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愛を知らない神様  作者: ビター
エンヴィー編
78/113

高校生

 

  冬が終わり春が来た。

  中学を卒業し、高校生になる時が来た。

  ユグドラ学園では卒業と入学の式――卒業式と入学式をするようだ。

  僕の学年も2つの式を済ませた。

  ラトニーが死に、グリードが捕まってから3ヶ月は経っただろう。


  「見よ!高校用の新しい制服だ!かっこいいでしょ!」


  この島がどこにあるかは分からない。

  だが島から雪はなくなり温かさを取り戻していた。

 

  「似合うね」


  入学式が終わり、僕はアーサーとアリスに新しい制服を見せつけた。

  何か新しい事が始まるのは少し新鮮でワクワクする。


  「少し大きいんじゃないか?」

  「大丈夫!まだ成長するから!」

  「·····そう」


  アーサーは150cmの僕を足元からゆっくりと見ながら顔を引きつった。


  「サイズどころか性別も学年も間違えてるぞ」


  そこに、僕の肩に手を回しながらルーナが嘲笑うように現れた。


  「それはどういう意味?」

  「言葉通り、幼女のジャック」

  「何回言ったら分かるんだ!僕は男だし高校生だ!15歳の男だ!」


  ルーナは相変わらず僕を揶揄う。


  「けど確かにジャックは男に見えない、顔は勿論、声も体格も仕草も······それにアリスが言うには······な、無いんだろ?あ·····あれ」


  アーサーは少し目を逸らしながら言った。

 

  「無い?」

  「あ、うん、ジャックに性別無かった」

 

  アリスが気付いたかのように呟く。


  「私気付いた、きっとジャックは性同一性障害なんだと思う」


  更に考え込んだように·····言いずらそうに言った。


  「授業でやったな······確かに·····ジャックはそれかも」

  「いや、違う、僕は本当に男」

  「じゃあなんで股間に付いてないんだ!」

  「だから僕は昔――」

 

  アーサーとアリスが明らかに僕を疑っている。

  正確には僕の性別を······。


  「2人共止めてやれ、世の中にはそう言う人も居るんだぜ」


  僕の声をかき消すようにルーナがアーサーとアリスの肩に手を置いて言った。

  ――余計なお世話だよ·······。


  「わ、悪かったな、ジャック」

  「勘のいいガキは嫌いだよね、ごめん·····」


  変な誤解を生んだ。


  「うん、けど本当に男だから」


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  僕がアーサーやアリスと会って······ユグドラシルに来て、2年。

  アマノを失ってから5年。

  僕の周りにはたくさん居るのに······常に心がギクシャクして、物足りない気がして、ざわついたように虚しい。

 

  「ジャックっていつも泣いてるみたい······」

 

  それに気付いていてくれたのは意外にもアリスだった。

  見てないようで良く見ている。


  「神様だからとか関係ないから、1人で抱え込まないでね」


  アリスは良く僕を買い物に誘う。

  誘う時はいつも僕が寂しい表情を見せた時だ。

  買い物の時、基本無言だが少し楽しそうに買い物をし、僕は荷物持ちだ。

  荷物持ちと聞くと悪く扱われているように聞こえるがアリスの場合逆だ。

  アリスの優しさはいつも言葉ではやって来ない······。


  「アマノ······僕、ずっと笑うよ、ずっと生きるよ」


  失う者は今この瞬間も生まれているだろう。

  失った者が奪う側になる事だってある。

  七つの大罪もその1つなのかもしれない。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  豪邸と呼ぶに相応しい家だ。

  家の中には5人男が住んでいる。

  彼らは七つの大罪と呼ばれる反魔道士組織だ。


  「来週、プライドがラトニーから受け継いだ転移魔法で島に行く」


  ラースは食卓を囲みながら食事をする仲間に言った。

  ラストは話を聞いているか怪しい程食事にがっつき、スロウスとエンヴィーは上品に食べている。

  プライドはゆっくりとステーキをナイフで切り、食べるを繰り返す。


  「ここまで機会を待ったのは奴らに俺達の存在を意識させない為、それと日本最強の魔道士竜介が国に帰るのを待っていたからだ――」


  ラースは手を止めて話す。


  「今回はグリード奪還と強い魔道士の殺害を目的とする。生徒は二の次だ·······そう、強い魔道士·······島に住むSランク魔道士は勿論、厄介なのは他にも居る」

  「······厄介?誰?」

 

  ラストが食事をしながら問いかけをした。


  「刑務所に居る元殺し屋達、特に奴らの頭であるイアンは群を抜いて強い。奴の身体強化魔法もそうだが奴の経験、判断力、分析力、精神力、全てが人間の域を超えてる、まさに鬼だな······魔法だけなら愛瑠の方が強かったが総合ならイアンが1番かもしれない」

  「······そいつだけ?」


  再びラストが問う。


  「他の殺し屋も強い·····後、学園の生徒だ。まずは植物の魔道士アリス、2年前俺達が拐った少女だ。ラトニーに勝った事があり、エンヴィーからアーサーを守った程の実力、霊媒師の仕事をしていたそうだが何故かSランク魔道士並の強さがある」

  「あの美少女か!あの子は美人になるな」

  「言うまでもないが天気の魔道士アーサーも厄介だ、グリードは病気で負けたらしいがスロウスとラストには勝っている、やはり復讐者は手強いな」

  「まぐれだね、俺は認めない」


  ラストが少し機嫌を損ねる。


  「1番厄介なのは白髪、奴は神みたいな強さだ、奴に唯一対抗できるのはプライドだけだ、今回も頼む」

 

  ラースの言葉にプライドが頷く。

  そんなプライドを見てラストは不思議そうに、


  「プライドは科学者の手によって複数魔法が使えるんだろ?白髪もそうなのか?」

  「多分な」


  プライドは心の中でほくそ笑みながら(嘘だけど)と呟いた。


  「俺、プライドが戦ってる所あまり見た事ないな」

  「その話は後だ、まだ話は終わってない」


  ラースはプライドに問いかけを続けるラストを止めるように言った。

 

  「俺が皆に聞いて欲しいのはここからだ、実は俺が殺したはずの愛瑠が生きていたんだ」

  「「え?」」


  いきなりの事にラストとスロウスが手を止めてしまう。

  エンヴィーも少し同様したように、不自然にワインを口にした。


  「確かに殺した······その証拠に今皆は魔法が使える、略奪されていない······そこで俺は気付いた」

  「え?意味わからない!」

  「黙れラスト、今王が話す」


  エンヴィーは慌てるラストを黙らせ、空気を読んだかのようにラースの方を見た。


  「まず、愛瑠に気力が無いように見えた、俺の考えでは魔法が解除される程瀕死の状態·····あるいは1度死に、そしてギリギリで命を取り留めた。奴に気力が無かったのは正常な状態じゃないから······きっと後遺症が残ったのだ······証拠に近くには奴の仲間である桃色の髪の女が居た·····他の仲間は死んだらしいな」

 

  ラースが話を終えるとスロウスが難しい顔をして、


  「僕達は桃色の女性を知らない······つまり愛瑠は後遺症を残しながら生きていて、3人の仲間は死に、女性が愛瑠のサポートをしているって事?」

  「俺の考えではな。愛瑠が生きていたのは正直予想外·····愛瑠と桃色の女にも気おつけて欲しい」

 

  5人は話と食事を終え、それぞれ食器を片付けたり、部屋に戻ったり、くつろいだりした。

  いち早くプライドは家を出ようと玄関の前に向かった。


  「どこ行くの?」

 

  ラストがプライドの足を止めた。


  「散歩」


  プライドは少し素っ気なく返し、外に出た。

  外は真っ暗だが建物の明かりで綺麗な夜景になっていた。

 

  「ケッケッケ、ラースの考え方は賢いがハズレだな。正解は既に死んでるマリオネットだ、まったく······ラースは自分以外俺の正体を知らないと思い、エンヴィーも自分以外俺の正体を知らないと思ってる·····そして俺は全てを知っている·······やっぱりゲームマスターは最高に幸せな気待ちになれる·······やっぱ、俺以上に神生じんせい楽しんでる者は居ないな」


  プライドは1人夜の街を飛び回り、ニヤニヤと笑いながら、人々を見下ろした。

  自由で気ままで無邪気な神様だ。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  午前9時。

  朝早く、人が人を殺した。

  魔道士と霊媒師を殺す七つの大罪、エンヴィーとスロウスが朝から3人の命を奪った。

 

  「僕が殺らなくてもリーダーやラストに殺されていた·····僕の痛まない毒で······安らかに殺せた·······良かった、次は魔道士なんかに生まれないでください······お願いします神様」

 

  血も涙も出ていない3人の親子の死体は眠ったように穏やかだ。

  その3人に優しい眼差しを向けるスロウスも切なそうにするエンヴィーも穏やかだ。


  「きっと神様に届くと思う······スロウス、欲しがっていたゲーム買いに行こうか?」

  「え!?やっ!·······うん、ありがとう」


  一瞬、スロウスは親子の前で喜んでしまう。

  だがすぐに親子を横目で見てエンヴィーと共に静かにその場から去る。


  「エンヴィー、本当にありがとう」

  「今は2人だ······エンヴィーじゃない」

  「そうだったね、ありがとう爺ちゃん」


  エンヴィーは決してスロウスの表情を見ないが、少しご機嫌だ。


  「ほら、ここで待ってるから買って来い」

  「うん」


  2人はショッピングモールに着く。

  スロウスはゲームや漫画が売っている店の中をお金を持って歩く。


  「エンヴィーも可哀想な人だな·····息子が死んだのが相当辛かったんだろう·····35歳、あの歳で孫が居ると思い込んでいる、しかも思い込んでいる孫は僕······」


  スロウスは1人事を呟きながらゲームソフトを眺める。

 

  「僕からしたら何でも買ってくれるし優しくしてくれるから別にいいけど·······爺ちゃんって呼ぶ都度に胸が苦しくなるよ······あ!あった!これこれ!」


  棚に並んでいた1つのゲームソフトを手に取り、上機嫌なまま会計をしに行く。


  「ありがとうございましたー」


  会計を済ませると少し駆け足で店を出てエンヴィーの元に行った。


  「はぁはぁ、お待たせ、お陰様で最高の気分を買えたよ」

  「それは良かった·····他に欲しい物は無いか?」

  「特に無いよ、強いて言うなら早くプレイしたいかな」

  「分かった、帰ろう」


  エンヴィーはほんの少しだけ微笑み、歩き出す。

 

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