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愛を知らない神様  作者: ビター
エンヴィー編
87/113

約束

 

  蛇に睨まれた蛙の気持ちを知ったアーサーは、エンヴィーを前にして足が動かない。

  それはアリスも同じだった。

  分かっていても土壇場になると動けない······それはエンヴィーが今までの相手とは明らかに違うからだろう。

  対人と言うよりは未知の生物との交戦、アーサーにはそっちの方がしっくりくる。

 

  「羨ましいな·····周りに恵まれて、当たり前が約束されて、未来に希望がある·······なのになぜ不幸になる方を選んだ?お前らは自分の幸せさが分からない訳じゃないだろ?」


  哀れみの目を向けながらため息をつくように呟くエンヴィーの言葉はアーサーの怒りを誘った。

  アーサーの動けなかった体は怒りによって動けるようになっていた。


  「自分の幸せさは分かる·····逆にお前は分からないのか?お前が不幸にして来た人の事を。皆思ってるぞ、報いを受けろと·······行動に移す者だって現れる······その1人が俺だって事を分からないのか?」

 

  体に纏われた魔力はアーサーの怒りそのもののようだ。

  力んだままの手は背中の剣に触れている。


  「つまりお前はこう言いたいのか?今まで俺に殺された人の為、俺によって苦しんでる人の為戦う······と?だとしたら最低だな······他人を戦いの理由に巻き込むな」

  「アリス下がって、悪いけど奴は機械·····手加減無しでも済みそう·······誇りと感情を優先する」


  アリスを守るように前に出たアーサーは剣を手に取り、エンヴィーに真っ直ぐ突っ走た。

 

  「激高しやがって、誇りや感情を優先する奴は復讐者失格だ」


  そう言って突っ走てきたアーサーに蹴りを入れるエンヴィーだが感触が妙だった。

  良く見るとエンヴィーの足とアーサーの体の間には弾力のある雲があった。


  「ウェザー.クラウン」


  隙を見て素早く雲を踏みつけたアーサーの体は強く弾かれ、宙に浮く。

  そこから軽く落下するアーサーは剣をエンヴィーの肩に差し込み、肩を割って壊した。

 

  「どうした?早く距離を取ったらどうだ?」


  だが剣はエンヴィーの機械の肩から外れない。

  まるで壊れた鉄の部分が口のようになって、剣に齧り付いているようだ。


  「ちっ。ウェザー.サン!」

  「遅い」


  慌てて太陽を当てようとするアーサーだが、先にエンヴィーに蹴られる。

  飛んできたアーサーをアリスの植物が優しく捕まえるがアーサーは左腕が折れてしまった。


  「アーサーしっかり!」

  「離れろ!俺がやる!」


  アーサーは苦しそうにしながらも剣を放さず、左手をぶらりと下げたまま体を動かそうとする。


  「いや、俺が殺る······闇魔法――」


  手に黒い煙のような魔力を集中させたエンヴィーがトドメを刺しに来る。

  そんな状況でアリスは焦りながら、


  「スロウス!?なぜ貴方がここに!?」


  エンヴィーの背後を見ながら驚いた表情をした。


  「何だと!?」


  エンヴィーも釣られて背後を振り返った。

  だがそこにはスロウスの姿は無く、複雑に草木が広がるだけだった。


  「居ない······はッ!」

 

  エンヴィーが再びアリスの方を見るとアーサーの姿もアリスの姿も無くなっていた。

  代わりにあったのは2人の行き先を隠すように広がり動く樹木だった。


  「ガキがァ!嘘つきやがって······」


  しかめっ面になったエンヴィーは機械の視界で注意深く周りを見渡す。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  少し離れた場所、エンヴィーを遠目で確認するアリスは身を隠すようにアーサーと共に草木に隠れた。

 

  「次は私が援護しやすい位置で戦って。1人で倒せる相手じゃないわ」

 

  アーサーの折れた腕を樹木で固定するアリスは少し怒っているように見える。


  「分かった、けどどうしようも無い時は逃げて」

  「アーサーが逃げたら逃げる······この戦いは何をするのも2人で······私を守ろうとしないで」

  「ごめん」


  2人は小さな声で会話を終えると慎重に草木から身を出し、周りを見渡した。

  だがエンヴィーの姿はどこにも無い。

 

  「日差しが強いから闇魔法で身を潜めるのは不可能·······」

 

  不思議そうにするアーサーだがアリスは目を瞑り、瞑想してるようだ。


  「分かった、奴は地中の中······不意打ちされないようにしたんだろうけど·······私相手には無駄だったね」

 

  少し嬉しそうに笑ったアリスは強く地に手をつけた。

 

  「捕えた!」


  アリスがそう言うとすぐ目の前の地面から巨大な樹木や根っこに縛られたエンヴィーが地を破って出てきた。


  「え!?どういう事だ!?」

  「ガキ、なぜ分かった?」


  アーサーもエンヴィーも驚きを隠せない。


  「この島は植物や木でいっぱい、私は周りの植物も操れる······それだけよ」

  「流石アリス!!そのまま縛って!俺がやる!」


  アーサーは自身が創り出した小さな雲と、アリスの樹木を踏み台にして、エンヴィーの体に触れた。


  「ウェザー.サン!」

 

  アーサーに触られたエンヴィーの体は徐々に溶けていく。

  まるで小さな太陽に食われてるようだ。


  「この体が溶けるだと!?どうにかしなくては」


  慌ててジタバタ動くエンヴィーだが、次々にエンヴィーを覆う植物が逃がさない。

 

  「ガキどもぉぉぉ!!!」


  数秒後、エンヴィーの叫びと共に体は溶けきった。

  残ったのは生身の部分が多い顔だけだった。


  「うっ·····」


  アリスは目の前の光景に動揺した。

  植物の拘束からエンヴィーを離すと慌てるように木の影に駆け寄り吐いてしまった。


  「アリス!?大丈夫?」


  アーサーは苦しそうに吐くアリスに駆け寄り背中をさすった。


  「バカ!殺さないんじゃなかったの!?もっと·····もっと違う手段があったのに·····」


  だがアリスはアーサーの手を叩いて、涙を流した。

  アーサーはこんなにも感情をさらけ出すアリスを初めて見た。


  「し、死なないと思った·····それに手加減出来なかった」

  「嘘つき·····アーサーの誇りはどこに行ったの?こんな状況を前に動揺も悲しみも哀れみも見せない――私の知るアーサーはどこ?」


  アリスの一言でアーサーは目の前が真っ白になった。

  自分が思っていた以上に他人が自分に関わっている事を実感した。


  「アリス、俺は――」

  「それでこそ戦士、それでこそ復讐者······安心しろ小娘、俺は生きてる·····そして絶望しろ、俺が生きていた現実に」


  2人は背後から聞こえた嘲笑うような声に、背筋を凍らせた。

  恐る恐ると振り返ると死んだはずのエンヴィーが居た。

  だが機械の体では無い····黒いモヤで作られた体に、エンヴィーの頭がくっ付いている。


  「嘘·····」

  「無神論者のガキ共は発想力も想像力も無い······だから詰めが甘い」


  エンヴィーは近くにあった自分の服を拾い体を隠すように羽織った。


  「だが落ち着け、機械の体を壊された俺は酷く弱体化した。スロウスを助けに行く事も神の位置を把握する事も出来ない――」


  慌てるアーサーを落ち着かすように話を始めたエンヴィーは近くの木に座る。


  「だがお前らは俺に勝てないだろ?そこで提案だ」

  「提案?言ってみな」

  「どちらか1人が島に戻りスロウスを連れて来る。それが出来たら2人共見逃してやる」

  「論外、頭悪いのか103歳?黙って俺と遊んでくれ」


  ひあ汗をかきながらも、強気なアーサー。

 

  「はぁぁぁぁ·····分かった、ガキのしつけをしてやる」


  ため息をついたエンヴィーはアーサーを見下ろしたまま立ち上がった。


  「アリス、逃げて――」

 

  小さな声で言ったアーサーの言葉を聞き、アリスは今にも泣きそうな、虚しい表情を浮かべた。

 

  「けど、約束通りなら······一緒に戦ってくれ。もう泣かせない――」


  だがアリスはアーサーをゆっくり見て表情を変えた。


  「誰も死なせない。俺をもう一度信じてくれるなら······約束します」


  アーサーはそう言って立ち上がりアリスに右手を差し伸べた。

  泣きそうなアリスは少し嬉しそうに、


  「嘘つきアーサーなんて信じられない······けど、信じたい」


  アーサーの手を掴んだ。

 

  「ありがとう」

  「······どういたしまして」


  手を握ったままのアリスは微かに、照れくさそうに頬を赤めた。


  「羨ましいな·····幸せなまま死ねるなんて」


  そんな2人を見てエンヴィーは嫌そうな表情を浮かべ、小さく呟いた。

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