複雑な気持ち
ユグドラ学園では全生徒達が避難をしていた。
島に住むSランク魔道士達は生徒達の護衛と倒れている高等部3年の治療や生存確認に務めていた。
だが学園ではまだ避難してない生徒が居た。
アーサーが七つの大罪スロウスと剣を構えて戦っていた。
「いくよ?」
スロウスは鎖の付いた人並みに大きい手裏剣を持つ。
鎖や手裏剣にはたっぷりと毒が塗ってある。
手裏剣はアーサーに向けて素早く回転しながら投げられる。
「早い」
アーサーはすぐに床を蹴り飛ばし左に避ける。
手裏剣は机を壊して床に刺さる。
「隙あり」
アーサーは体勢を立て直しスロウスに走って向かおうとするが足元が揺らいでしまう。
ふと足元を見ると床が手裏剣によって真っ二つに割れかけていた。
床は教室の中央を境に沈む。
「避けるべきは手裏剣じゃないよ?」
スロウスはしっかりと鎖を握りながら回すように操る。
アーサーの右にあった鎖の一部は宙に舞いアーサーを囲む。
「やば!」
アーサーは咄嗟に剣で鎖を押すが鎖は剣ごとアーサーを縛る。
だが剣で鎖を押している為、まだアーサーと鎖の間に隙間はある。
「頑張れー」
「鎖を抑えるのが精一杯·····脱出できない」
アーサーが鎖に耐える中、鎖に触れている背中や腕の部分の服が溶け始める。
服を溶かしたかと思うと肉が溶ける感覚が走る。
「肉が溶け、その傷口に毒が入れば終わりだよ?」
「ウェザー.レイニー!」
アーサーの真上には小さな雲が現れ、雲からは雨が降り始めた。
雨は鎖に付着した毒を魔力ごと流す。
「僕の魔力も?魔法の雨って訳か」
魔力が流れ落ちた鎖は重さと耐久性を失う。
アーサーはそれを見切り鞘から剣を抜き魔力を纏った剣で鎖を斬る。
「毒魔法」
同時にスロウスは鎖を離し小さな雲に毒の銃弾を連続で放つ。
雲は消滅し、雨も止む。
「武器は全て奪った」
アーサーは鞘に剣を刺し机や椅子を踏み台にしながらスロウスに近づく。
「毒鉄砲」
スロウスはパチンと指を鳴らし指を銃の形にしながらアーサーに向ける。
指からは毒の弾丸はアーサーが構えた剣の鞘に当たる。
「これは?鉄の鞘を溶かしている!?」
鞘は毒によって溶けかけていた。
「手裏剣は魔力節約の為の道具·····本当はこっちの方が強い」
更に毒の銃弾を連射させる。
アーサーは走り回り机や椅子に隠れながらスロウスに近づく。
「な?」
ダンっと机や椅子が貫かれ溶ける。
その威力を見たアーサーは手の平サイズの太陽を創りスロウスに向かって投げる。
「それも打つ」
スロウスは太陽に向けて指を構えるが直前で太陽が光を放つ。
「眩しっ」
スロウスは目を瞑りながらも太陽に銃弾を放つ。
太陽は破壊され視界を取り戻した時にはアーサーはスロウスの背後に居た。
「気配を消すのが上手いね?僕やラスト程じゃないけど」
「動いたら両腕を切る、ゆっくりと両手を上げて膝を落とせ」
スロウスはアーサーの言う通りにゆっくりと手を上げて膝を落とす。
アーサーは雲でスロウスを縛るように拘束する。
「魔力を乱す雲だ、魔法は使えない、俺の勝ちだ」
アーサーがそう言うとスロウスはニコッと笑い、
「魔法を封じ、武器も封じ、身動きも封じた·····けど勝ちってのは違うよ?まだ安心してはならない····この音、聞いてみな」
アーサーが耳を済ますとギギギっと何かが軋む様な音がしている。
「これさ」
スロウスは口から鉄の玉を放ち机に当てる。
すると机が真っ二つになっている床の境に落ちる。
床は机が落ちた事により耐久度の限界を迎え崩れ落ちる。
机や椅子、3つの手裏剣、キースとエリザの死体も下の階にある教室に落ちる。
「そんな事だと思ったよ」
アーサーはスロウスと共に雲に足を付けていた。
その為足場を崩さずゆっくりと下の階の教室に足を付けれた。
「強いね?僕の負け·····ゲームクリアは君の方だ」
スロウスはそう言ってニコッと笑う。
「お願いがある」
「何だ?」
「そこに居る2人の死体をしっかり回収しといてくれ」
「当たり前、俺に任せて罪を償え」
アーサーがそう言うとスロウスは嬉しそうにする。
だがすぐに強ばった顔をして悲しそうに、
「どうやら僕はまだ七つの大罪として生きるらしい」
「ん?」
瞬間、アーサーは何者かに吹き飛ばされる。
「俺の可愛い孫に····無神論者のガキが触れてんじゃねぇ!!」
頭上から現れたのは体から妙な機械の手のような触手を出したエンヴィーだった。
「何だ?確かあいつの魔法は闇·····機械?けど妙に生きてるように動いてる·····機械と呼んでいいのか?」
アーサーは血を吐きながら立ち上がる。
「生まれた時から幸せを手にしているガキが····嘲笑っているようでムカつく坊ちゃん顔だ」
エンヴィーはスロウスの拘束を解除して首をかしげて機械音を鳴らす。
「七つの大罪2人目······会えて嬉しいぜ」
「バカかこいつ?」
アーサーは剣を構えて機械の触手を斬りに行く。
だが複数ある機械の触手によりなぎ倒される。
「がァ!」
「こいつを始末したら王の土産になる!しねぇい!」
トドメを刺すように機械の触手がアーサーを襲う。
「フィトーネ」
アーサーを救い出すように樹木が触手を弾く。
アーサーの体は樹木により上空に引き上げられる。
「はぁはぁ·····誰?」
瀕死の状態で目に血が付着してよく見えない。
アーサーは少女の手の中で眠ったように気絶してしまう。
「あのガキ!?確か植物使いの·····ラトニーの足をもいだ奴」
樹木を操っていた少女は床の無い上の教室に居た。
樹木を足場にしてアーサーをお姫様抱っこしながらエンヴィーとスロウスを見下ろしている。
「私の名はアリス·····貴方達から必ずアーサーを守る」
少女――アリスは少し怖い顔をしている。
「違う·····お前らは俺に殺されて終わる、最後くらいは不幸を味わえ」
エンヴィーは機械の触手を伸ばしアリスに攻撃しようとする。
だが触手は植物の樹木が機械を縛り動きを止める。
「ウツボカズラ」
エンヴィーの頭上には大きな袋のような植物が現れエンヴィーの体を飲み込む。
「消化」
植物の袋の中からはジュ〜と溶ける音がする。
袋の中でエンヴィーが暴れている。
だがすぐに植物の袋から黒いカッターのような物が出てきて袋が破れる。
「ガキが舐めた真似しやがって!!」
植物の袋体は液体のような物が流れ落ちる。
機械以外の肉体が溶けかけていたエンヴィーは殺気立っている。
「今ぶちのめ――」
エンヴィーが言いかけた瞬間プルルルルンと電話の音が鳴る。
「ちっ、スロウス掴まってろ」
エンヴィーは携帯の電話を切り、窓を割る。
「スロウス?」
そんな中、スロウスは上に居るアリスを見上げて動かなかった。
別の世界に行ってしまったかのように涙を流しながらアリスを見ている。
「まさかあの小娘が欲しいのか?」
エンヴィーがそう聞くとスロウスは固まったまま、
「欲しいのはあの子じゃない·····」
「なら行くぞ」
エンヴィーは機械の触手でスロウスを掴み、窓から逃げるように出て行った。
(この気持ちはなんだ?後悔?僕はやるべき事をやったはず····)
スロウスはエンヴィーに抱えられながら心がギクシャクしていた。




