悪の科学者
ユグドラ学園に入学して1週間。
クラスの皆の顔と名前はもう覚えた。
「好奇心で聞くんだけど、その漲る強さの秘訣はなんだい?」
担任のシェン先生は感がいい。
目立たないように行動していた僕の実力を見抜いた。
「アーサーを身近で見てきたから、だと思います」
「にしても···何か不思議、先生にはアーサーより勝っているように···見えるけど」
ギクリ。この先生、よく見てる。
目立たないように気おつけていたが、もう見抜かれるとは···。
先生は魔導師でも霊媒師でも無い。
なのに凄い洞察力、それに魔導師に詳しい。
「見えるだけですよ」
「そう···」
学園では勉強だけじゃなく魔導師や霊媒師に関係する情報も叩き込まれる。
もちろん七つの大罪のことも。
「七つの大罪、反魔道士7人で構成される組織。彼らは魔導師と霊媒師の命を奪う事を目的として行動するが一般の者に被害を出した事は無い。能力が分かっているのは7名中4名、他の3名は分かっていないが彼らは神出鬼没。短期間であらゆる国や街に現れ魔導師を潰している為移動系の魔法の持ち主が居ると考えて間違えない」
神出鬼没と言うのは初耳だ。
恐らくラトニーの転移魔法を使い国や街を行き来している。
その為アジトも突き止めずらい、それに遭遇しても逃げられる可能性が高い。
魔導師達が捕まえられない理由はそれだろう。
「それに君達の命を狙うのは七つの大罪だけじゃない。君達の死体や臓器を金にしようとする暗殺者達、君達の体を調べようとする科学者達、彼らにも気おつけないといけません」
最近知った。魔導師の命を狙う者が七つの大罪以外に居ることを。
「はーい!今日の授業はこれで終わり!」
その日の授業が終わると僕はアリスと共に自分達の寮へ帰る。
アーサーは学園に残ってシェン先生とお話をすると言ってた。
ユグドラ学園の進路指導室ではアーサーとシェン先生が2人で話をしていた。
「何で呼び出したんですか?」
「好奇心で聞くんだが···なぜ島の外に出たがっているの?」
「···教えてくれたら島の外に出してくれますか?」
「良いよ」
「え?」
予想外のシェン先生の返答にアーサーは思わず固まってしまう。
(先生側として出してくれるはずない)
と思いながらも少し期待して、
「七つの大罪、奴らを1人残らず···消す為」
「消す?つまり七つの大罪を倒したい···なるほど」
「で?出してくれるんですよね?」
「今週の土曜出してあげる、ただし日曜の夜には島に戻る」
「たった2日!?···分かりました、ありがとうございます」
アーサーはシェン先生との話を終えると急いで寮へ戻る。
時間の無さに焦りながらも喜びが止まらない。
「土曜が来る前に居場所を突き止めたい」
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ある海岸では大きな船が止まっていた。
フェリーと同じくらい大きい船だが中には数十人しか居ない。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
船の下の階では実験室のような場所で1人の男が悲鳴を上げていた。
周りの白い服を着たものが体を拘束され目隠したままの男の体にメスを入れていじくる。
「この薬で魔導師を増やせるはず···」
船の中階ではいかにも科学者らしき人達が薬品や人の血液、臓器を使って実験をしている。
そんな科学者達の元へ1人の男が慌てた様子で、
「大変です!侵入者、侵入者です!」
「···返り討ちにしてやれ」
「で、ですが···」
科学者達が呆然と慌てた様子の男の話を聞いていると男が入ってきた扉がゆっくりと開いて7人ほど人が入ってくる。
「彼らが1番厄介な科学者達で間違え無いです」
「どうも見つからないと思ったら、船を使って移動してたとは···」
7人の内の1人が科学者達と手元の紙を見て何かを確信したようだ。
「馬鹿な、見張りには魔法を使えるようにした者達が居たはず···それをたった7人で?」
「ま、まさかこやつら···7人、あの男、自国のSランク魔導師を皆殺しにした男···間違えない、七つの大罪!」
船に入ってきたのは七つの大罪だった。
科学者達はラースの顔を見て後退りをしながら怯える。
「だが!」
ラースには科学者の1人が仲間に合図したように見えた。
そして科学者達はガスマスクを付けて毒のような気体を放つ。
どう見ても毒ガスだ。
「エアバリア」
ラストは空気で仲間を覆って毒から身を守る。
空気のバリアの外にスロウスがゆっくりと出て次々と科学者達を気絶させる。
スロウスは1人の科学者を残すと毒ガスを自分の体に吸収する。
そしてスロウス以外の6人はラストの空気が解除されたと同時に毒ガスの消えた部屋を歩き、残された科学者に近づく。
「お前らがやっている事は犯罪だ」
怯える科学者にラースが言う。
「お、お前らだって、犯罪だろ!」
「俺が言いたいのはそう言う事じゃない。お前らは他人に危害を加えた、だから危害を加えられても仕方ない。分かったなら俺の質問に正直に答えろ」
「な、俺らは魔導師じゃない、何で···」
怯える科学者を無視してラースは質問をする。
「まず、この船に魔導師や霊媒師はまだ居るか?」
「ち、下の階に何人か、実験体が居る」
「次に、お前らは次にどこに行く予定だった?」
「···分からない、知らされてない」
「お前くらいの人間ならば目を見て嘘をついてるか分かる···もう一度聞く、次に行く予定だった場所は?」
科学者はラースの目を見て、体が動かなくなる。
恐怖に似た何かに取り憑かれたように目の前の存在に恐怖した。
「ゆ、ユグドラシル···そこに行って新たな実験体を手に入れる予定だった」
「つまり、ユグドラシルの居場所を突き止めたと言う事か···。次に頼みたい事がある」
「···た、頼み?」
「ユグドラシルまで連れてけ」
「わ、分かりました」
科学者はそう言って立ち上がろうとするがあまりの恐怖に気絶してしまう。
そんな科学者を気にもせずラースは仲間達の方を見て、
「ラトニーは運転手へ出発の報告、他の者は下にいる魔導師を殺し科学者達を拘束、それと薬品などは全て回収だ」
ラースの指示通り皆部屋を出て言われた通りにする。
そして残ったラースは部屋の隅々を調べる。
「何かの資料?···ユグドラシル内にスパイを1人···魔導師回収の作戦か?こっちの資料は欲しい実験体の資料?」
目を付けたのは2つの資料。
1つは魔導師回収の手順が載った資料、もう1つは科学者達が欲しがった魔導師の名前と写真の資料。
その中には、
「アーサー····やはり奴もユグドラシルに居るのか」
ラースは資料を回収して部屋を出ようとするが扉のドアノブが外れてしまう。
部屋を見渡すが扉は1つしかない。
だがラースは落ち着いた様子で扉から離れ扉にタックルをする。
「フンっ。舐めた真似をするから壊されるんだ?あ、ああ!」
扉は壊れ無事部屋から出れた。
だが行き過ぎて船の柵まで壊してしまい、そのまま海に落っこちる。
「あ!リーダーサボってる!俺も泳ぐ!」
「僕も」
そんなラースを見たラストとスロウスが勘違いして海に飛び込む。
ラースは少し恥ずかしくなりながらも、
「これも仕事だ、遊びとは違う」
「わぁーい、待て待て」
「逃げろ〜」
だがラストもスロウスもラースの事を一切見てなかった。
「リーダー、出発の準備出来ましたよ」
そんなラースを転移空間から身を出してラトニーが言う。
「ああ」
「···タオル用意しときます」
「すまん」
ラトニーは何も見なかったかのように静かに身を引き、転移空間を閉じる。




