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愛を知らない神様  作者: ビター
エンヴィー編
77/113

調理実習

 

  「お、おはよう」


  休日が終わり学園生活がまた始まった。

  アーサーは松葉杖を着きながら、学園に来た。

  ミハエル先生の再生魔法で傷を治したが痛みや折れた骨までは治せない。

 

  「今日はなんかあったけ?」

  「調理実習」


  七つの大罪が攻めてきたばかりなのに日常はすぐに始まった。

  爽やかなアーサー、優しいアリス、皆いつも通りだ。


  「おはよう」


  そして敵か味方かよく分からないルーナ。


  「おはよう·····」


  今日は3、4時間目に調理実習がある。

  生まれて初めて取り組む事だから少し楽しみだ。

 

  「今日は4人1組の班で調理実習をします、班で決めた料理の食材を用意しときました、班で決めたように安全に初めて下さい」


  調理実習の班と作る料理は前々から決めていた。

  班で話し合って自分達が作りたい料理を作るのだが、国や文化の違いもある為、食文化が似てる者達が必然的に班になった。

 

  「やろう!チームイギリス!」


  僕の班はアーサー、アリス、ルーナ、僕の4人だ。

  作る料理は、


  「俺要望のブルーハワイフロート、アリス要望のフレンチトースト、ジャック要望のクレープ、そしてルーナ要望のカレー·······」


  1人1つの要望を出して料理を決めた。

 

  「前も言ったけどさ·····皆バラバラ過ぎるだろ、イギリス関係ないし、ルーナに関しては場違い過ぎる」


  アーサーがプリントと食材を見ながら言った。

  心配しかない顔だ。


  「イギリスの料理は不味いで有名らしい、それに俺はカレーが良い」


  鍋とお玉を取り出しながらルーナが料理を始めようとする。


  「おい、さらっと自国をバカにするなよ、良い国じゃん」

  「知るか、どの国も同じだ」


  アーサーは困った顔をしながらエプロンのシワを伸ばしてブルーハワイフロートを作ろうとする。

  松葉杖は着いていない。


  「歩いて大丈夫なの?」

  「これくらいなら大丈夫····」

 

  アーサーはアリスの問いかけに慌てた様子で返す。

  普段見慣れない格好に少し戸惑ったらしい。


  「クレェプッ、クレエプッ、クレープッ」

  「ジャックって料理できるの?」

 

  少し上機嫌な僕にアリスが問いかけた。

 

  「まぁまぁできる!昔アマノの手伝いしてたから」

  「なんか意外·····アーサーは?」

  「え?俺?」

 

  アーサーはビクッと反応してこちらを見た。

  グラスにシロップを慎重に注ぎながら、


  「実は苦手分野、けどブルーハワイくらいなら作れるから大丈夫」

  「ふーん······そう」

  「?」


  アーサーは少し素っ気なく返すアリスを不思議そうにチラリと見た。

  アリスの表情は少し嬉しそうに見える。


  「喋るのも良いが、単純な料理なんだから早く作れ」


  そう言ったルーナは丁寧に素早く野菜を切っていた。

  プロの料理人並に早い包丁裁き。

  野菜を切っては流れるようにぐつぐつ煮込む鍋の中に野菜を入れる。

  ――あっという間に切り終わって、暇そうだ。

 

  「凄い····料理教室とか行ってたの?」


  アリスはルーナの包丁裁きに見とれたようだ。

  キラキラと綺麗な瞳を輝かせ、ルーナに問いかけた。


  「いや」

  「じゃあなんでそんな上手なの?」

  「少し練習した、まる1日くらい」

  「1日じゃ上手くならないよ?相当練習したんだね、料理人目指してるの?」


  アリスがルーナに出会った頃は毛嫌いしていたけど、1年半も経てば変わるらしい。

  今では話ができるくらい仲良くなっている。


  「目指してない」

  「じゃあなんで練習を?」

  「······俺にない技術だった、それに出来るようになりたいと思った」


  ルーナのような人――神が『出来るようになりたい』と思うのは意外だ。

  少し理由が気になる。


  「そう思ったきっかけって?」


  僕は2人の会話に混ざるように聞いた。


  「·····美味しかったから」


  一瞬、僕の方を見てルーナは言った。


  「なるほど、シンプルな理由だね」

  「まぁな」


  料理は意外と早く出来た。

  4時間目の始まりには全料理が完成していた。


  「ほわわ!」


  テーブルにはカレー、フレンチトースト、ブルーハワイフロート、クレープが並べられてある。

  先生が用意してくれたカレーと合わせて食べるナンとお米も並べてある。


  「食べよう!」

  「待て」

 

  アーサーとアリスが食べようとした途端ルーナが止めた。


  「な、何?」

  「感謝ま·····いただきます、忘れてる」

  「何それ?」


  僕は知ってる。

  日本の文化で、食べる前に言う呪文のような物だ。


  「食べる前に言う感謝の言葉だ」

  「·····いただきます」


  アーサーもアリスも不思議そうにしながら『いただきます』を言った。

  1番言わなそうながルーナなのに······人も神も見た目では分からないものだ。


  「どっちにしよう」

  「パンみたいなだからナンで良いや」


  アーサーとアリスがカレーにナンを選ぶ。

  だがルーナは丁寧にお米を盛り付け、カレーと合わせる。

  ――カレーライスだ。


  「うまい」

  「美味しい」

  「調理実習最高だね」

  「·······」


  ルーナはもぐもぐとカレーライスを食べる。

  少し眠そうなダルそうな顔でひたすら食べる。


  ルーナはカレーライスを食べながら頭の中で思い出を思い出していた。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  ――2人の男女が小さなテーブルに座って食事をしている。

  食べている料理は――カレーライスだ。

  男女は20歳くらいの若さ。

  女性の顔は見えないが長く綺麗な黒髪、それとまるで天使のような羽根が背に着いている。

  男性も顔は見えないがスタイルの良い黒髪の美男だ。


  「――」


  何か楽しそうに話しているが話の内容は聞こえてこない。

  しばらくすると男性は女性から目を逸らた。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「ルーナ!」


  ユグドラ学園家庭科室。

  ボーとしていたルーナはやっと僕らに気付いたようだ。


  「あ?」

  「大丈夫か?ボーとしてたけど·····」

  「大丈夫だ」


  ルーナはアーサーをしばらく見て、再び料理を口にした。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  七つの大罪アジト。

  1階に奇妙な空間が現れ、そこからプライドが出てくる。


  「え!プライド!?どういう事?」


  それを見ていたラストが目を見開いて驚いた。


  「科学者にラトニーの臓器を取り出してもらった。俺の肺を1つラトニーの肺にしたら転移魔法を使えるようになった」

 

  プライドは下を向き、階段を上がりながら言った。


  「······すげぇ!これなら学園通い放題!侵入もいつでもできる!」


  プライドははしゃぐラストを見ながら(嘘だけど)と心の中でほくそ笑む。


  「ラスト」

  「ん?」

  「後でゲーム、付き合ってくれよ」

  「もちろん!」


  プライドは2階に上がり、部屋に去って行った。


  「ケッケッケ」


  プライドは1人、自分の部屋で笑った。


  「ラトニーに関しては危なかった·····いずれ学園の馴れ馴れしい奴らも殺らなくてはならないだろう」


  宙に浮き、空中で座り込むような体勢で笑っている。


  「その前に······七つの大罪狩り、きっとそっちが先になるだろう」


  プライドはニヤリと笑った。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  翌日、僕は放課後に美叶が居る屋上に行った。

  2日間顔を見せていなかったから心配かけたかもしれない。


  「ルーナ行こっ!」

  「あぁ」


  ルーナを連れて島の外の海が見える屋上に向かう。

  そこにはいつも通り、ベンチに座った美叶と愛瑠が居た。

  美叶はいつものように白いワンピースと麦わら帽子を身に付けているが額や腕や首に包帯も付けている。


  「やぁ、可愛い天使達」


  美叶は僕らに気付き、ニコリと笑った。


  「どうしたのその傷?」

  「2日前、ラトニーと戦って怪我した、ミハエルが治してくれたから大した傷ではないよ」


  そう言えばアーサーが部活の活動として教えてくれた。

  美叶がラトニーを追い詰めた、そしてルーナが·····いや、プライドがラトニーを殺したと。

  アーサーが言っていた事が真実ならルーナはどんな気持ちで美叶を見ているのだろう。


  「無事で良かった······聞きたいんだけど、どうしてラトニーと戦う事になったの?」

  「僕がラトニーを探した、殺す為に·····惜しくもトドメはプライドに取られたけど·····彼は彼女を楽に殺したかったのかもしれない······理由はどうでもいいが次は僕が殺る·····アーサーがグリードを捕まえたから残り5人·····特にラースは許さない」


  美叶は笑顔から一気に寂しい顔に戻った。

  この表情は胸が苦しく·····懐かしい。


  「そう······けど美叶には誰も殺して欲しくないよ」

 

  僕は少し下を向いたまま、静かに言った。

  すると美叶は再び笑い、


  「僕、既に人を殺してる、ごめんねジャック」


  美叶の笑顔は寂しく、悲しい笑顔だった。

  もう後戻りは出来ない······そんな笑顔でもある。

 

  「今からでも殺して欲しくないんだ」

  「七つの大罪を殺ったら、もうしない、約束する」

  「·····けど·····そんな事したら七つの大罪と同じになっちゃうよ····」

  「ごめん」


  美叶は申し訳なさそうに悲しい笑顔を見せるだけだった。

  だけどそんな美叶は······苦しそうで嫌だ。


  「けど――」

  「ジャック、なぜ殺しが悪いと決めつける?そいつの自由だろ?」


  僕の声をかき消し、ルーナが言った。

  表情は無いが、どこか怖い·····同い年にも同じ神にも見えない。

 

  「殺しは·····悲しいから」

  「幼稚で身勝手な捉え方だな、それを決めるのは本人だ、お前でも神でも無い·····分かるか?俺の言いたい事?」

 

  僕とルーナは美叶を挟んで話を続ける。

  僕は少しムッとしながら、ルーナは少し見下しながら軽く言い争う。


  「確かにルーナが言ってる事は分かる、だけど大切な人に殺しはして欲しくない」

  「お前にそれを言う資格はないな」

  「········」


  僕は言い返せずムッとしながら黙り込んでしまう。

  ルーナは僕を見下だし、睨むだけだ。


  「僕の為に争わないでくれ、2人共ごめんね」


  睨み合う僕とルーナを止めるように美叶が微笑んだ。


  「お前の為じゃない、気に食わないから言ったまでだ」

  「僕はお前じゃない、美叶だ、ありがとルーナ」


  美叶はぷいっと背を向けるルーナを片手で抱き寄せ、撫でる。


  「触んな」

  「無理です」


  ルーナは少し大人しくなる。

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