無神論者
まだ昼になっていない。
太陽がギラギラと小さな島を照らしている。
おかげでエンヴィーの居場所はハッキリしている。
「闇魔法」
エンヴィーの体の役割をしている黒いモヤは奇妙に動き、アーサーとアリスを攻撃する。
黒いモヤが地や木に当たり、次々と島の破壊が進行する。
「奴に近づけば近づく程避けきれない·····」
アーサーは黒いモヤを交わすか剣で斬り裂くかで対応していた。
だが折れた腕、疲れた体、時間と共に不利になるのはアーサーだ。
「植物魔法·····」
アリスが操る樹木はアーサーを援護し、エンヴィーを邪魔する動きをしている。
おかげでアーサーはエンヴィーと対等に戦えている。
「一気に終わらせる!」
アーサーは鉄の鞘が刺さったままの剣に熱のような魔力を纏わさせ、エンヴィーの周りを複雑に渦巻く樹木の上を駆け抜けた。
エンヴィーの死角に入ったアーサーは剣を振り下ろす。
だが剣は肩に当たり、黒いモヤに突き刺さってしまう。
「交わした!?」
「無神論者のガキ·····」
エンヴィーは背を向けたままアーサーの顔に拳を入れる。
だが殴られ、血を吐いたアーサーはニヤリと笑っていた。
そんな表情を知らないエンヴィーは意識を保ったままのアーサーに髪の毛を掴まれ、強く3発、魔力の纏った拳で殴られた。
エンヴィーの頭は皮膚が剥がれ、脳が見えかける。
「は?······まさか!?脳が!?·······こぉぉのガキァ!!」
一瞬戸惑ったエンヴィーは自身の負傷に気付き、アーサーを吹き飛ばして森の方に走って行った。
「修復する気よ!頭はまだ機械の部分がある!」
「·····俺も連れてけ·····早く·····」
傷だらけの顔や口から血を流すアーサーに肩を貸すアリスは、樹木に引っ張ってもらいエンヴィーを追った。
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(やりやがった········まさかあのガキがあそこまで頑丈かつ力強いとは······やはり王の言う通り復讐者は恐ろしい。ともかく脳の損傷を治さなければ·····数分も持たない)
アーサー達から一気に逃げたエンヴィーは森の奥へと走っていた。
頭からは多少の血を流し、ほんの少し苦しそうに走っている。
「ん?」
エンヴィーの目先に背を向けて人が立ち尽くしていた。
「おい、お前·····ゆっくりこっちを見ろ」
警戒し、足を止める。
振り返ったその人は顔に複数の手を身に付け、表情が一切見えない。
その人――プライドは妙に大人しい。
「神!?ご無事で良かった!」
「······体、どうした?」
「·····申し訳ありません、失ってしまいました」
ふらつきながら腰を落とし、頭を下げたエンヴィーはゆっくりと近づいてくるプライドに圧を感じていた。
「お前は俺にとって良い奴だ。家族を愛し、仲間を想い、人を慕い·····いい生き方をする·······それに、人を愛せる」
「有り難きお言葉」
脳の負傷で今にも死にそうなエンヴィーを前にして、自分のペースで話を進めるプライドは少し気味が悪い。
「お前は俺を知った気になった、ただ存在を知っただけでな。9兆年以上生きてきた俺から言わせればお前は赤子だ········お前もラトニーも距離を間違えた」
「ラトニー?」
「無神論者のガキ――」
その瞬間、エンヴィーの首から上に痛みが走った。
エンヴィーは何が起きたか分からなかったがたった1つだけ理解した。
自分が死ぬ直前だと。
「ばいばい、エンヴィー」
「クルーニャ様·······スロウスを――」
エンヴィーはプライドの奥深くを見るような瞳を目にして、この世を去った。
同時に黒いモヤは消え、エンヴィーは首だけになってしまう。
「プライド?」
そこに追い付いたアリスと傷だらけのアーサーが現れ、エンヴィーの死を目撃する。
エンヴィーの穏やかな表情は地に転がり、プライドは目の前で突っ立っている。
「お前が殺したのか?仲間のお前が」
「何言ってんだ·····殺したのはお前らだろ」
アーサーの質問に答えたプライドは仲間の死を悲しむ少年そのもののようだ。
同時にアーサーは体を震わせ、泳いだ目でアリスの方を見た。
「アリス······お·····俺······本当に――」
「落ち着いてアーサー。エンヴィーには修復能力があった。頭も脳以外は機械だった·······どうやら私達が殺した訳じゃなそう」
「······って事は·······やっぱり――」
「エンヴィーの口癖は無神論者······つまり彼自身は神様を敬っていた。もしプライドの正体が神だと知っているなら、プライドに殺されて本望なのは彼らしい······だからさっきまでしかめっ面だったエンヴィーも今は笑っているように見える········どう?プライド?」
プライドに圧と視線を送るアリス。
だがプライドは見向きもせずに布でエンヴィーの生首を包み始める。
「素晴らしい推理ありがとう名探偵······その通りかもな」
そう言って立ち上がるプライドの手には布で包んだ生首が優しく持たれてる。
(逃げなきゃ·······でも·······負傷したアーサーを連れて逃げきれない。それに······足が動かない)
分かっていてもアリスの体は動かない。
思考を重ねる事に増すのは恐怖だけだった。
そんなアリスとは別にアーサーは冷静であろうとした。
「ラトニーを殺したのもお前だと聞いている。なぜ仲間を自ら殺している?それもラースの目を盗んで」
少しでも情報が欲しいアーサーは質問する。
「答えは自分で確かめた方が良い·····嘘つきが相手なら尚更。スロウスは刑務所、エンヴィーは死亡······アーサー、お前の獲物は残り3人·······楽しみだな、お互い」
プライドはそう言うと、エンヴィーの首を持って一瞬で姿を消した。
消える瞬間すらアーサー達には見えなかった。
「消えた······」
アーサーもアリスもホッとして、腰を落とした。
「待てミハエル!!傷が痛むのだろ!?僕に任せて安静にしろ!」
「痛みには慣れてる。それに傷は完璧に再生した。それよりこの血の跡が優先だ」
「待って!本当に待って!」
安心した2人に近づく声は聞き慣れた声だ。
「なんでそこまで言う?·······な、なんで······アーサーとアリスが居る?」
「········」
声の主――ミハエル先生と遭遇したアーサーとアリスは、疲れを忘れ焦りだした。
ミハエル先生の後ろでは美叶が困った様子で頭を抱えている。
だが美叶の足もミハエル先生の体も再生が済まされ治療されていた。
「先生·····これは······」
「······先に治療する。美叶は周りにエンヴィーが居ないか気を配れ」
「先生·······エンヴィーは死にました」
「·····まさか倒したのか?」
アーサーは帰りの船で何があったのか全てミハエル先生に話した。
その時のミハエル先生は小難しい顔をしていたが怒鳴ったりはしなかった。
「島を出た事は協会に話す。処罰の覚悟をしなさい·······協力者のお前もだからな?美叶」
「見逃せミハエル、そしたら優しく接してやる」
「ダメだ」
「·····あっそう。別に処罰なんて怖くないし」
帰りの船でアーサーとアリスが口を開く事は無かった。
それは目の前で起きた数々の物事が2人を考えさせていたのか、処罰が2人を不安にしたのか、エンヴィーの死が影響したのか、2人にしか分からぬ理由だろう。
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「愛瑠、僕は疲れたよ·····今日は悪魔狩りに失敗したけど次は僕が倒すからね」
「着いたぞ」
次の日の午後5時、4人はユグドラシルに戻って来た。
船から降り、セキュリティ付きの門を潜ると車で中央区まで向かった。
「アーサーとアリスは一時停学だ。体を休め、頭を整理し、心を入れ替えなさい」
「「はい、本当にすみませんでした」」
5時40分。
アーサーとアリス、ユグドラ学園近くの寮に帰宅。
「ミハエル、僕をどこに連れてくきだい?」
その後、ミハエル先生は美叶を連れたまま車を走らせていた。
「協会本部、傷が痛むだけで疲れてないだろ?」
「······あの場所には僕を嫌う奴らが多い、あまり好まない」
「魔道士達だろ?それに関してはお前に原因があると思うがな」
「·······なら、今日は気おつけてみる」
「頼む」
車は魔道士協会本部に到着する。
エンヴィー編終わりました。
今回も読んでくれてありがとうございますm(*_ _)m
次回もよろしくお願いします。




