七つの大罪の危機
魔道士5人が美叶の糸に縛り上げられている。
美叶の前にはラトニーを守るようにプライドが居る。
「なんだ、生きてたか」
プライドはラトニーを抱き寄せ、魔力を纏った手でラトニーの額を触る。
「痛みが和らいだ·····苦しくない」
ラトニーは癒えた自身の体に気付く。
だが辛そうにした表情は止まない。
「痛むか?」
「いいえ、本当にありがとう、私の神様」
「········」
少し微笑むラトニーの表情を見て、プライドは目を細め少し不満そうにした。
「傷を癒すのがプライドの魔法か?それとも応用で癒したのか?」
美叶はラトニーの安心した表情を見て、不思議がりながら距離を詰めた。
「止まれ」
プライドは美叶を睨み付けた。
美叶は足を止め、慌てたように後退りをした。
「な、なんだ奴は?まるで·····恐怖そのものだ」
美叶は思わず怯え、呟いた。
異様な雰囲気を放つプライドは誰の目にも人間には見えない。
「ラトニー、少し身を任せろ」
「え?プライド?こんな時に何を?」
プライドは美叶や魔道士達にラトニーの背を向かせ、ラトニーを抱き締めた。
軽く、優しく、何かを思い出すような·····そんな抱き締め方だ。
「間に合ったようだ」
「貴方からこんな事するなんて·····しかもこの状況で」
「そうか」
プライドはラトニーの胸を抱き締めたまま背後から手刀で突き刺した。
「え?」
「あの子供、な、何を?」
美叶や魔道士達は同様した。
いきなりの事に驚いたようだった。
「お前は俺に馴れ馴れし過ぎた、けど良かった、愛になる前に死んでくれて」
ラトニーは既に死んでいた。
胸から血を流し、プライドの胸に倒れ込み、死んでしまった。
「僕が殺したかった、けど逃げられるよりはまだマシか」
美叶は同様を隠し、冷静な表情で呟いた。
「お前は、誰1人殺せない、復讐を追って死を選ぶか?」
ラトニーを抱き寄せたまま、美叶に指を指し、ニヤリと笑ってプライドが言った。
「僕は諦めないよ、君も殺す」
美叶は虚ろな目だが真っ直ぐプライドを見て言った。
そんな美叶を見てプライドは下を向いた。
「諦めない·····か、それは楽しみだ」
「楽しみ?君が死ぬのは今だ」
美叶はプライドに向かって走った。
一瞬、瞬きした一瞬で美叶の目の前からプライドとラトニーが消えた。
本当に一瞬の出来事だった。
「な?」
「誰か見えたか?」
「いや、消える瞬間も見えなかった」
魔道士達も誰1人プライドが消えた瞬間を捉えていない。
「まさか逃げたのか?嘘·····」
美叶は周りを見渡した。
プライドの姿はどこにも無かった。
「まぁいいやー、ラトニーの死亡を確認できた」
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七つの大罪アジト。
豪邸の1階ではラトニーが血を流し、倒れて死んでいた。
プライドは惨い死体を白い布で隠すように覆った。
「死んで尚、転移空間は閉じなかった、俺を逃がしたい気持ちが魔法を解除しなかったのだろう、だから俺は戻ってくれた」
悲しそうに言ったプライドを見てエンヴィーは少し同様する。
(ラトニーの魔法で戻って来た?皆に自身の正体を隠す優しい嘘······だな、流石神)
エンヴィーは皆に背を向け、1人で感動して、泣いていた。
「エンヴィーも悲しいんだな」
ラストが勘違いをする。
「誰かが死ぬのは覚悟していた事······だが仲間の為に涙を流すのは許す、泣きたい奴は泣け······今俺達がする事は捕まったであろうグリードを取り戻す事······今日は解散だ」
ラースは悲しい表情も涙も見せずに言った。
階段を上がり、その場を去ろうとする。
だが階段に足を引っ掛けて転んでしまう。
「あははは!!こんな時にも転けてる!」
ラストがゲラゲラと笑った。
それを見てエンヴィーとスロウスが、
(空気読め)
と微妙な顔を浮かべた。
ラースは再び階段を上がり、自身の部屋に姿を消した。
「あーあ、ラトニーの事大好きだったのに、唯一の女性が消えちゃった、戻って来ないかな〜?」
ラストは背伸びをして、テーブルの前にある椅子に座った。
だが全然悲しそうにしていない。
「プライド、誰が殺ったの?」
スロウスは怒りを抑えるように聞いた。
「分からない、既にボロボロだった、そして時間が経って死んだ」
「そう、分かった」
スロウスもラストの目の前に座る。
そして缶ジュースを2本取り出し、1本はラストに渡す。
「ありがと」
「ラストって、悲しみが無いよね?」
「悲しみ?」
突然、スロウスが問いかけた。
ラストはいきなりの質問に首を傾げる。
「血も涙もない·····まさにラストだ」
「あ〜、確かに、涙が出てこない」
「リーダーだってああは言ってたけど悲しんでる、エンヴィーだってさっき涙を泣いてたし僕が死んだら悲しいとも言ってた、ラトニーだってグリードだって大切な人が死ぬのは悲しいと言ってた、きっとプライドだって涙を流す······君だけだよ、そんなに強いの」
ラストはキョトンとしたままだ。
だがすぐに缶ジュースを一口飲み、
「きっと戦争と殺ししかしてこなかったから、環境の問題じゃない?今だってラトニーの死は悲しいし、グリードに会えないのも寂しいよ?涙が出ないだけだよ」
「そうかい?別に悪い事だとは思わないけど······」
2人は再び缶ジュースを一口飲んだ。
同時にテーブルに缶ジュースを強く置いた。
「ゲームしよう」
「勿論オールで」
2人はテレビの前に行き、ゲームの準備をする。
「プライドもやる?」
「今日は寝る」
プライドはスロウスの問いかけに素っ気なく返し、2階に上がった。
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2階の部屋ではラースが薄暗い部屋で頭を抱えていた。
「謎だらけだ·····桃色の女が居た、それに愛瑠まで·····死んだんじゃないのか?それよりグリードとラトニーを失ったのは大きい······移動手段が自身の足になった······あれ?」
ラースは声を震わせながら、呟いた。
だが手に垂れた水を見て不思議そうにする。
「涙?」
ラースは自分が泣いている事に気付く。
「ラトニー······俺を愛してる?·····なら生きて欲しかった」
「3つ目の願いを叶えろ、ラトニーの命を貴様の魂と引き換えに」
闇から現れたように囁いたのは悪魔――バアルだった。
文字通り、ラースに悪魔の囁きをする。
「失せろ、そんな事ラトニーは望まない、俺はそんなに弱くない」
「あら?またもや残念、気が向いたらいつでも言えよ?いつでも貴様の願いを叶える」
バアルは再び闇の中に消えた。
「俺は弱くない、弱くない、だが·····強くもないらしい」
ラースは手を強く握り締め、大粒の涙を流す。
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19年前、イギリス。
ラースはある金持ちの夫婦によって養子として引き取られた。
「貴方は今日から私達の家族よ」
「今日からお前はラース、確か10歳だったかな?ならあの子と同い年だろう、あの子もアメリカ人だから気が合うかもね」
夫婦は50代の優しくニコニコした可愛らしいイギリス人だった。
「ラトニー入るぞ」
夫婦は出会ってすぐ幼いラースを可愛がった。
夫婦はある部屋に案内した。
ノックして、ゆっくりとドアを開けた。
「······おはようございます、お父様お母様」
部屋に入ると1人の少女が居た。
歳はラースと同じくらい、青髪の可愛らしくおっとりとした女の子だ。
少女はベッドから起き上がり、眠そうに挨拶をした。
「早く起こしてごめんな、今日からお前の·····弟?····兄?······友達になる子が居るんだ」
男――父はラースの背中を優しく押した。
ラースは恥ずかしそうにしながら父にしがみつき、ラトニーをチラリと見た。
ラトニーもラースを見る。
「私はラトニー、よろしく」
「······ラース、俺·····ラース、よろしく」
ラトニーが差し出した手にラースは握手しようと前に出た。
だが足を滑らせベッドの角に頭をぶつける。
「ラース!?」
「大丈夫か!?」
父と母が心配そうに慌てたが、ラトニーを見て安心したように身を引いた。
ラトニーはラースの両手を握り、ベッドに座ったままラースに膝をつかせる。
ラースは膝を落としながら痛そうにするが、顔を上げて表情が固まった。
「怪我は無い?」
寝起きでボサボサの髪、少し皺のついたパジャマ、眠そうな目、そんなラトニーは体を少し寝かせている。
ラースは不思議とドキドキした。
「無い····」
「良かったわ」
ラースはラトニーに恋をした。
小さな小さな恋だが、それが出会いでもあった。




