ドッチボール終了
身体強化魔法によりイアン自身の能力値が倍に膨れ上がる。
能力値が魔法により増えたのは驚きだが、そんなことより能力値の差がヤバい。
僕とルーナの4倍はある能力値、数字が1差でも体で分かるくらい違う差なのに·····。
「間違っても真理の義眼を使うなよ?ラスボスにチートを使うのはクソゲーだ」
ルーナが居る限り真理の義眼は使えない。
いや、例えルーナが退場しても試合が終わった後に何されるか分からない。
「その無表情の女で防御しても良いが、死ぬだろうな」
イアンはボールに膨大な魔力を込め投げる。
「サタン、ルナ、後ジャック、支えろ」
ルーナが飛んでくるボールを魔力で覆った手で掴み、サタン、ルナ、僕がそのルーナを後ろから支えてボールの勢いに耐える。
イアンの攻撃力は増えた分も含め32。
これを受け止めるには32以上の防御力が必要。
ルーナの防御力は7、サタンとルーナ、それと僕の能力値も含め24。
8差もある能力値では受け止める事はできない。
だがもしそこに魔法攻撃が加わったら?
「大雷」
ルーナはボールの回転と衝撃に耐えながらボールに向けて上から雷を落とす。
ボールの回転は収まり、ボールに纏われていたイアンの魔力も消える。
「また?だと?」
「バトルゲーム····アニメ?漫画····のラブコメ?見たことあるか?」
ボールを止めたと思えばラブコメだと?
ルーナはいきなり何の話をしているのだ?
「主人公がヒロインを危険に晒し共に戦うか、ヒロインを戦わせず身を守るか、どっちか選ぶシーン·····俺、最近見たんだよ――」
僕やイアンに聞こえるようにゆっくりと言う。
サタンとルナはルーナの両隣に来てルーナの頬を撫でるように腕を回している。
「結局主人公はヒロインを安全な場所に追いやりヒロインを守ったんだが·····俺は共に戦い、お互いを守れる、ほらな?」
ボールの周りを良く見てみるとボールに4つのスレッドが付いている。
天上から1つ、床から1つ、左右の壁から1つずつ。
計4つ、ボールを4つのスレッドが引っ張り空中に留まっている。
「まさか?魔力の糸····スレッドも使いつつボールを止めたのか?」
イアンも気付いたようだ。
ルーナは魔力を覆った手で掴む、雷魔法を落とす、スレッドでボールを引っ張るの3点セットでボールを止めていた。
「傷は無いな、良かった、俺?あー、この手なら大した事じゃない、大丈夫だぜ」
ルーナはサタンとルナに話しかけるように2人の肌に傷が無いか見る。
死体に話しかけているルーナはとても奇妙で·····悲しい。
「イアン、いい事教えてやる····お前は俺らに勝てない」
「自身があるのだな?なぜ勝てないと思う?」
ルーナの不敵な笑みを見たイアンは睨みながら問う。
それに答えるようにルーナはサタンとルナと共に中に浮きニヤリと笑いながら、
「お前が相手にしてるのは····神だからだ」
イアンは目を見開き驚きながら膝を落とす。
飛んでいるルーナを見て神だと信じたようだ。
だがイアンにルーナが神だと信じさせたのは中に浮いた事だけでは無い。
それは気配。
ルーナの魔力と気配を感じ取り、人間では無いと直感で感じたのだ。
「神、ならその羽根がある女は天使?まさか白髪も?――はっハハハハハハ!····はぁぁ」
信じ込んだと思うと次はいきなり笑った。
そして笑ったかと思うとため息を付き、血の涙を流しながら怖い表情に戻り、
「神まで俺の敵か····だからって屈指はしない!人間には想像できない存在なだけであり恐ろしい者ではない·····神を殺してマザーを助ける!····ほら、投げろよ、神様」
信念と言うものか?イアンの目にはそれが見える。
さっきから言っているマザーが関係しているのだろうがイアンの覚悟は神にも通用する何かがある。
「ジャック、投げろ」
「わざわざ神って言わなくても····」
僕はルーナから雷魔力付きの魔力が纏われているボールを受け取る。
更に僕の光魔力付き魔力を纏わせ、投げる。
「取った!」
だがイアンはボールを掴む。
でももちろん回転付きのボールだ、回転は止まりつつあるがまだ止めてはない。
「水鉄砲!」
僕は水魔法の銃弾でボールを打つ。
するとイアンは手を滑らせボールが中に浮いてしまう。
「血で手が滑った!だがボールは掴んだ!アウトにはならない!」
イアンはそう言って人間離れした脚力で上空に飛びボールを取ろうとする。
だがボールはスレッドによりルーナの手元に引き寄せられる。
「まだまだ安心するなよ!ラスボスらしく最後まで足掻け!泣きながら悔やむのは神様が許さないぜ?」
ルーナは空中に居るイアンにボールを投げる。
ボールにはルーナの全魔力が込まれている。
更に投げた瞬間にサタンがバレーのアタックのように叩き飛ばす。
ルーナが投げ、サタンが更に叩く、ダブルパワーだ。
「は!」
イアンは悟った。
空中に居る自分がボールを取れば踏み止めずに吹き飛ばされる事を。
いくら防御力がボールの攻撃力より勝ってても空中では防御力ダウン。
それでもイアンはボールをキャッチしてしまった。
「ああああああああぁぁぁ!」
イアンはボールの回転を抑えながら指から魔力の糸を出し天上にくっ付ける。
魔力の糸――スレッドに捕まりながらもボールの回転を沈めようとする。
「スレッドだ!魔力の応用技を見ただけで使えるのか!?」
「それほど凄い奴何だろう、お前のように」
驚いた。
人間ながら神のような才能と能力を持ち、それを実行できる行動力、精神力、身体能力、天才であるアーサー以上だ。
「頑張るな〜、だがゲームオーバーだ」
だがルーナがボールに雷の銃弾のような魔法を指から放つとスレッドが切れてしまいイアンの体が後方に吹き飛んで行く。
「な!」
(マザー、俺はただ貴方に――)
イアンは内野から出てしまいボールの回転と勢いで壁に埋まるように当たる。
グシャン!と体が潰れるような音がした。
「イアン選手線から出た為アウト!よってジャックチームの勝ち!」
審判がそう言うと薄紫色の壁と審判は消え、元の体育館に戻る。
体育館のステージを見てみるとクラスの皆が眠っていた。
アーサーとアリスも眠っている。
「え?負けた?」
「皆みろ!イアン兄さんが!」
イアンの仲間であるニコラス、サントス、シーマス、コルビンもどこからと現れる。
壁側に座り込むようにボロボロになったイアンに気付き、駆け寄る。
イアンの赤くなっていた肌や目は元の姿に戻っていたが、今は血で真っ赤に染まっている。
「生きている!」
「けどこのままなら死んでしまう!」
「だからってここから逃げれる?」
4人はかなり戸惑っている。
僕やルーナを警戒しながらイアンの出血を心配してあたふたする。
「皆!」
そこに体育館の入口からミハエル先生や魔道士達が入ってくる。
サントスの制約魔法が解除されたから入口が空いたのだ。
ルーナはさりげなく魔法陣を出し、その中にサタンとルナを入れる。
「奴は不死身のミハエル!シーマス武器を出せ!」
ニコラスが慌てて言うが4人は既に足が床に埋まっていた。
泥を固めたように――この魔法はアーサーと大会で戦ったブルーハーンの魔法だ。
「足が!」
更に床や壁が泥のようになり、4人の体を拘束するように固める。
「皆を避難させて下さい!」
ミハエル先生がそう言うとステージに居たクラスの皆は鉄のバスのような物に丁寧に包まれ、鉄のバスごと体育館を出て行く。
「離せ!イアン兄さんが死にそうなんだ!離せ!」
他の4人は魔道士達によってどこかに連れてかれる。
血だらけで死にそうなイアンにミハエル先生が近寄り再生魔法で傷を治していく。
「命を取りとめたらこいつを連れてきます」
ミハエル先生は周りの魔道士に言う。
(意識が····)
イアンは朦朧としながらも薄目で周りを見渡す。
そして状況を理解した。
(マザー····俺は貴方を救えないらしい、マザーは何とも思わないだろうが、俺が····悔しい)
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アメリカ合衆国、ボストン市。
ホームレスが多いこの街では子供も大変だ。
家や親が居ない孤児も少なくは無い。
「·····」
人気の無い路地で1人の少年がお腹を空かせて倒れている。
ガリガリに痩せ、ボロボロの服を着て、死んだ目をして体も今にも死にそうだ。
「君、大丈夫?」
そんな少年にその少年よりも若い子供が話しかける。
青髪のしっかりしてそうな子供だ。
「待ってて、今マザーを連れてくる、マザーなら君を助けれる」
このガリガリでボロボロの少年。
これは昔の俺――イアンと言う無力な悪人の始まりの姿だ。




