勝負開始
真夜中のユグドラシルに一隻の船が到着した。
かなり大きい船だ。
船からは男達がぞろぞろと出てくる。
少しボロい服を着ている者、布を巻いただけの者、そう言う者ばかりが降りてくる。
「着いたな」
ラースとその仲間達――囚人達、ユグドラシル到着。
「なぁ、帰りもこの船かよ?流石に船に乗るのは難しいんじゃねぇか?」
囚人の1人がラースに聞いた。
「帰りは転移魔法と言うテレポートできる魔法で帰る」
「あ、あんた2つ魔法使えんの?魔法の属性は1人ひとつだろ?」
ラースと囚人は歩きながら会話を続ける。
「いや、仲間に使える者が居る、だけどある日本人に魔法を奪われてな、そいつをこの島で倒さないと仲間が転移魔法を使えない」
「船で言ってたな、転移魔法の女だろ?あんたの女か?」
ニヤニヤと笑いながら囚人達がラースを見る。
「違う、けど優しくてクールで美人だ」
「ラースさんあんた、惚れてんな?」
囚人の1人がラースの肩に手を置いてニヤニヤとしながら言った。
「ま、多分····あっちも俺が好きだ、た、多分な」
「おめぇ意外とかわいい奴だな、気にったよ」
肩に手を置いていた囚人がラースの背中を強く叩いて言った。
「俺は男だぞ?」
「そう言うかわいいじゃない、おめぇバカだな」
囚人は呆れた顔をする。
「なら絶対魔法を取り返さないとな、確か略奪魔法とか言う魔法を使う日本人だろ?」
囚人の1人がニコニコ笑いながら話に入って来た。
「ああ」
「やっぱ、その日本人悪い奴なのか?」
囚人が問いかけを続ける。
するとラースは少し下を向いた。
「いや、凄い優しい奴だと思う····1番悪い奴はどう足掻いても俺だ――」
囚人達は表情を変えた。
真剣な表情や心配な表情を浮かべ、ラースの話の静かに聞いた。
「女子供関係なく魔道士と霊媒師を殺しヘラヘラと生きている、犠牲を作らないと何も変えれない悪人――」
囚人達とラースの歩く速度は徐々に落ちる。
「そもそも人間は皆悪人だ、だが俺やあんたら囚人のような更に邪悪な悪人が居るから人間は正しさを保てる、俺のような人間が居ないと世界のほとんどが悪人になってしまう――」
ユグドラシルの鉄の入口が見え始めた。
「悪人でも必要悪として生きたい、せめて人知を超えてしまった魔道士達を駆逐してマイナスになった人間社会をゼロに戻したい·····正しく生きる事は、まともな奴ほど難しい」
ユグドラシル入口前に着く。
囚人達はすっかり大人しくなってしまった。
「確認する、潜入してやる事は暴れる事じゃ無い、隠れんぼのように身を潜める事、俺が合図を出したらユグドラ学園前に集まれ」
「「「「「「おー!!」」」」」」
囚人はパッと見ても200人以上居る。
皆やる気満々だ。
「捕まった奴と逃げ遅れた奴は置いてく、行くぞ」
ラースは大きな鉄の入口に手をかざす。
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学生は皆学園を出て寮やアパートに帰った。
深夜2時、ユグドラシルは眠っている。
起きてる者は不規則な生活をしている者か忙しい者、あるいは短時間眠る者だけ。
「ウ〜ウーウ〜」
だが島の目覚ましが鳴る。
島全体に呼び掛けるようなサイレン音。
言わばJアラートだ。
「こんなにたくさん·····パッと見て200人は居る」
「島の魔道士達と警察に緊急連絡、鬼の囚人達を出す準備も」
「了解」
ユグドラシルにある魔道士協会本部。
監視カメラのモニター映像を見ながら冷静に対応する。
「どうやって入った?それに奴らどんどん物陰に姿を消してく······身を潜める気だ!」
モニターには多くの男達が街中の監視カメラの死角に去る。
「10人ならまだしもこの数を捕まえるのは時間が掛かるな」
「けど怪我人や死人を出す可能性が減った、ラッキーかもしれん」
ユグドラシル内ではミハエル先生のような島に住む魔道士や警察が島内を協会本部と連絡しながら見回った。
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「予想通り」
同時刻、愛瑠達はユグドラ学園の近くにある生徒達の寮に居た。
不思議な事に寮の生徒は僕やアーサーを含めスヤスヤ眠っている。
まるでサイレン音が聞こえてなかったかのように。
「アーサー君とジャック君は隣同士の部屋、ラースはここに現れる」
「さすが愛瑠、完璧だな」
愛瑠達5人は闇に身を隠した。
しばらくすると黒いフードを被った男が現れた。
「来た」
「はい」
黒いフードの男は床に貼ってあった糸に素早く縛られた。
愛瑠達を背に向けて宙に縛られる。
「糸?」
男の黒いフードがめくれて顔が見えた。
赤髪の男――やはりラースだ。
「ナイス美叶!略奪魔法!」
愛瑠はラースの背後から背中に触れようとする。
「磁力魔法は対象者を見てないと出せない魔法!君の目は今糸で封じた!」
ラースの目元も糸が巻かれ何も見えなくなる。
だが愛瑠は何者かの攻撃を受けて後方に吹き飛んだ。
愛瑠を吹き飛ばした者の姿は見えない。
「誰も居ない····けどこのダメージ·····プロボクサーのパンチより重い1発だ」
愛瑠は周りをキョロキョロ見渡す。
そしてよろめきながら立ち上がる。
「訳分からんが助かった·····そして攻撃を仕掛けてきたのを見るとやはりラトニー達をいつでも殺せるのは嘘か」
ラースが縛られていた糸も突然切断される。
「私の糸を·····?」
美叶は同様しながらも観察した。
そして床に落ちた糸が少し揺れたのを見逃さなかった。
「もしや······やる価値はある」
美叶は指から糸を出してラースの右横を縛った。
何も無い空間――だが透明の何かを捉えたようだった。
「まさか?ガブリ!」
「分かった」
愛瑠が勘づいたようにガブリに合図した。
ガブリは手をラースの右横に向けた。
「光魔法」
すると手から光を放ちラースの右横を貫いた。
「がァ!」
光と共に現れたのは闇に隠れていたエンヴィーだった。
「エンヴィー!?」
「王!ご無事で!」
ラースはエンヴィーに気づく。
「闇の魔道士·····闇魔法で夜の闇に隠れていたのか」
愛瑠はそう言いながら寮の壁に身を隠しラースに見られないようにする。
「王!すみませんが私の役目があります」
エンヴィーは悔しそうにそう言う。
そして上着を脱いで美叶に向かって行く。
「あの体!?機械?だから僕の略奪が効かなかったのか····美叶!逃げるんだ!」
愛瑠は冷静さを保ちながら言う。
機械の体を持ったエンヴィーを見て全員が同様している中、愛瑠と美叶は冷静だ。
「早い」
だが人間離れしたエンヴィーの足の速さと瞬発力に美叶は対応できない。
「火魔法!」
「水魔法!」
すぐにウリとラファがエンヴィーに向けて魔法を放った。
火の玉と水の銃弾――それを食らってもエンヴィーは足を止めずに強引に美叶を機械の触手で捕まえる。
「くっ」
「闇魔法」
エンヴィーは美叶を機械の触手で捉えたまま姿を消す。
「ちくしょう打て!」
「ダメだ!美叶に当たる可能性がある!」
「ちっ」
ウリはエンヴィーが消えた場所を見ながら苛立つ。
「皆!ラースも消えた!」
「何?」
愛瑠達がエンヴィーに目を奪われているとラースの姿が消えていた。
あるのは床に落ちた糸だけ。
「まさか!子供を狙って!?」
ウリはそう言って物陰から出る。
「····違う!上!物陰に隠れるんだ皆!」
上空には愛瑠達4人を見下ろすラースが居る。
床と自身に磁力を放ち宙に浮いてる。
「もう遅い、全員見えている」
ラースは上空に居る為隠れていた愛瑠の姿も真上から見えていた。
全てを見る為の上空。
「あ、ああ!」
「ヤバイヤバイ!」
愛瑠達は皆宙に浮き始め徐々にラースの手元に引き寄せられた。
ウリやガブリが魔法を放つが魔法は反射するかのように自身に帰って来た。
「がァ!」
「皆魔法を打つな!僕に任せろ!」
自身の魔法が跳ね返ってきた為、ウリとガブリは負傷を負う。
愛瑠も身動きを取れないままラースの手元に引き寄せられる。
そしてラースとの距離が1mくらいになる。
「異空間魔法!」
愛瑠がそう言うと周りが水色の空間になる。
まるで綺麗な海が広がっているような不思議な場所だ。
床も壁も凄く遠くにある。
水色の景色しか見えない。
「何!?」
それに空中でラースの手元に居たはずの愛瑠達は床に立っている。
愛瑠達の少し遠くには空中に居たはずのラースが床に立ち尽くしている。
「異空間魔法?別空間に飛ばす魔法か?」
「さぁ!やり直し!次は七つの大罪ラース!君が怯える番だ!」
ラースと愛瑠、お互いに目を離さない。




