ラースの決意
イギリス、19年前。
「お父さん、お母さん、おはようございます」
「おはよう」
ラースが夫婦の元に来て2年。
すっかりラースは家庭に馴染んだ。
ラースは2人をお父さん、お母さんと呼び、日々学校に行き、帰っては元気に遊ぶ、ごく普通の少年になっていた。
「ラトニー、行こ」
「うん」
ラトニーともすっかり仲良くなったラース。
2人は常に一緒に居た。
正確にはドジなラースに常にラトニーが付き添っていた······。
とある日の事。
ラースは父と母のある会話を聞いてしまう。
「学校に行かせるのはどうかと思うわ、先生だって生徒だって2人の味方じゃないのよ?」
深刻そうな雰囲気だ。
母は心配の表情を浮かべている。
「魔道士だから犯罪魔道士団のように危険······その概念を断ち切りたい、だから私は2人を学校に行かせてる、あの子達なら理解してもらえる」
母に比べ父には余裕がある。
「周りだってあの子達を悪く思ってる·····」
「私はあの子達が魔道士だからこそ養子として引き取った、あの子達を救えるのは私しか居ない、そう思ったから、君もだろ?」
「そうでした·····私達しかあの子達を救えない·····私が心配し過ぎだったわ」
「ありがとう」
結局、深刻そうな話は解決したように見えた。
2人は覚悟を決めたような清々しい顔をしていた。
「んん·····休日······良かった、寝坊かと思った」
ラースはこの日の出来事を忘れない。
朝目覚めてからの自分の決心、世界と·····神と戦う事を決めたこの日を。
「静かだな·····」
その日は妙に静かだった。
「あ·····あ」
ラトニーが腰を落とし、何かに怯えているようだった。
だがその何かはリビングルームの中にあるようで階段を降りるラースからは見えない。
「ラトニー、どうした――」
ラースは階段を降り、リビングルームを恐る恐る覗いた。
「赤髪?こいつが2匹目?こいつらバラして売れば金になるな」
そこには2人の男が居た。
髪の色が特殊――魔道士だ。
だがラースの最初にラースの目に入ったのは彼らじゃない。
その隣で血塗れになって倒れている父と母だった。
「え?あ」
「殺れ」
男はラースに近寄って来た。
ラースは急いで玄関に走っが足を滑らせ転けてしまう。
ドジなせいか怯えのせいかは分からない。
だが体が震えているのは確かだった。
「悪いな」
男はそう言いながら笑ってラースにナイフを突き刺そうとする。
だがラースから弾かれるように吹き飛ばされた。
「がぁ!」
これはラースの磁力魔法の応用だがラース自身はまだ知らない。
何が起きたかも分からない。
「てめぇガキ!」
もう1人の男がラースに向けて手から火を放った。
だが火はラースを避けるように動き、ラースには当たらなかった。
「な?」
ラースは一瞬で悟った。
自分が殺らなければ殺られる事に。
生き残っているラトニーを守れるのは自分だけだと。
そしてラースの中で何かが·····全てが切れたようだった。
「がァ!」
ラースは男の1人からナイフを奪い、男の顔に刺した。
更に流れるようにもう1人にかかと落としを入れ、目玉を潰した。
最後は2人の心臓を体内から切り取り、潰した。
「学校で習った通り、心臓が止まると死ぬ」
既にラースに恐怖は無かった。
賢かったラースはすぐに考えた。
なぜこうなったかを。
いくら考えても原因は分からない。
だが気づいた事もあった、
「なぜ魔道士が居る?歴史の教科書に魔道士は居ない······もしや魔道士は不必要なんじゃ······」
この世界に魔道士の存在が不必要だと言う事に。
「確かに魔法は人を救える力がある、だが人が人を救うから感動やドラマが生まれる、魔道士が助けるのは神に頼ったみたいだ······人間は神になってはならない·······人間だからこそ、弱いからこそ美しいのに······許さない·····俺は力を恨むぞ」
ラースの考える美しい世界に魔道士は不要だった。
「ヤバい、人を殺してしまった·······いや······俺が殺したのは人間を超えてしまった者、つまり神だ、神は人間の世界に居てはならない······つまり俺も神·····人間に紛れた神を殺さなくては·········俺がやるしかない、俺がこの美しい世界を、美しい地球を、美しい人間を、守らなくては」
『人は失うことでしか、大事なものを確かめられない』
この言葉の作者は不明だ。
ラースは父と母を失った。
だが確かめた大事なものは父と母の存在では無かった。
既に大事なものだと分かっていた·······だが確かめれたものがある。
それは魔道士の不要さ。
少なくともラースの価値観では魔道士が不要だった。
「神よ、大っ嫌いだ」
魔道士を神と例えた。
ラースは神が嫌いだ、心の奥底では神でもあり仲間であるプライドを嫌っているのかもしれない。
「俺が世界に紛れた神を皆殺しにしてやる、最後に俺が死ねば何も問題ない」
純粋故に、単純故に、愛する故に、この考えに至った。
常人には理解し難い、何ともバカバカしい男の、バカバカしい話だ。
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「·······」
時は現在まで戻る。
豪邸の中、5人の男が住む。
ベッドで寝ていたラースは目を覚ました。
目からは微かに涙を流し、目が腫れていた。
「夢·····懐かしい······そう言えば――」
ラースはベッドから起き上がり、頭を抑え、足を軽く伸ばした。
「ラトニー死んだんだった、グリードも居ないし······飯どうしよう······」
ベッドから起き上がり、目を擦りながら部屋を出る。
部屋を出ると2階から1階の様子が見えた。
1階の奥にあるキッチンからエンヴィーとスロウスの声が聞こえる。
「これどうするの?」
「5分間蓋を閉めて焼くんだ、終わったらこっちもお願いしていいか?」
「分かった、あ、ラスト!せめて食器ぐらいは出して!」
ラースは1階に降り、キッチンを覗いた。
テーブルに食器を運ぶラストはダルそうだ。
スロウスは眠そうにエンヴィーの料理を手伝う。
エンヴィーは表情をあまり見せないがどこか嬉しそうだ。
「王?起きましたか、すぐに朝食ができます、少々お待ちを」
ラースはキョトンとしながらもラストが座るテーブルの前の椅子に座る。
「はぁぁ、いつもはラトニーかグリードがやってくれるから何もしなくて良かったけど······食器を出す羽目になるとは······昨日のオールが体にきたよ、俺もプライドと寝れば良かった」
ラストはぐったりした様子でテーブルに顔を寝かせる。
寝癖がついてなく、今にも寝そうなくらい眠そうだ。
「夜更かししたのか?大人なら体調管理しろよ」
ラースは呆れたように呟く。
「はいはい·····リーダーだって目玉腫れてるよ?もしかして·····泣いちゃった?」
ラースは思わず瞼を触る。
「別に」
「ほわぁぁ、けど俺も悲しい、名ずけ親が死んだのは結構辛い····ラスト·····昨日気付いたんだけど『ラ』はラースとラトニーの『ラ』で『ス』はリーダーの名から取ったんじゃない?で、『ト』はラトニーの『ト』·····俺の名前を考える時も、リーダーを意識したんだね·····俺とリーダーとラトニーでラ・ラ・ランドだね」
ラストは欠伸をしながら目を閉じ、半分寝ながら言った。
「最後のは意味分からないが·····言いたい事は分かるよ、もしかして励ましてくれてるのか?」
「ちがいまーす!実質俺の親はラトニー、自慢してるだけでーす」
小馬鹿にするように言うラストを見て、ラースは微かに微笑む。
「お待たせしました」
「僕も手伝ったんだよ!」
テーブルに顔を寝かせ、すーすーと眠るラストと寝起きのラースの前にエンヴィーとスロウスが料理を持って来た。
多種多様のパンや調味料、サラダや揚げ物。
イギリスならではの料理がたくさんだ。
「スロウス食べさせて〜」
「凄い、豪華だ」
ラースとラストは料理を見て呟く。
エンヴィーとスロウスは椅子に座る。
「神よ、今日も貴方のおかげで――」
スロウスがラストに食べさせラースも食べ始める中、エンヴィーは神に祈る。
日本で言う『いただきます』みたいなものだ。
「神·····か·····」
「はい、私は王と同じくらい神に感謝してます、食事の前に祈るのは譲れません」
エンヴィーは祈りをしながら呟くラースに言った。
「スロウス、プライドは?」
「寝てると思う、エンヴィーが寝かせとけって」
「今日は休日か·····学園にはもう行けないよな」
「だね」
4人は穏やかな会話と朝食を済ませた。
仲間が1人死に、仲間が1人捕まった翌日だったがそんな事を4人は気にしていなかった。
いや、敢えて気にしなかったのかもしれない。
復讐の開幕編終わりです。




