気の毒な3人
ユグドラシルに学園に魔道士と霊媒師の生徒が来てから8ヶ月が経っていた。
月で言えば1月、ユグドラシルがどこの地域にあるかは不明だがこの島には雪が降り始めていた。
「確か再来週には高等部の3年生が集まって体育館でレクをする、その時にケーキやジュースも出る」
七つの大罪アジトではラースとラトニーの前でスロウスが小さな声で話していた。
「良いな·····既に準備は整っている。スロウスはそのケーキやジュースの全てに毒を盛れ」
「――分かった」
スロウスは一瞬、ラースの言葉で顔色を変えるがすぐに無表情になりコクリと頷いた。
「中には食べない奴も居るかもしれん、ある程度時間が経ったら連絡しろ」
「分かったよ」
スロウスはいつもより静かに自分の部屋に戻る。
それを確認したラトニーは小声で、
「分かってて時期を遅らせるなんて、何がしたいんですかリーダーは?」
「壁を乗り越えさせる。曾孫の成長を願うエンヴィーからの提案だ」
「それを許すリーダーもリーダーです」
少し困った表情をしたラースは無言でその場を去ろうとする。
だが何も無い場所で転けてしまう。
「無視したバチが当たりましたね」
そう言ってラトニーはラースの手を取り、起き上がらせる。
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ユグドラ学園霊媒師科、3年B組。
教室も暖房をつける時期。
「俺決めた、エリザと同じく大学行く」
キースは食堂でロスとエリザと焼肉定食をを食べていた。
2人に進路の事を話すとエリザが嬉しそうにして、
「じゃあ私と同じ大学行ってみない?国が違くてもすぐに慣れるよ!」
「え?良いのか?」
「もちろん!」
ニコッと笑うエリザを見てキースは嬉しそうな表情を見せる。
そしてロスに、
「ロスも一緒に大学行かないか?」
ロスは箸を止める。
そして困ったように、
「僕の頭じゃ行けないから·····大丈夫」
「言うと思った――じゃあシェアハウスとかはどうだ?親居ないんだろ?」
「それはしてみたいかも」
キースは寂しそうにしているロスに違和感を覚えていた。
2週間後。
高等部の3年が待ちに待っていたレクがある日になった。
高等部の3年生達が大きな体育館に集まる。
「今日はめいいっぱい楽しみましょう!」
レクはドッチボールやしっぽ取りなどシンプルな遊びだった。
皆がクタクタに疲れ午後3時になると体育館内に机が並べられケーキやお菓子やジュースが運ばれパーティ会場のようになる。
「皆さん皿を持って順番に並んで下さい!」
生徒達は皆1列に並び皿に食べたい分取る。
皆は皿に盛ったケーキやお菓子、ジュースを口にする。
ロスはその状況をしっかりと見ていた。
(運ばれる前に毒は仕込んだ····これで学園生活も終わる)
まるで自分だけが遠くに立たされているように、皆を眺めるロスの目からは涙が出ている。
「泣くほど楽しかったのか?けどケーキを食べる方が楽しいぞ」
そんなロスの肩を軽く叩きながらキースが隣に来てケーキを口にする。
ロスはキースがケーキを口にするのをしっかりと見ていた。
「なぁ、抜け駆けしようぜ?教室に忘れ物しちゃってさ」
「――本当に世話が焼けるなー!良いよ、行こっ」
ロスは涙を拭い、ニコッと笑ってキースと共に体育館を出て高等部3年B組に行く。
教室は電気が付いてないせいか、少し薄暗い。
キースは自分の席に着き、椅子に腕を置いてロスを見上げ、
「今、どんな気持ちなんだ?ロス····いや、七つの大罪毒の魔道士スロウス」
キースの目付きが変わった。
おっとりとした目から鋭い目に。
ロスも同時に表情を変え、
「最後の最後でバレていたのか····君とは友達としてさよならしたかったな。いつから気付いたんだい?」
「確信したのは今日だけど薄々気付いてた。さっき魔法を使ってケーキやジュースに毒を盛ったのを見て確信に変わった」
2人の表情には笑顔は無かった。
教室は冬の影響以上に寒くなった気がした。
「ならさっき食べていたケーキは口にしたフリをしただけ?騙されたよ」
ロスがそう言うとキースは少し悲しそうにして、
「エリザには何も食べるなと言った。そしてスロウス、お前は俺の手で殺す」
机の中から拳銃を取り出す。
どこから手に入れたかは分からないが当たり前のように拳銃をロスの額に突き立てる。
「久しぶりに見たよ、銃を」
「友達としての最後のチャンスだ。今毒を解除して七つの大罪スロウスとして生きるのを止める事を誓うなら、打たないでやる――」
キースの手は震えていなかった·····だがスロウスも同じく微動だにしていなかった。
そして選択させる。
「だがもしスロウスとして生きるのならば、引き金を引く。スロウスに戻るかロスとして生きるか、選べ」
長い間が空いた。
スロウスは考え込むように目を閉じ、キースも返事を緊迫した空気の中待つ。
しばらくするとスロウスの瞼が開き、キースをしっかりと見て、
「僕が死ねば毒は解除されるよ」
「何?」
拳銃を構えたまま耳を疑ったようにキースが聞く。
「魔法で作った毒だから僕が死ねば毒魔法は解除され皆助かる。僕がロスとして生きてもスロウスとして死んでも·····君達は助かる」
「それをバラしたと言う事は·····こっちに戻るんだな?」
スロウスはキースの質問にすぐには答えない。
代わりに黙り込み、ニコッと笑い、
「魔道士は普通の人間だが僕達七つの大罪を普通の人間だと思わない方が良いよ。今から銃を避ける!」
そう言って動こうとしたロスにキースは躊躇なく拳銃を放った。
だがその時には既にロスが拳銃の照準器から外れていた。
そしてキースを蹴り上げ拳銃を奪う。
「これで誰も助からない····後は君とエリザだけだよ」
ロスは奪った拳銃を床に倒れているキースに向ける。
だが拳銃を向けるだけで打とうとしないで手が震えている。
「打たないのか?お前ら七つの大罪は魔道士と霊媒師全員を殺すんだろ?霊媒師の俺を殺さないのか?」
キースは唇と声を震わせながら強気に言う。
するとロスが膝を落として、
「うっ、打たないんじゃないんだ·····打てない·····打てないんだよ」
拳銃を持った手をもう片方の手で強く握る。
その手は震えていた。
キースはそんなロスを見て微笑むが、
「がァ!」
「え?」
口から血を吐いて床に倒れ込む。
ロスは頭の中が真っ白になり困惑する。
「まさか毒?や、やっぱりケーキを口にしていたの!?」
「お前を信じてたから····敢えてケーキをお前の前で食べた·····結果は残念だがな」
苦しそうに血を吐いて言うキースを見てロスは改めてキースが毒の入ったケーキを口にした事に気付く。
「今解除し――」
無意識だった。
ロスは無意識に毒を解除しそうになるがグッと堪える。
「どうせ魔道士と霊媒師はリーダー達に殺される···ならせめてキースは僕の毒で····」
そんなロスをゆっくりと見てキースは声を震わせながら、
「何でだよ?自分に嘘ついて、俺を殺して、エリザをそんなに不幸にしたいのかよ?お前は俺の友達じゃないのかよ?」
「····僕には4つ年上の友達が居るが、彼は兄みたいな存在。キースは僕にとって最初で、最後の友達だよ」
キースはロスの手の中で今にも死にそうだ。
そして生命を振り絞ったかのように、
「へへっ。卒業して大学行きたかったなー。俺もエリザも七つの大罪のスロウスと友達なんて気の毒だな····だけど1番気の毒なのはロス、お前自身だよ」
そしてロスの腕の中で死んで行った。
その表情は笑っていたがロスには怒っているようにも見えた。
「感情を殺すんだ····ラストのように笑い、プライドのように無心になるんだ」
ロスは流れそうになる涙を堪えニコニコ笑いながらギュッとキースの腕を掴む。
「連絡しなきゃ」
「ロス·····何してるの?」
エリザは血塗れのキースの死体と血で汚れた制服を身に付けたロスが居る教室に静かにやって来た。
その状態をまだ理解しきれてない。
「エリザ?」




