ。


  「ルーナに似てる」


  アーサーの体には震えと後味の悪い何かが残った。

 

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