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愛を知らない神様  作者: ビター
エンヴィー編
83/113

昔のジャック

 

  (脳が破壊された状態でスロウス奪還は無理だ)


  遠くに見える雲に乗ったアーサーとスロウスを追うエンヴィーの頭の中にテレパシーのように声が聞こえた。

  声の持ち主はプライドだ。


  「神!?」


  エンヴィーは表情を変えながらもスロウスを追う。


  (今ラースとラストを転移魔法で逃がした。だが白髪に見つかって逃げれそうにない·····今はスロウスを諦め島の外に逃げてくれ)


  息切れした声に余裕は見られない。


  「白髪·····もう1人の神か······。神の為なら······少し我慢はできます」


  エンヴィーは機械の手をギシギシと折り曲げながら雲から目を背け、島の外に向かった。


  「ケッケ·····なーんてな」


  ユグドラシル全体を見るかのように少年が上空に浮いている。

  顔に6つの奇妙な手を身に付けた少年――プライドは1人ほくそ笑んでいた。


  「ジャックは記憶を5年巻き戻し弱体化、スロウスは確保、エンヴィーは島の外に·······完璧だ。これでゲームが面白くなる」


  息切れひとつしてないプライドは空中に座り込むように体勢を崩し、騒がしいユグドラシルを眺めた。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「逃がすか逃がすか逃がすか!!悪魔は1匹も逃がさない!」


  少し暗く視界がはっきりしてない中で美叶は離れて行くエンヴィーを追っている。

 

  「頭が痛い······時間さえあれば治療はできる······だが、お前が邪魔だ!無神論者のガキィー!」


  頭を抑えながら逃げていたエンヴィーは怒鳴りながら振り返った。

  振り返ったと同時に壁に掴まりながら糸を使って飛んでくる美叶を蹴り飛ばす。


  「ぐっ!」

  「スロウスに何かあったら死だけでは済まさんぞ」


  エンヴィーは島の巨大な壁を軽々しく登り、暗闇に去って行った。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  その日、ラースとラストはプライドの転移魔法で、エンヴィーは島の外に逃げた。

  スロウスはアーサーにより捕らえられ、魔道士専用刑務所に入れられた。


  「傷だらけなのにごめん、でもどうしてもアーサーが必要なの」


  朝日が昇り、しばらくしてアリスが病院に居るアーサーを尋ねた。

  包帯や傷が目立つアーサーは眠そうにしながら自身の雲に乗り、病院を出た。


  「別に良いけど、きっと病院の人や先生に怒られるな。それに体が重い」

  「それを分かった上での用事」


  アリスがアーサーと訪れたのは学生の寮だ。

  2人はある部屋のドアを開け、恐る恐る入った。


  「ジャックの部屋?」

  「しっ!静かに」


  アリスは妙なくらい音を殺し部屋の奥に進む。

  アーサーも歩きずらそうに足を引きずりながら部屋に入る。


  「え?何この状況·····」


  アーサーは目の前の状況に顔を引きつった。

  樹木や草木で1人の少年が体を固定されている。

  性別が分からない程中性的、白髪で幼い少年は眠っているようだ。

 

  「アリスの植物魔法だよね?」

  「今から起こすけど決して慌てないでね」


  アリスは恐る恐る少年の体を樹木で強く引き締めた。


  「ん·····いってぇ·······あっ!てめぇ放せ!何で人間が魔法を使える!?」


  少年が目を覚ましたと思うとアリスを見て怒りだした。

 

  「ジャック·······いつものジャックじゃない?」

  「恐らく·····ジャックの記憶が過去に遡ってるの」


  後ずさりするアーサーにアリスが冷静に言った。


  「アリス·····そっちはアーサーか······俺の名を知ってるって事ははやりクルーニャの仕業。夢なら良いが·····夢じゃないなら覚悟しろよ?てめぇら殺すからな」


  少年――ジャックは異様なオーラを放ちながら2人を睨んだ。


  「こんな事が出来るのはたった1人、ジャックと同じ存在」

  「あぁ、七つの大罪プライドの仕業だな」

  「だとしたら何が目的で······」

  「混乱とか?いや·····実際のところ目的までは分からない」


  アリスとアーサーは目の前で睨みを効かせる俺を前に淡々と話を進める。


  「取り敢えずジャックに現状を信じてもらう」

  「だな、じゃあさっそく。俺はアーサー、ジャックの友達だ、ジャックは今何歳なんだ?さっきまで何をしていたんだ?」


  俺に質問を投げかけるアーサーは少し震えている。


  「10歳、さっきまである男に追い詰められていた。目もくり抜き潰されたはずだった·····だが今は見える。それと、本当に友達なら助けろ·····頭おかしいのか?」


  俺は先程より少し冷静さを取り戻しつつあった。


  「ごめん今は無理だ、少し我慢してくれ」

  「お前らさっきから俺の記憶が戻ったとか言ってるよな?確かに敵には見えない·······説明しろ、この状況」

  「分かった、冷静に全て信じてくれ」


  それからアーサーは俺に全てを話した。

  内容は俺が最愛の神アマノを失った事、それからの5年間、そしてアーサーとアリスとの関係だ。


  「アマノが死んだ?誰に殺られたんだ?それにクルーニャも既に居ないだと?」

 

  俺は頭の中真っ白になり、震えた。


  「そこまでは聞いてない」

  「俺の目が見えるのは······アマノの目だから······死んだ······」


  俺は身動き取れないまま心底悔しくなり、泣いた。


  「過去の俺は守れなかったのか·····」

  「うん······あえて死体の場所は教えないよ」

  「そう······死んだならいいや」


  そう呟きながらも涙は止まらない。

  俺の目がアマノの目、つまり真理の義眼·····俺の目にはアーサーの心の中とアマノの死体の記憶が見えていた。

  アマノの目で見た真実を受け入れた。


  「うっ······わぁぁぁん、うわぁーー!」

  「ジャック·····」


  先程と打って変わった泣きわめく俺をアーサーとアリスはただ見つめた。

  樹木の拘束は解かれ、俺は赤ん坊のように座り込んで泣きわめいた。


  「トゲトゲしかったけど、本質はジャックだわ」

  「うん、こんな幼いジャックは初めて見るけど·····ジャックだ」


  2人は俺に寄り添った。


  「······んん」


  俺は泣き疲れ寝ていたらしい、目覚めると昼頃になってた。


  「落ちついた?」


  目の前にはアリスが静かに座って居た。

  隣ではアーサーが爆睡している。


  「アマノの仇を見つける、そして記憶も戻す······手がかりはそのプライドとか言う神······協力する」

  「ありがとう」

  「プライド·····そいつについてもっと詳しく説明しろ」

  「七つの大罪、さっき説明した魔道士の中でも凶悪な犯罪組織。その1人を演じてる神、歳は私達と同じくらい、顔には奇妙な手を付けている。確かその手は······ジャックが言ってた······サタン?とか言う人·····じゃなくて天使?の手らしいよ」

 

  俺は表情を変えアリスに目線を向けた。

 

  「サタンだと!?······だとしてもなぜサタンの手だと未来の俺は分かったんだ?·······だが大きな手がかりだな、サタンの手を顔に付けた神······捕まえて全て吐かせてやる」

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  その日の夜、魔道士協会本部では島の魔道士と協会の者で会議が行われた。

  席には協会の者が5人、Sランク魔道士が6人、そして美叶と愛瑠が居る。


  「ミハエル、報告を」

  「分かりました」


  ミハエル先生は協会の会長を見て立ち上がった。


  「私が現場に来た時には皆殺られていました、原因はエンヴィーの並外れた強さでしょう」

  「エンヴィー?闇魔法を使い機械の体を持つ男か?」

 

  ミハエル先生は会長の質問にコクリと頷く。


  「私が来てからすぐにアーサーと美叶が来ました。アーサーはスロウスを足止めし、私と美叶でエンヴィーを相手しました」

  「なに?生徒に戦闘を許したのか!?」

  「生徒であり、Sランク魔道士でもあります。それに、そうせざるを得なかった」

  「まぁいい、続けろ」

 

  協会の1人の質問を返したミハエル先生はため息をつきながらも話を続ける。


  「結果アーサーはスロウスを確保、私と美叶はエンヴィーを逃がしました。ですが逃げ場は転移魔法では無く·····島の外です。現在は島から少し離れた別の島に居ます」

  「待て待て!逃がしたのになぜエンヴィーの位置が分かる?」

  「私がエンヴィーに発信機を付けたからです」

  「「「な!?」」」


  ミハエル先生はエンヴィーの現在地を映したパソコンの画面を皆に見せた。

  協会の者も魔道士達もパソコンの画面を見て表情を変え、息を飲んだ。

 

  「きっと転移条件が揃ってなく転移魔法で迎えに行けないのでしょう、でなければプライドが裏切り者にしかなりませんし」

  「ならば今エンヴィーを捕らえるチャンスだ!」

  「その通り、ですが島の外に配置していた船があらかた行方不明になりました、きっとエンヴィーの仕業ですが·······。今使える船は小船しかありません。ですから数人でしか行けません、それに奴に大人数は無意味でしょう」


  ミハエル先生がそう言うと皆黙り込んで静まり返る。

  しばらくすると会長が皆の顔色を伺いながら、


  「誰にする?」

  「Sランク魔道士3人――」

  「僕と愛瑠だけで良い」

 

  ミハエル先生の声をかき消し、美叶が言った。

  同時に皆、不満そうに美叶の方を向く。


  「······無理だ、それに愛瑠を持ってくなら船の場所を取る」

  「黙れミハエル、僕が行くのは絶対だ。それに魔道士は男だけ·····同じ船で何日も居るなど絶対に嫌······だから僕だけで良い」

  「「「········」」」


  美叶は愛瑠の髪の毛に櫛をかけながら不機嫌そうにしている。

 

  「あまり調子に乗るな、魔道士でも無いお前がわがまま言うな」

 

  1人の魔道士が席を立ち、美叶を見下ろしながら言う。

  だが美叶はその魔道士を睨み、糸で縛り上げた。


  「ぐっ!」

  「あまり調子に乗るな、魔道士のくせに瞬で殺られたお前はゴミだ。神である僕に口を開くな······それと僕を見るな、気持ち悪くて吐きそうだ」

  「止めろ美叶!!」


  虚ろな目で男を見下ろす美叶は、ミハエル先生の怒鳴り声に反応した。

  「ちっ」と舌打ちをしながらも糸を収めて、再び席に座る。


  「くそっ!あの女!」

  「よせ!美叶に構うな」


  ミハエル先生は男の前に手を出し、美叶から突き放した。

  協会の者や他の魔道士は突然の事に戸惑っている様子だ。

  再びため息を漏らしたミハエル先生は会長と美叶を横目で見ながら、


  「美叶と愛瑠にしよう、だけど俺も行く。俺の魔法は治療にも使えるし船が壊れた時治せる」

  「ふざけるなミハエル、お前に気を許した覚えは無い」


  愛瑠に背後から抱き締められた状態の美叶はミハエル先生を睨む。


  「1人で行くなら行け、船の運転が出来たならな」

  「船の運転·····」

  「俺は出来る、それでも1人で行くか?」

  「······ちっ、お前だけだからな」

 

  ミハエル先生はため息をつき、会長の方を向く。


  「決まりました」

  「だな」

  「あ!······すみません、忘れていた事があります」

  「なんだ?」

 

  ギスギスとした空気の中ミハエル先生は間を開けた。


  「エンヴィーの実年齢は103歳、奴の正体は最初の魔道士、ドイツの軍人エーミールでした」

  「何だと!?最初の魔道士!?」


  ミハエル先生と美叶以外の全員が声を発して驚いた。

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