神の誕生
ユグドラ学園近くにある生徒達の寮。
その屋上ではラースが首の傷口から出た血を抑えながら倒れている愛瑠に近づく。
その状況を見ているのはエレベーターの中に居る美叶1人。
「良く隙を作って魔法を解除したな、流石にあの数は勝てなかったな」
ラースはゆっくりと愛瑠に近づき投げナイフを愛瑠に投げようとする。
「魔法は返してもらう」
「離れろ!!」
美叶は叫びながらナイフを投げようとしたラースを糸で巻きつけた。
動きを封じ自身の手元に糸とラースを引っ張る。
「な!エンヴィーを倒したのか!?くっ」
ラースは投げナイフを美叶に投げた。
だが投げナイフは美叶の目の前に貼られた糸にくっついた。
「糸魔法、哀糸豪竹!」
「悪いな·····神も運も俺の味方らしい」
糸がラースの体を締め付けた。
だがその直後にラースの体から糸が吹き飛んだ。
「それは魔法····磁力魔法·····嘘····」
「俺の魔法が戻った、つまり愛瑠は死んだ、魔法は死んで解除されたんだ」
美叶は固まってしまう。
「お前の天使の仲間·····天国に行きな」
ラースは美叶に手をかざし手元に引き寄せた。
美叶は脱力した状態で放心状態になっている。
「全員天国に行けたらいいな」
ラースの左手には小刀がある。
美叶を刺そうと左手を引く。
美叶がラースの小刀の射程内に入り小刀を振るう。
「え?」
だが刺す直前で美叶の体が宙に浮いたまま止まる。
そしてギラリと目を光らせた美叶はラースを殴り飛ばした。
「糸魔法」
良く見れば床に貼ってある糸が美叶の体を引っ張っていた。
糸は倒れるラースに襲いかかる。
だがラースの体は弾き飛んだかのように宙に浮き、上空に体が留まる。
「届く距離よ」
「魔法は返してもらった、囚人もラトニーも待たせている·····お前はいつでも殺れる」
ラースは美叶を見下ろしながらユグドラ学園の方に去ろうとする。
空中に浮いたまま走るよりも早く飛ぶ。
「逃げるな逃げるな!!」
逃げるラースに美叶の糸はラースに届かない。
「待ってよ······逃げるの?ここまでやって何で逃げるのよォ、ラース、ラース、ラース、ラース、ラース、ラァァァァァァァァァァス!!!」
顔をクシャクシャにしながら叫び、床を素手で叩き壊す。
美叶の拳は血を流し痛めた。
「天使様······」
美叶は足を引きずりながら愛瑠に近づく。
指から出した4つの糸を愛瑠、ウリ、ラファ、ガブリの胸にくっつけて耳を澄ます。
糸電話のように呼吸音、血液の流れを聞く。
「······天使が悪魔に負けた」
美叶は愛瑠の上に倒れ込み呟いた。
糸を指に戻し涙を流す。
体の疲れも痛みも無くなってしまった·····変わりに妙な気持ちに襲われる。
現実を受け止めきれない。
「天使様······」
愛瑠以外の3人は顔も見えないほど傷付いていた。
小刀で何回も刺したレベルでは無い。
ラースがここまで残酷に殺したとも思えない。
愛瑠に関しても腹が破れ腸が出ていた。
腕や足もちぎれかけている。
だが顔だけは比較的傷付いておらず綺麗だ。
「な、何····これ」
愛瑠の左手には黒い羽根のような物が握られてあった。
烏の羽根より何倍も大きく質感も固めだ。
そして右手にはスマートフォンがある。
「開いた····パスワードが解除されてる·····」
美叶はスマートフォンを開いた。
すぐに表示されたのはカメラ機能の録画画面······録画中だ。
「録画······あっ」
美叶は録画を終了してその動画を見た。
水色の景色が見えるがブレブレでよく分からない。
録画しながら愛瑠が何か話している。
「美叶、僕はきっと生きて帰れない、運が良くてもラースと相打ち――」
美叶は音量を大きくした。
息を整えながら耳を澄ませる。
「君が好きだ!·····と無事だったら告白するつもりだったが····はぁはぁ、美叶がこれを聞いてるって事は出来なかったらしい――」
愛瑠の声は震えていて息を切らしていた。
動きながら話しているように聞こえる。
それに愛瑠の声以外に複数の雑音が聞こえる。
「ああああああああぁぁぁ!――」
突然悲鳴を上げてスマートフォンを床に落としたように画面が暗くなる。
「最後に謝らせてくれ·····この戦いに巻き込んだ事、君を人殺しにしてしまった事、許さなくていいからこの島で幸せを掴んで欲しい·····もう七つの大罪は倒さなくていい·····君が奴らの為に不幸になる必要はない――」
か細い、今にも死にそうな声だ。
そして力を振り絞ったかのように、
「欲を言えば、もっと美叶と居たかった·····ずっと一緒に居たかった」
録画内での愛瑠の最後の言葉だった。
美叶は虚ろな目をしたまま糸で愛瑠の腹の傷、ちぎれかけた腕、足をしっかりと丁寧に縫い合わせた。
それが終わるとウリ、ラファ、ガブリのバラバラの体も縫い合わせた。
そして指を曲げる。
「愛瑠······君の願いは叶えた、永遠に僕と一緒居れば良い――」
美叶は傷だらけで血塗れのままに微かにニコッと微笑む。
だが目は虚ろなままだ。
「天使では悪魔を倒せない·····天使と悪魔を超える者にならないとね――」
愛瑠の顔を持っていたハンカチで丁寧に拭く。
「僕は今日から君の神様だ、天使として僕に仕えなさい·····起きなさい」
美叶が愛瑠の耳元でボソリと言った。
すると愛瑠はムクっと起き上がり美叶の方に首を曲げ顔を向けた。
「目覚めなさい、天使達よ」
愛瑠だけじゃなく生きているはずがないウリ、ラファ、ガブリもムクっと起き上がる。
4人は奇妙な動きをしながらゆっくりと立ち上がる。
そして愛瑠が美叶をお姫様抱っこする。
「か、畏まりました······女神様·····」
奇妙な事に愛瑠は口を開き声を発した。
いつもより少し高く電子音のような声だ。
「神直々に悪魔を倒す」
愛瑠は美叶を抱っこしたまま宙に浮き、人間には出来ない動きをしながら仲間の3人と共に寮の屋上から飛び降りた。
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ユグドラ学園付近ではラースの合図を目にした囚人達が潜んでいた。
ラトニーも転移空間を小さく開き、島の様子を見ている。
「信号拳銃で合図した通り学園前に皆居る·····降りるか」
上空を飛んでいたラースも学園前に降下する。
「リーダー、流石です」
転移空間と共にラトニーがラースの隣に現れる。
丁寧な言葉使いを使い静かに会釈した。
「確かに美人だ·····ラースの兄ちゃん羨ましいな」
そこに囚人達がゾロゾロと集まる。
ラースと囚人達が平然と会話する中、ラトニーは思いっきり困惑している。
「リーダー、彼らは?」
「島に潜入するのを手伝ってくれた囚人達だ、もっと居たんだが30人くらいに減ったな、行こう」
ラトニーの手から車くらいの大きさの転移空間が現れる。
だが囚人達が転移空間に入ろうとした瞬間、囚人の1人が何者かに打たれて倒れる。
「な!?麻酔銃か?」
「動くな!警察と魔道士だ!無駄な抵抗は止めるんだ!」
ゾロゾロとミハエル先生を含めた6人の魔道士と20人の警察が現れてラース、ラトニー、囚人達を囲む。
「早く入れ!」
囚人達は急いで転移空間に逃げ込もうとするが転移空間の前に水の壁が現れる。
囚人の1人が強引に入ろうとすると囚人の腕が水圧で切り飛ばされる。
「がァァ!」
「水圧?水に触るな!」
囚人達は転移空間と水から離れる。
ラトニーもすぐに魔法を解除して水から離れようとする。
たがミハエル先生カ鎖でラトニーの体を縛り拘束した。
「転移の姉ちゃんが!」
「くっ」
「もう終わりだ!傷は再生魔法で治せる!死にたくなければ大人しく捕まるんだ!」
囚人達もラースも捕まったらラトニーを見ながら冷や汗をかく。
だが囚人の1人がニヤリと笑い、天に拳を突き立てた。
「野郎共!自分の事だけ考えるのは終わりだ!どうせならカッコよく生き様を見せてやろうぜ!」
そう言った囚人を周りの囚人が困惑しながら見ている。
だがすぐに囚人達はニヤニヤと笑いお互いを見て笑い出す。
「ラースの兄ちゃんよ!」
「な、何を?」
囚人はラースの前に立ち、振り返らずに言った。
「あんたは魔道士の敵でも俺らの英雄だ、生きれよ」
「まさか!」
「行け!野郎共!」
「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」
囚人達は雄叫びを上げながら警察と魔道士に向かって走り出す。
「お前らぁぁぁ!」
「な、何このノリ······リーダーまで·····」
ラースは叫び、ラトニーは困惑している。
囚人達は囚人の壁を作りながらミハエル先生の鎖を引っ張る。
「な!」
「おらおら離せや!」
鎖はミハエル先生の手から離れる。
「今だ!逃げるんだ!」
「ありがとう、感謝する」
ラトニーはすぐに転移空間を開き、会釈をしてラースと共に転移空間の中に入り姿を消す。
この章は終わりです。
読者の中には主人公が出なくない?と思う方が居ると思います。
小説で主人公が出番少ないのは特殊ですが許して下さい
m(_ _)m
次の章ではちゃんと出る予定です。




