機械の悪魔
機械の体を持つ男エンヴィー、この頃の俺は40歳。
妻が自殺した理由は死んだ息子と·····俺に会いに行くためだろう。
だがそこに俺は居ないし、息子も居ないだろう。
「死のう」
俺も無い者を追いかけるように自殺を測った。
だが機械の体では高い場所から落ちても、体を銃で撃ち抜いても、なかなか死ななかった。
オマケに窒息死も餓死も出来ない。
今考えて見れば脳みそが唯一の急所だったが、この時の俺は考える余裕も気力も無かった。
死ぬことを諦めた俺は毎日ひたすら街中を歩き家に帰る、それだけを繰り返すようになった。
だがある日を境に俺は生きる希望を見出した。
「あの家の奥さん敵軍に攫われたんだってよ、まだお腹に子供も居たのにな」
1人の男が俺の家を見ながら言った。
最初は気にする事も理解する事もしなかったがふと男性の言葉に引っかかった。
「奥さん·····え!?」
俺は慌てて男の元に駆け寄り、問いかけた。
「今の詳しく教えてくれ!」
「今のって·······」
「俺の家の奥さん!それって!?」
俺が引っかかったのは正解だった。
俺の息子は若くしながらも奥さんが居たようだ。
その奥さんはお腹に子供を授かりかった状態で敵軍に攫われたらしい。
攫った理由は情報が欲しかったから······たまたま攫われたんだと理解した。
「孫が居る······助けに行かなくては」
それから俺は孫を探す為、世界中を渡った。
情報はなかなか得られなかったが神がくれた機械の体が役に立った。
食べる必要も眠る必要も風呂に入る必要も無い体。
オマケに疲れる事は無く、5キロ離れた場所もハッキリと見え、透しなど様々な事が出来た。
俺は限りなく神に近い人間になっていたのだ。
俺が義理の娘と孫を探しては51年経ったある日、探しものをやっと見つけた。
年々時間感覚が早くなっていたせいか自分が91歳だと忘れる程、時間は経っていた。
ほとんど情報が無い中、良く見つけれたものだと自分でも驚いた。
孫が居たのはかつてドイツの敵国だったイギリスだ。
「これが孫の·······」
孫が住んでいると思われる立派な家を見て俺は感動した。
戦争も殺し合いも無縁な時代と場所で俺が望んた生活をしているからだ。
「どうしたんですか?ここ僕の家だよ」
家の前で突っ立っていた俺を見て10歳くらいの男の子が話しかけて来た。
紫色の髪をしたその子は俺の息子に良く似てた。
「まさか······」
「スロウス!また勝手に家から出て!ダメでしょ!」
俺が男の子の方を見た途端、家のドアが開いて1人の男が男の子に軽く怒鳴った。
「あっ、もしかしてうちの子が何かしましたか?」
男は俺に気付いて腰を低くした。
「いや、あの·····貴方の親·····ドイツ人ですよね?」
「は、はい、私の顔見たまんまです······」
「や、やっぱり!やった!」
俺は思わず取り乱し、感情むき出しで喜んだ。
「あの·····どちら様?」
「落ち着いて聞いて、そして信じてくれ」
「はっ、はい」
「貴方のお爺さんにあたる人だ」
「お爺さん·······なるほどぉ、スロウスちょっと来なさい」
当たり前だが男――孫は信じた様子では無かった。
そろどころか怪しんで男の子を家の中に入れた。
「信じてないだろ」
「まぁ、だって私より若いですし······それにお爺さんは死んでますので」
孫の言う通り。
俺はあまりにも若すぎる······機械の体を手に入れてから老いとは無縁になったのだから。
「全部話す!だから信じろ!」
結局俺は若さの謎、これまでの成り行き、全てを話した。
30分かけて話をした時、やっと孫は信じた表情を浮かべた。
「神に妙な機械······信じられないが、言われてみれば·····顔付きが似てる。じゃっ、じゃあ貴方は私の····本当····!?」
「そう!ずっと探してたんだ······ずっと······」
孫は信じきった。
目を泳がせ、キョロキョロとしながら驚きを隠せない。
「じゃあ、爺ちゃん?我が家に······住みますか?」
孫は戸惑ったまま聞いてきた。
「そうしたいが突然の事で家族が動揺するだろ?それにお前の母親の様子も見に行きたいから今日は止めとく。毎日顔を見せて徐々に慣らす事にする」
「わ······分かったよ。じゃあね、爺ちゃん」
俺は孫の家族の事も考え、すぐには孫の家に住まなかった。
だが、その考えが間違えだった。
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次の日、義娘が病気で死んでいた事を知った俺は墓参りやアルバム確認などを済ませた。
その為、孫の家に行く時間は夜遅くになってしまった。
「真っ暗だ、だがまだ全然大丈夫」
俺は孫の家のチャイムを鳴らした。
妙な事に明かりがついている家からは誰も出なかった。
俺は妙な胸騒ぎがして家を壁越しに透かして覗いた。
「え······な、何だ·····これ」
絶望······まさにそれだった。
俺の目に入ったのは血塗れになって倒れている孫とその妻だ。
「くそっ!嘘だ嘘だ嘘だ!!」
すぐにドアをぶち壊して家に入った。
妻の方が死んでいたが孫はまだ息があった。
「おい!しっかり!」
俺に気付いた孫は体を震わせながら小さく目を見開いた。
そして俺の服を弱々しく引っ張り、
「爺ちゃん·······俺の息子······スロウスが攫われた········爺ちゃんの曾孫······助けてくれ、お願いだ」
そう言ってすぐに息を引き取った。
51年探し続けたものが一瞬にして崩れた。
この時俺は機械の体になって初めて、涙を流した。
涙が流れた事で、自分が人間だという実感が湧いた。
「何で······」
「その方とどんな関係だったのですか?」
俺が血塗れの孫を抱きながら泣いていると男の声がした。
泣きながらも顔を上げると赤髪のアメリカ人が居た。
いつ家に入って来たか分からない男は優しい瞳を薄らと開き、俺を見ている。
「孫だ·····信じられないだろうが俺の孫なんだ·····」
「確かに信じられませんが貴方の言ってる事は嘘じゃない·····嘘つく理由が無い。私はイギリストップの魔道士マーレ、私がもっと早く来ていれば反魔道士を撃退できた······すまない」
俺には魔道士という言葉が何なのか分からなかった。
それどころか男の言っている事も分からなかった。
「マーレ?あんた何言ってんだ?」
「イギリストップの魔道士マーレ、それは仮の姿。俺の名はラース、貴方と話がしたい」
男――ラースは少し低い声で言い、俺に寄り添うようにしゃがみ込んだ。
「悪い·····今はそんな気分になれない·····立ち直れないんだ」
「じゃあ一方的に話します、貴方の孫も·····曾孫さんも魔道士です。曾孫さんを攫った理由は金目的、あるいはその力目的、あるいは実験目的、そんなところです」
孫と曾孫の事を話しているラースに少し意識を向けた。
グシャグシャになった気持ちを抑えつけながら冷静さを装った。
「魔道士って?」
「······魔道士は魔法を使える人間です」
「魔法って·····」
俺は右手に黒い球体を創った。
ラースはそれを見て少し驚いた表情を浮かべた。
「はい、それです。てっきり霊媒師の方かと勘違いしました」
ラースも俺もしばらく黙り込んだ。
俺は血塗れの孫を見る度に絶望した。
「辛いですか?苦しいですか?憎いですか?」
突然ラースが問いかけてきた。
「悪いのは魔法の力を手に入れた人間です。神と人間が同じ世界に住むから悲しみが増える······どうですか?俺に力を貸してくれませんか?生きるのを諦めるくらいなら·····俺を手伝ってくれませんか?」
俺はラースを見て虚しく、悲しく、そして清らかになった。
この人の力になりたいと純粋に思った。
「王·····神の次は優しい王様か·····ぜひ手伝わせてください」
「良かった、じゃあまず貴方の曾孫の救出を優先させましょう········貴方の名前は?」
「えっ·······エンヴィー」
咄嗟に名乗った名前は本名ではなくあだ名だった。
それも好んで使うようなあだ名ではない、悪魔を意味する酷いあだ名だ。
それから俺は孫を殺した魔道士を次々と殺した。
関係ない魔道士も霊媒師も何の疑問を抱かないまま殺し続けた。
戦争で誰1人殺さなかったエーミールは殺さなくてもいい時代に魔道士と霊媒師を殺すエンヴィーになった。
人間だった俺は消え、今じゃ体も心も機械そのものだ。
そしてラースと出会った5年後、実の曾孫スロウスを見つけた。
スロウスも戦争をさせられていた。
戦争と魔道士は嫌い·····だが家族と王と神は好きだ。
中でも家族·····血の繋がった曾孫、つまりスロウスは特別だ。
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(くだらねぇ)
ユグドラシルの薄暗い夜、街の屋の上でエンヴィーは星を見上げていた。
そして目の前に居るミハエル先生と美叶を澄んだ目で見た。
「羨ましいな、こんな時代に生まれ、家族を作る余裕もある·······なぜその幸せを知らないような顔をするんだ?」
エンヴィーの一言を聞いた美叶は血管を浮き上がらせ、睨みを効かせた。
「僕の······僕の家族を奪ったのはお前らだろ。愛瑠を奪ったのもお前ら······2度も奪ったのはお前ら七つの大罪だ·······3度目を防ぐ為戦っているのが分からないのか?」
「分からない」
「屑が!!」
美叶は指からエンヴィーの胴体に向け糸を放った。
(余裕で避けれるわ)
だが糸はエンヴィーの手前で曲がり、頭に突き刺さった。
「な!?」
「前回の戦いで理解した、お前の核、つまり急所は脳だ」
エンヴィーはすぐに頭から糸を引き抜き、ふらつきながら頭を抑えた。
(あのガキ······冷静だった。しっかり俺を観察してやがった······ミハエルに意識を向け過ぎた)
エンヴィーの頭からは微かに血が出ている。
「良くやった美叶!」
「まだ!」
美叶は更に走って距離を縮める。
「闇魔法······」
エンヴィーは周り一体を暗闇に包んだ。
更に機械の体から触手を伸ばし、街中の壁や床を走り抜けた。
「逃げる気だ!」
「そうか·····なら逃がす」
ミハエル先生はエンヴィーに向けて何かを投げた。
「お前は待ってろ、僕が追う!」
「待て美叶!」
美叶は街中に糸を貼って、離れて行くエンヴィーを追った。
「追ってくるか·····ん!?」
エンヴィーは遠くに浮く白い小さな雲を見かけた。
機械の体で良く見てみると雲にはアーサーと拘束されたスロウスが居た。
「スロウス!!」




