怠惰な青年
ユグドラ学園近くには学生達が住む寮がある。
僕やアーサーも寮に住んでいる。
「ジャック!ジャック!アーサーが居ない!······入るよ?」
島に鳴り響くアラーム音で目覚めた生徒達は困惑しつつも寮の中で待機していた。
そんな中アリスだけは1つの部屋に慌てて駆け込んだ。
「ジャック?」
アリスが入った部屋は僕の部屋だ。
整理整頓された部屋、ベッドでは僕がすやすやと眠っている。
「こんなうるさい中爆睡するなんて······ジャック!アーサーがまた居ないの!早く起きて!!助けて欲しいの!!」
アリスが声を張って言うが僕の耳には届いてないようだ。
「いつもはすぐ起きてくれるのに·······ジャック!!!お願い!!」
もう一度叫ぶアリス。
すると僕は瞼をゆっくりと開き、眠そうに横目でアリスを見た。
目を覚ますと状態を起こして周りを見る。
「ジャック!七つの大罪かもしれないの、アーサーも居なくて――」
「目が見える?あ?何だここ?」
アリスが慌てて話す途中、僕は片目を抑えながら不思議そうに周りを見渡した。
「ジャック?」
「目がある······痛みも無い·······あ!くっ、クルーニャは!?奴は逃げたか!?ちっ、殺られた········あ?何だあんた?」
僕は不機嫌そうに舌打ちをしながらブツブツと呟いた。
自分の体と服装、周りに困惑しているようだ。
「あんたって······私?」
「ああ、他に居ない」
「アリス······まさか分からないの?それとも何かの冗談?」
「え!あんた人間······だよな?俺が見える!?まさかクルーニャの仕業か!?」
僕はまじまじとアリスを見て、目を見開いて驚いた。
アリスも僕の様子に戸惑っている。
「何か魔法?取り敢えず貴方······名前と年齢と今日の······今の季節を言ってみて」
「な、何なのお姉さん?俺は――」
「良いから早く言ってみて」
アリスは少し焦ったように僕を見た。
「·······街の季節は分からない、確か夏?神界に季節は無い。名前はジャック、年齢は10歳」
「10歳?······もしかして記憶が幼くなっているの?」
「はぁ?」
僕――俺は呆れた顔をし、アリスは焦ったようにゆっくり立ち上がった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ちっ」
舌打ちをしたアーサーは飛んできた手裏剣を交わした。
2つの手裏剣が紐や鎖に付いた状態でアーサーの横を何度も通り過ぎ、スロウスの手元に戻る。
「上手く距離を取りやがる、近づけば負ける事を身に染みてる証拠だ。毒付きの手裏剣が俺を近寄せてくれない······1発でも貰えば毒で身動き取れないはず········長引けば俺が不利だな」
小さく呼吸を整えながら呟くアーサーは手の平に小さな太陽を創った。
太陽をスロウスに向けて投げると地面を蹴り、太陽を死角にして走った。
スロウスは太陽から避けるように斜め後ろに下がった。
「単純」
それを確認したアーサーはニヤッと笑い左手の人差し指で右方向を指すように曲げた。
同時に太陽はぐにゃっと曲がり、咄嗟に腕を盾にしたスロウスに当たる。
「やるね、後はトドメかな?」
スロウスの腕が太陽とぶつかり焼ける。
ジュ〜と焼ける音と共に太陽を吹き飛ばしたスロウスは溶けた腕を脱力させながらも向かってくるアーサーと目を合わせた。
「武器は要らない、人間らしく体を張って戦うよ」
微かに笑ったスロウスは両手に持っていた手裏剣を地に落とした。
「そうかい」
アーサーは剣を振り下ろした。
瞳を輝かせたスロウスは同時に素早く足を踏み込み、アーサーの腹に蹴りを入れ、剣を振り下ろしたアーサーの両腕を持ち上げた。
スロウスはアーサーから剣を取り上げ、再び蹴りを入れた。
「ぐぁ!」
「油断大敵、大振りでしたよ王子殿?そんなんじゃうウチの王様には勝てないよっ!」
スロウスは追い討ちをかけるように拳を振るうがアーサーに腕を捕まれ、動きが止まる。
「動かっ、お?」
足元を見るとアーサーの足がスロウスの両足を踏み付けていた。
片腕を負傷しているスロウスは身動きが取れなくなり、慌てて体に力を入れる。
「遅い」
だが、先にアーサーがスロウスの顔を殴った。
アーサーが手と足を離すとスロウスは鼻血を出して後ろに倒れ込む。
アーサーの拳は魔力を纏っていた。
「いってぇ〜、本気の拳ってこんなにも効くんだ。オマケに魔力まで纏うなんて······容赦ないね」
仰向けに倒れたスロウスが息を切らしながら小さな声で呟いた。
アーサーも体の痛みを堪えながら雲でスロウスの体を縛り、拘束した。
「当たり前だろ、殺戮野郎に容赦しない」
「あら、僕相当嫌われてるね」
冷たい夜の空気、荒い呼吸音、遠くから聞こえる雑音。
そんな中、2人はしばらく黙り込んだ。
「油断大敵、自分で言っといてなぜ手を抜いた?なぜすぐにトドメを刺さなかった?無様に負けたかったのか?」
しばらくするとアーサーが静かに問いかけた。
「······そうだね、僕は君に倒されたかった」
「は?」
「あの時からずっと······キースとエリザを手に掛けたあの日、僕は2人を殺した以上に悔いてたことがある。それはあの日、僕に勝った君に僕を止めて欲しかった······僕をあの頃のロスに戻して欲しかった·······だから今日君に負けたかったんだ」
傷だらけのスロウスはそう言って涙を零した。
泣いているがスッキリした表情だ。
「そうか、黙って牢屋に入れ」
「ははっ、厳しいな········まったく、やるべき事はこっちだった·······僕も君も怠惰だったんだね」
「怠惰なのはお前だけだ、俺は怠惰じゃない·····自分の使命を真っ当する」
「ファイト······僕の王」
微かに呟いたスロウスの言葉をアーサーは聞いていた。
軽く目を閉じるとゆっくりと立ち上がり、スロウスの顔をよく見る。
「俺は復讐者だ、お前は父の仇の1人だが·······倒した後まで鬼でいること無い。改心したならば優しさを分けたい、牢屋までついて行く」
「意外と大人だね、君が優しい人で良かった」
アーサーはスロウスを雲の上に乗っけ、雲でややゆっくりとユグドラ刑務所を目指す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(愛瑠の様子がおかしい······明らかに人間が行う動きじゃない······ふわふわと飛び回るあの動き······何かある)
暗闇の屋上の中、エンヴィーは愛瑠を見ながら思った。
闇魔法の闇で一段と暗くなった空間を見えているのはエンヴィーただ1人。
「昼間だったらまだしも、夜に闇魔法は厄介だ」
「なら大人しく見てろ、僕と愛瑠が仕留めてあげるから」
見えないながらもミハエル先生と美叶は互いに声で位置を確認した。
美叶は指をピアノを弾くように細かく動かし、目を細めた。
「見つけた」
そう呟いた美叶は指を曲げ、重い物を引っ張るように後方に腕をを大きく振り上げた。
すると暗闇から糸に巻かれたエンヴィーが持ち上げられ、闇魔法の空間外に引っ張り出された。
「ちっ、無神論のガキ共」
舌打ちをして美叶を睨むエンヴィーは機械の体に力を入れてギシギシと音を立てた。
「隙を与えるな!今がチャンスだ!」
「分かってる」
ミハエル先生と美叶は同時にエンヴィーが居る屋上に飛び移り、走った。
「目くらましはもう無駄だな·····なら、直々に殺す」
ブチッと音を立て、力技で糸を切ったエンヴィーは格闘家のように拳を構えた。
「俺とお前らじゃ戦闘経験の差が違う、見せてやる」
エンヴィーは飛んできた糸を右手で掴み、ミハエル先生の投げた鎖を飛んで避け、鎖を踏み付けた。
糸を引っ張り美叶を中に浮かせる。
美叶は咄嗟に屋上の床に糸を付け、た体勢を立て直そうとするが飛んできた鎖に頭を打つける。
ミハエル先生は取られた鎖を置いて、落下してくる美叶をキャッチした。
「魔法を使わず·····」
「どけミハエル!」
「待て!」
美叶が起き上がり突っ走ろうとしたところをミハエル先生が腕を掴み止めた。
「離せ!触るな!」
「離すから落ち着け、今の奴に隙は無い」
「じゃあどうするんだ!」
焦る美叶と冷静なミハエル先生を見てエンヴィーは「クスッ」と笑った。
「神を笑うか?」
「日本出身で糸魔法の美叶25歳、ロシア出身で再生魔法のミハエル36歳······若々しいな、本当にガキだ」
クスクスと笑いながら言うエンヴィーを見てミハエル先生は表情を変えた。
「あんたも見た感じ俺と同じくらいだろ?何なら俺より下に見えるが?」
今にも走り出しそうな美叶を気にしながらミハエル先生は強気な姿勢を見せつける。
「········ククッ、面白いな、俺は103歳だ。最初の魔道士と言うガキ共も居るな」
空気が一瞬凍り付いた。
「アホかアイツ、あの若さで103·····しかも最初の魔道士?バカ丸出しだな」
美叶がミハエル先生の隣で小さな声で呟いた。
(神を名乗るお前とどっこいどっこいだろ········だが何か引っかかる、確かに最初の魔道士は闇魔法を使ったと聞いたが······戦死したと聞いた·。機械の体、戦死、あの若さ·····103歳······)
ミハエル先生は頭の中でエンヴィーの言葉を真に受けた。
「いや······ガチかも·····」
顔を上げてエンヴィーの顔と姿をもう一度見た。
驚きを隠せないミハエル先生は手を震わせ、無意味に自身の服を軽く引っ張った。
「まさか本気にしたのか?」
「いや、ビックリ······多分本当だ······魔道士が居る世界、何があっても不思議じゃない」
ミハエル先生は服から手を離し近くにある鎖に手を伸ばし、鎖を手元に戻した。
「流石だなミハエル、ガキにしては賢い······そう、お前の考えた通りの人間だよ、俺は」
「その機械の体は·····死にかけた時に得たんだな?」
「正解、俺は神に会って命を救われた」
エンヴィーはニヤッと笑い、自身の体を撫でるように触った。




