表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を知らない神様  作者: ビター
エンヴィー編
81/113

戦場の悪魔

 

  もう75年も前の事だ、七つの大罪闇の魔道士エンヴィー――つまり俺が戦争をしていたのは。

  俺が28歳の冬、母国ドイツはまだ第二次世界大戦中だった。

 

  「そろそろ出発だぞ!」


  家族が居てもお構い無しに戦場に送り込まれる。

  戦場に向かう汽車の前で6歳の息子を連れた妻が出迎えてくれた。

  周りの兵士も身内との別れを告げている。


  「じゃあ行ってくる、愛してるよ」


  妻にハグとキスをした俺は切ない表情を隠しながら汽車に向かう。


  「パパ!帰ったらキャッチボール!約束だよ!」

 

  だが息子の元気な声が俺の足を止めた。

  俺は思わず振り返り、何も知らない息子を強く抱きしめに行った。


  「パパ?」

  「約束だ······帰ったら、キャッチボール」


  泣きながら約束を交わす俺を不思議そうに見る息子の顔を······忘れた事は無い。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「エーミール、お前はこっちだ」


  俺の本名はエーミール、エンヴィーはあだ名だ。

  俺の魔法を悪魔の力と例えた人々がいつしか俺をエンヴィーと呼ぶようになったんだ。

  まだ魔道士や魔法と言う概念が無かった頃、俺の闇魔法は悪魔の力と言われた。

  黒くて不気味な闇魔法は人々には悪魔の力に見えたのだろう。


  「お前はその悪魔の力で兵士達を守りつつ攻めろ、お前が居ればドイツの勝利は間違いない」

  「分かりました、ですが悪魔の力より神の力と言われたいものです」

  「ハッハッハ!分かった分かった、神の力を持つお前に任せる」


  ドイツ軍は無論、俺の闇魔法を戦争の武器にした。

 

  「進めー!!」


  戦場は凄まじかった。

  真っ白の雪の上で血と鉄の流し合いが止まない。

  白い雪は死体と血で赤く染まり、冷たい空気は兵士達を包み込む。


  「闇魔法·····」

 

  俺はこの時から自分の力を魔法と呼んでいた。

  黒いモヤを具現化させた物を手から放ち、向かってくる敵軍を広範囲で蹴散らす。

  吹き飛んだ兵士達はすぐに銃で打たれ死んでいく。


  「その調子だエンヴィー!悪魔の力があればこっちは負けねぇ!」


  ドイツ軍は俺の魔法のおかげで調子に乗ってしまった。

  俺は戦争で人を殺した事が無かった。

  闇魔法の護衛は相手を蹴散らし、吹き飛ばすだけの護衛。

  トドメを刺すのはいつも味方の銃弾だ。


  「俺って、卑怯な奴······皆いやいや殺してるのに俺だけは安全地帯······」


  そんな事をいつもいつも気にして戦場に居た。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  戦場に駆り出されて12年月日が経った。

  俺は40歳にして上官になっていた。


  「あの日、40歳?若いな」

  「40の若さで上級大将だぜ?凄いよな、3番目に偉いんだぜ」


  40歳になったこの日も冬だった。

  毎年、雪が降るのを見ると家族を思い出す。

 

  「ワシらより年下なに·····悪魔の力が有能だからってずるい奴だ。やはりアイツは嫉妬悪魔······エンヴィーだ」


  俺より年上で下の地位の者は俺をよく思わない。

  嫉妬してるのは奴らのに、俺を嫉妬の悪魔扱いだ。

  歳の割に無能な老人、嫌いだ。


  「今回もエーミールの作戦で行く、合図はエーミールに任せる」

  「分かりました」


  俺の作戦は良く採用された。

  昔から頭は良かった俺は他のバカ共よりは使える。

 

  「流石エーミールさん、1人で1000人分の兵士と言われる、ドイツ軍最強の兵士」


  ドイツ軍も敵軍も俺をそう呼んでるらしい。

  だが本当の俺は1人も殺した事の無い卑怯な奴だ。

 

  「さて······突撃!」


  その日も必死に戦場を駆け抜けた。

 

  「闇魔法!」


  思えばその日、敵軍の様子が妙だった。

  迫り来る敵を闇魔法で凪はなったと思えば俺は一瞬で吹き飛ばされた。

  爆破音と共に俺の体に痛みが走った。


  「な·····」


  吹き飛ばされながらも見えたのは、凪はなった敵の背後にある戦車数台だった。

  敵軍は兵士を囮に戦車で俺1人だけを狙ったのだ。


  「エーミール大将!」


  味方が何か言っているが何も聞こえない。

  雪に埋もれた俺は身動きが取れなかった。


  「なっ、どおなってる·····は?」


  何とか首を曲げて自分の体を見た。

  もげた両腕、千切れた両足、抉れた腸、なぜ死んでいないか不思議なくらい重症だ。

  顔も少し抉れ、片目が潰れているのも感覚で理解した。


  「あ、あ····ああああああああぁぁぁ!!」


  叫んだ自分の声すらも耳に届かない。

  最後の最後、頭に浮かんだのは妻と息子の顔。

  これが普通の兵士の死に様だと、思い知った。


  「まだ·····しな·····」


  不思議と周りが静まり返っているように感じた。

  視界には走り狂う兵士が見えると言うのに。


  「神よ·····私は·····天国に行けますか?」


  冷たい雪にと生暖かい血に触れながら目を瞑り、死を覚悟した。


  「神です、人間よ、お前は天国に行けないぜ」


  ハッキリと聞こえたその声は俺を目覚めさせた。

  ゆっくりと閉じた瞼を空け、目の前の光景に戸惑った。


  「どうする?助けて欲しいか?」


  宙に浮いた神秘的な男性は俺を真上から覗き込むように見ている。

  ニヤニヤと笑いながら俺の横に座り込む男性は兵士には見えない。


  「誰?」

  「2度言わせるな、神だ。聞かれたら答えろ、死ねか生きるか」


  俺はなぜだかすぐに真に受けた。

  兵士達が男性を見えてないような、俺と男性だけのようなその感覚が俺を信じ込ませた。


  「生きる·····家族にもう一度会いたい······助けて·····助けて下さい·····お願い······お願いだ」

  「分かった、このクルーニャ様が惨めな人間エーミール、いや······エンヴィーを助けてやろう」


  男性――クルーニャは俺の名前を知っていた。


  「ありがとう·····」

  「勿論条件はある」

  「条件?」

  「生きる事を諦めてはならない。単純だが難しい、約束出来るかな?」

  「やる、出来る」

  「言ったな?諦めたその時には·····裁きを用意しとくからな?」


  クルーニャの最後の言葉がそれだった。

  そこからは記憶は一切無い。

  俺が目覚めると戦場は静まり返って死体と血だけが散らばっていた。

  兵はどちらも退却したようだ。


  「あれ?さっきの夢?俺、死んでいない······って、な、何だこれ!?」


  すぐにクルーニャと言う神との会話が夢では無いと気付かされた。

  理由は、俺の体が機械の体になっていたからだ。

  鉄のような素材、複雑な構造、見えすぎる目、寒くない体、それに一切疲れを感じない。


  「わぉ」

 

  頭の脳みそと心臓、それと所々残った肉以外、全部機械だ。


  「クルーニャ·····様·····」

 

  俺は感動したが涙が出なかった。

  機械のせいでは無い、だが涙が出ない。


  「あ、ドイツ軍は俺が死んだと思ってるんじゃぁ?······このまま帰ればバレずに帰れる······2人に会いに行ける!!」


  俺は1度死にかけた、いや······1度死んだ事により自由になった。

  機械の体をギシギシと鳴らし、遠い遠い母国を目指した。

  何日も何日も歩いた。

 

  「人が来る·····ドイツ軍か?闇魔法·····」


  すれ違う軍からは闇魔法で姿を隠し、やり過ごした。

  俺に気付かずにすぐ近くで戦われるのは目障りだ。


  「がァ!」

  「お、ビックリした」


  若い兵士が俺の足元に血を吐いて倒れた。

  こんな若い人も戦場に駆り出されるなんて、正気の沙汰ではない。

  こんな近くで人が死んでも何も感じない。

  少し前はたくさん死を感じたのに。


  「待ってろよ······2人とも」


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  歩き始めて何日経ったかは分からない。

  だが飲まず食わず、そして休まずでドイツに着いた。

  俺は真っ先に家がある場所まで走った。

 

  「誰も居ない·····あ」


  家は留守だった。

  俺は体をマントで隠しながら近所の人を尋ねた。


  「あの、隣の人って今どこに行ったか分かりますか?」

  「え?あー、朝早く駅に行ったよ、息子があーだこーだ言いながら」

  「息子?」


  俺は少し心配になりながらも駅に向かった。

  駅には汽車が止まっており、兵士達が何人も降りて来た。


  「帰国?あ!」


  俺は汽車の前でソワソワしながら何かを待つ妻を見つけた。

  少し歳をとっていたが確かに俺が愛した女性だった。


  「やった!!おーい!·······って······」


  我慢していた気持ちが一気に爆破した。

  だがその気持ちはほんの一瞬だった。

  妻の前に何人かの兵士が小さな箱を持って静かに語りかけた。

  途端、数秒も経たないうちに妻は泣き崩れた。

  何が起きたか分からなかった。


  「あ·····何だあの箱······」


  箱に意識を向けた俺の視界は不思議な感覚になった。

  箱の中身が透けて見えたのだ。

  すぐに機械の体になった影響だと理解した。


  「あれって······」


  箱の中身は人の骨だった。

  最初は俺の肉片から取った骨かと思った。

  だが違った。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  俺は泣きながら箱を抱え、家に帰る妻の後を着いて行った。

  闇に身を潜め、ただ静かに、誰にもバレないように。


  「私·····1人ぼっちか」


  妻のその言葉で理解した。

  骨の持ち主は妻の·····いや、俺の息子の骨だと。

  考えて見れば12年経った息子は18歳、戦場に送り出されてもおかしくない歳だ。

  俺の幸せな気分は一瞬で消え去り、虚しくなった。

  この時ですら俺の目からは涙は出なかった。

  体だけではなく心も機械になってしまったと、思った。


  「戦死······いつもそうだ······戦死するのは若者だ」


  戦争を起こすのは老人、だが戦争する者は若者だ。

  戦争は常に血と涙を流す·······好き好む奴らはイカれてる。


  「はぁぁ·····」

 

  俺は家のドアの前で立ち尽くした。

  今の妻には俺が必要·······俺はそう考えて、実行した。

  ギィィと錆びたドアを空けた。

  妻は俺の方をゆっくりと振り返った。


  「た、ただいま······」

  「え······貴方·····」


  妻は俺の顔を見て涙を拭い、驚いた表情を見せた。


  「そう、俺だよ、生きていたん――」

  「ああああああああぁぁぁ!!!」


  突然、妻は俺の声をかき消して叫んだ。

 

  「どうした?落ち着いて!!」

  「亡霊!·······来ないで!····死なせてごめんなさい、ごめんなさい······だから来ないで·····」


  妻が謝ったのは責任があったからだろう。

  息子が戦場に送り出されるのを黙って見届けた責任。

  妻は悪くないのに、謝った。


  「君は悪くない、だから俺を見て、俺は亡霊じゃないよ」

 

  俺が優しく妻に語りかけると妻は顔を上げた。


  「良かった·····」

  「大丈夫、ずっと俺が居るから」

  「そ、そうね、亡霊になった貴方と暮らすのも良いわね」


  妻が俺の生存を信じる事は無かった。

  俺を亡霊と思い込み続けた。

  窶れて、虚ろな妻を見るのは辛い。


  「せっかく帰って来たのに·····」

 

  ふと横を見ると大きくなった息子の写真が立てかけて合った。

  その息子の顔に見覚えがあった。

  一瞬で思い出した俺はゾッとした。

  息子の顔は戦場を歩いていた俺の足元に倒れた兵士だったからだ。


  「嘘······」


  次の日、妻は自殺してしまった。

少し長くなってすみませんm(_ _)m

エンヴィーの過去は次で終わると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ