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愛を知らない神様  作者: ビター
復讐の開幕編
63/113

出会う神達

 

  ユグドラ学園の生徒が下校する時間帯。

  ユグドラシルの街中では美叶が竜介の前で地に這いつくばっていた。

  綺麗だった白いワンピースは所々破れてボロボロ、血や汚れで白さが分からない。

  竜介はそんな美叶に息を切らしながら銃の形に似せた指を向ける。


  「僕は神だ·····いつだって天使が居る」

  「?」


  竜介は背後から愛瑠に地面に叩きつけられる。

  その隙を狙った美叶は竜介に向かって足を引きずりながら走った。


  「忠告を無視したそなたは斬る!」


  刀を手に取った竜介は刀で愛瑠を吹き飛ばし鞘を抜いて美叶に斬り掛かる。


  「糸魔法」


  同時に美叶が両手から出た糸を反対方向から左右に引っ張る。

  すると美叶と竜介の間には大きな蜘蛛の巣のような糸の壁が貼られた。


  「早い」

  「戻って愛瑠」


  美叶はそのまま全力で糸の壁に向かって走り、糸の壁を蹴る。

  糸の壁はゴムのように伸び、その反動で美叶を後方に吹き飛ばした。


  「何!?糸は逃げる為のバネか!」


  竜介は一瞬遅く糸を斬るが美叶は愛瑠と共に遠くへ吹き飛ぶ。


  「はぁはぁ、車·····まだ間に合う」


  竜介は近くにある車を見て車に駆け寄る。

  車の運転席には男性が座っている。

  竜介がコンコンっと窓ガラスをノックすると男性は窓を開けて、


  「どうした?」

  「運転してくれ、金なら後で払う、早く!」


  竜介は息を切らしながら慌てて言った。


  「刀?兄ちゃん何者だ?」

  「魔道士協会の者だ!日本の魔道士竜介20歳!趣味は旅行と旅!好きな食べ物はおにぎり全般!最近の悩みは今この状況!早く!!!」

  「あ、おう、乗りな」


  早口で慌てる竜介を見て男性は困惑しながらも竜介を助手席に乗せて車を走らせた。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  「糸魔法!」


  美叶は空中を飛んでいた。

  落下する直後に蜘蛛の巣のクッションを作り着地した。


  「くっ·····早く逃げなければ、この状況は目立つ·····とにかく手当を」


  人通りの少ない場所で美叶は足を引きずり物陰に隠れようとする。


  「血が目印になってしまう·····かといって建物の上に登る力は無い」


  歩いた場所には血が垂れており美叶が通った場所が丸分かりになっていた。


  「頑張れ·····頑張れ·····悪魔を倒すまでは――」


  美叶は愛瑠と共に倒れてしまう。

  血を吐いて人が通らないような場所で。

  体が熱く、血でベタベタして気持ち悪い。

  今にも死にそうだ。


  「治癒」


  しばらくすると小さな透き通った声がした。

  美叶が微かに瞼を開くと白髪の小さな少年がしゃがんで居た。

  少年――ジャックは美叶に触れて治癒魔法で体の傷を癒す。


  「······え?体が動く!なんとも無い····」



  美叶はムクっと起き上がり不思議そうに自身の体を見渡す。

  そして僕の手元を見て、


  「君の魔法?」

 

  僕は美叶の問いかけにコクリと頷いた。


  「助けてくれてありがとう」


  美叶は僕と目を合わせないまま頭を軽く下げた。


  「いや、隣の人までは治せなかった、見た感じだいぶ前に亡くなってる、それに····触って分かったんだけど臓器や血が綺麗に無くなっている、何かの魔法を受けたのですか?」


  隣に居た愛瑠を触りながら僕は言った。


  「彼は愛瑠·····死んでないわ、ちゃんと生きているの」


  美叶は虚ろな目をしたまま指や手を軽く動かした。

  同時に愛瑠がムクっと起き上がり僕に深くお辞儀した。

 

  「生きてる?」


  ――言ってる事とやってる事が違う。

  愛瑠の体のあちこちには美叶の指から放たれた糸がくっ付いている。

  まるでマリオネット人形――操り人形のようだ。

  自分で死体を操ってるのに生きてると言っている·····いや、この目、この感じ·····本気で生きてると思っている。


  「·····僕はジャック、そちらが愛瑠さんで·····貴方は?」

  「僕は美叶·····」

 

  美叶はその時初めて僕と目を合わせた。

  そして僕の顔を見て表情を変えた。


  「君·····綺麗だ、まるで、うん······初めて会ったて、愛瑠······大自然のような美しさ、顔とか見た目じゃなくて······心がとても綺麗······見えるわ」


  目は虚ろなままだが表情は嬉しそうに微笑んでいた。

  この悲しい目と表情は·······最初に会った時の悲しい悲しい·····思い出の人·······いや、神――アマノに似てる。


  「あ、ありがとうございます?」

  「敬語じゃなくていい······なんなら敬語は止めてくれ·······君、ジャック·····抱き締めてくれ·····僕は君を直で感じたい」


  変な人だ。

  初対面で抱き締めてくれなんて······普段なら断るのが普通·····だけど死体を生きてると思い込んでいる妙な人、悲しい目······男の人じゃないし······断る理由は無い。


  「良いよ」


  僕は美叶を軽く、できるだけ軽く抱き締めた。

  すると美叶は僕を強く抱き締めて離すまいとした。


  もう1分は経った――く、苦しい······。


  「君も僕の天使だったら·····けど僕はまだ死ねない······ありがとう、じゃあねジャック」


  美叶は僕から離れ微かに微笑んだ。

  そして愛瑠と共に物陰を出てその場を去ろうとした。

  だが物陰から出た途端、美叶は光の弾丸に胸を貫かれ、後方に軽く吹き飛んだ。


  「がぁ!」

 

  僕は慌てて物陰から出て弾丸が放たれた方向を見た。

  そこには着物を着て、日本刀を腰挿しにした日本人が居た。

  確かこの男は······去年魔道士の大会に居た竜介。


  「そなたは俺の間合いに入った!忠告はした、これ以上の情け無用!」


  竜介は腰から刀を抜き、血を流して倒れる美叶に斬り掛かろうてとする。


  「止めるんだ」


  僕は美叶と竜介の間に割って入った。

  竜介は刀を止めた。


  「そなた、勘違いしてないか?そこの女はそこの男を殺し、七つの大罪のスパイだ」

 

  竜介は倒れる美叶と愛瑠を見て言った。


  「スパイ?愛瑠を殺した本人?」

  「愛瑠?なぜ名前を知ってる?」


  竜介は首を傾げた。


  「さっきこの人、美叶が紹介してくれた、それはともかく!例え美叶が悪い人だとしても殺す必要は無いでしょ?もう結果は見えてる」


  僕はこっそりと魔力で作った見えない手で美叶に触り治癒魔法で美叶の傷を治した。


  「俺は既にチャンスをやった、それにその女は強者·····弱ったフリかもしれんし複数魔法を持ってる可能性もある·····そなたも死にたいのか?」


  僕は1歩も引かず見竜介から目を離さなかった。

  しばらくすると竜介は目を逸らし、ため息をついて、


  「分かった、そなたの言う通りだな、殺す必要は無い······ただし連れて行くぞ」


  竜介は刀を腰に差し、美叶に近付く。

  そして懐から手錠を取り出し美叶の腕を掴む。

 

  「触るな!」


  美叶は目の色を変え、竜介の手を振り払った。

  竜介から離れるように愛瑠と共に1歩下がり竜介を怯えながら竜介を睨み付ける。


  「痛みは無いのか?なぜ動ける?」

  「近寄るな·····僕に·····触るな」


  何かに怯えるような目·····一瞬で悟った。

  僕もトラウマだから分かる·······美叶は男の人が苦手なんだ。


  「待って竜介さん!触らないであげて、僕に任せて」


  僕がそう言うと竜介は目を細めて、


  「······俺も行く、そなた1人では危ない」


  僕は竜介と共に美叶にゆっくりと近付く。

 

  「ジャック!頼む頼む、分かってくれ」

  「美叶、大丈夫、僕は強い、竜介さんを美叶に指1本触れさせないから――」

  「止まれ!!」


  僕の声は美叶の声に掻き消された。

  思わず僕も竜介も足を止める。


  「僕は協会の者に追われる筋合いは無い·····スパイでも無ければ愛瑠達を殺してない·····」

 

  怯えながら美叶は言った。


  「スパイじゃない?殺してない?なら愛瑠さんは誰に殺されたんだ?まさかラースに殺されたと言うのか?仲間3人居て、最強の略奪魔法で·····俺ごときに深手を負ったラースが愛瑠さんを殺れる訳ない·····そなたが何かしたのだろ?毒を飲ませてたか?それとも爆弾を仕掛けていたか?ふざけるな!!」


  怒鳴る竜介。

  美叶は少しビクッと怯えながら愛瑠を軽く抱き寄せる。


  「ほ、本当は分かっている·····愛瑠が死んでいる事·····だけど、だからこそ愛瑠を誰にも渡したくない·····家にウリやラファやガブリ·····天使達を置いてきてしまった······愛瑠が居なくなれば僕は孤独······家族も仲間も失った僕からこれ以上何を奪う気なの?」

 

  美叶は涙を流し、腰を抜かし腰を落とした。

 

  「演技が上手いな·····美人だから騙せると思ったか?俺以外の男なら引っ掛かるだろうが······相手が悪かったな」

 

  竜介は再び刀を手に取る。

 

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