勝敗·····
ユグドラシルでは魔道士と警察が島に隠れる囚人達を見つけては捕らえていた。
警察と囚人、まるで規模がでかいケイドロだ。
だがケイドロをしている間、皆が知らぬ所で七つの大罪ラースが侵入していた。
そのラースは水色の空間に居た。
ユグドラシル内では無い、別空間だ。
「手はず通り行くよ、ガブリ!」
愛瑠は小声で仲間に言う。
緊張感を持ちながらガブリが光の玉を手から出した。
「光が苦手なのは竜介から聞いた、目を閉じるしかないよね?」
光はラースに向かって放たれた。
「近寄せない」
だが光の玉はラースから吹き飛ばされるように離れてった。
「僕は天使、賢いんだよ!」
光の玉は強く光を放った。
太陽を直接見た時と同じくらい眩しい。
「見えないのはお互い様だ」
ラースは目を閉じながらゆっくりと右から回り込むように愛瑠達に近づく。
「略奪魔法」
だが足音も無くラースの背後から愛瑠が囁く。
その時既に愛瑠はラースにしっかりと触れていた。
「光魔法解除」
光は無くなる。
全員の視界が戻りラースはいち早く愛瑠を見た。
愛瑠はサングラスを掛けていた。
「僕の勝ち、君は負ける運命だった」
愛瑠はサングラスを外してラースから離れる。
そしてニコッと笑った。
「魔法が使えない······魔力も出ない」
「略奪した魔法の1つで音を消し、後は触るだけ·····七つの大罪5人の魔法を封じた、後はプライドとエンヴィー·····君はここでさよならだ」
愛瑠はそう言ってラースに向けて手をかざす。
だがラースは愛瑠に背を向けて下を向く。
「ん?」
ダンっ!!っと銃を発砲する音がした。
打ったのはラースだ。
背で拳銃を隠して愛瑠に向けて放ったのだ。
「想定内だよ、悪魔が考える事なんて」
だが銃弾を受けたのはラース自身だ。
「うぅ·····磁力魔法をもう使い慣らした?······がァ!」
ラースは血を吐いて膝を落とした。
首に銃弾が当たり、かなり血を流している。
「痛くないよね?君が今まで苦しめた人々の痛みに比べれば」
愛瑠はラースを見下ろしながら手をかざす。
ラースを憎む目はギラギラと恐ろしい輝きがある。
いつもの愛瑠の目では無い。
「ふっ、ふはははは!もうお前を人間だと思わん、だが俺も人間を止める、今からお前らが見るのは地獄·····真の悪魔達だ」
「黙って死んでくれ」
狂ったように笑いヘラヘラとするラースに苛立つを覚えた愛瑠。
ため息をつきながら手元にラースを引き寄せる。
ラースの体が宙に浮き、愛瑠の手元まで引き寄せられて行く。
「自惚れるな偽天使·····ソロモンの指輪」
ラースは引き寄せられながら愛瑠を睨み、指に填めていた指輪を人差し指に下げる。
指輪は妙な光を放つ。
「お前は今まで戦った誰よりも強かった、もしかすると神をも超える·····だが相手が俺だったのが運の尽きだ」
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ユグドラシ学園の寮から少し離れた場所。
周りにはユグドラ学園や街がある。
高い建物もあれば小さな店もある。
「触るな触るな触るな!」
美叶はエンヴィーの機械の触手によって身動きを取れなかった。
暴れる美叶を気にもせず街中を機械の体を使って走りまくる。
床や屋根の上だけじゃなく壁に機械の触手を刺して移動する。
まるで大きな昆虫――機械の蜘蛛のようだ。
「糸魔法」
美叶が大人しくなったかと思えば指から糸を出してエンヴィーの首に巻き付けた。
だがエンヴィーの機械の肩が小さな鉄のハサミのように変形して丁寧に糸を切った。
「機械と呼ぶには気味が悪い······やはり悪魔ね」
美叶は大量に糸を出してエンヴィーをぐるぐる巻にした。
先程のシンプルな糸の質感とは違い、ベタベタしていて蜘蛛の糸そのものの質感だ。
「ふんッ」
「終わりよ、糸魔法·····哀糸豪竹」
美叶は機械の触手から逃れ、空中で指を動かしながら左手を右に、右手を左に素早く持っていき強く糸を引っ張る。
エンヴィーの体は糸の圧に負け、機械と所々ある生身の場所関係なくバラバラになった。
「勝ちよ勝ち·····私の勝ち」
美叶はバラバラになった機械の欠片と共に自由落下するが、ギリギリで建物と建物に糸を貼って落ちるのを防ぐ。
糸を使いゆっくりと地面に足を着け、エンヴィーの生首を見に行く。
「まだ······時間を稼がしてもらう」
生首は美叶の方をグイッと見て独りでに喋った。
美叶は同様しつつも糸で生首を縛ろうとする。
「これくらいの速さは精密な機械の動体視力の前で無意味そのもの、無神論者のガキよ」
バラバラの機械の欠片は次々と宙に浮き始めお互いにくっつき始めた。
わずか10秒もせずに機械の体は何事も無かったかのように元に戻り、美叶を殴り飛ばした。
「カァッ!」
美叶は後方の建物に埋まり負傷を負った。
そんな美叶に近づきながら自身の生首を持ったエンヴィーの体がギシギシと音を立てる。
「無神論者はあらゆる想定をしない、神すら信じないのだからな」
エンヴィーは自身の体と首を機械の糸で抜い始めた。
そして美叶の首を掴み持ち上げる。
「ぐっ·····」
「何か言いたいなら聞くが·····例えば命乞いとかな」
耳に手を当てて耳を美叶の口に近づけ小馬鹿にするエンヴィー。
「弟との日常を奪った······家族を奪った······お前達を必ず葬る······私が強気な理由がまだ分からないのか?」
「あ?死ぬだけだからか?」
ニヤリと笑う美叶を見てエンヴィーは睨みを利かす。
「糸魔法·····一糸一豪」
美叶の指から出た糸はエンヴィーの首に巻き付けた。
そして巻き付いたと同時にゴキっと音を立ててエンヴィーの首が折れ曲がる。
「な、何を·····」
「体がダメなら首筋よ、さよなら」
エンヴィーは背中から倒れた。
「くっ····防御したけどこの威力」
美叶の腕やあばら骨は折れていた。
血もかなり流れている。
「生死を確認しないと」
ゆっくり立ち上がりエンヴィーの股間を蹴った。
エンヴィーはピクリともしない。
「早く·····天使様の元へ」
美叶は指から糸を出してアメコミのヒーロースパイダーマンのようにユグドラ学園近くの寮へ向かう。
「あのガキを生かす、それが神のお告げだが·····なぜだろ?気になるが神に聞くのは無礼」
エンヴィーはムクっと起き上がり、首を無理矢理元の位置に捻る。
「あのガキ·····急所を蹴るとは·····」
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「はぁはぁ·····痛むけど天使様の事を想えばこれしき·····」
美叶は呼吸を整えながら寮に向かっていた。
ぽたぽたと血を流しながら痛みをグッと堪えていた。
糸を出し、糸を掴んで空中を移動するのも集中力がいる。
「着いた·····あ!」
美叶は寮が見えた所で糸の起動をミスってしまう。
手から糸が外れて寮の2階に落ちる。
「天使様が居るのは屋上······エレベーターを使うしかない」
床に這いつくばりながらも少し遠くにあるエレベーターに向かう。
床に血が付着し、目が霞む。
「まだ動ける」
再び指から糸を出してエレベーターの扉に蜘蛛の糸ような質感の糸をくっつける。
そして意図を縮ませ体を糸に引っ張ってもらう。
「はぁはぁ」
エレベーターの中に入るとすぐに座り込み、糸で最上階のボタンを押す。
しばらくすると最上階に着いた音と共に扉が開く。
「皆·····どこ?」
屋上には誰も居ない。
広い屋上だが左右を見れば確認できるシンプルな屋上。
「何アレ?」
だがすぐに空中に妙な空間が現れた。
水色の渦を巻いた空間――その空間は人が入るくらいの大きさ、計5つある。
5つある空間からは人が1人ずつ出てくる。
「最強の魔道士はお前だよ」
その1つからはラースが首を抑えながら平然と出てきて床に着地する。
他の4つからは血塗れでボロボロ、足や腕が取れた愛瑠、ウリ、ラファ、ガブリが倒れた状態で落ちた。
ラース以外死んでいるようにしか見えない。
「そんな·····天使さまぁ!」
美叶はエレベーターの中から叫んだ。




