ユグドラシル
僕は学園から帰ってすぐにリン姉ちゃんに会いに行った。
明日から魔導師と霊媒師の為に設立された学園に通うことを伝えに。
「そう言う事だから」
「···寂しくなるね」
やっぱり寂しそうだ。これは、元気ずけなきゃ!
「けどこの街にもう1人の僕を置いてくからいつでも会えるよ!」
「···感動の別れが台無し」
お姉ちゃんは逆に元気無くしてしまった。
実は僕は自分の分身を創れる。
分身と言っても分身の全てが僕本人であり、全てが本物。
しかもノーリスクで無限に出せる。
僕が死ぬ時は全ての僕が死なないと僕は死なない。
分身を消すことができるのは1番生存時間が長い自分だけ。
今はこの僕だ。
「そうですか···楽しんできて下さい」
リン姉ちゃんだけじゃなくタナトスやカイさんにも同じ事を伝えた。
カイさんは毎月仕送りをしてくれるらしい。
「あと1件」
僕は最後にアマノの死体がある森に向かった。
分身が行けば僕にも感覚や情報は伝わるが、それでも最後に行ってきますを言いたい。
「明日この街を離れます、だから今日は····」
その日、僕はアマノの居る森で朝を迎えた。
一睡もせずに思い出に浸っていた。
「朝····行ってきます」
朝早く荷物をまとめ、森を出て学園に向かう。
学園の外ではアーサーとアリスが大きな荷物を持って座っていた。
だがアーサーは鎖で縛られている。
「おはよう····」
「おはよう」
敢えて鎖の事には触れず、僕も魔導師協会の者を待つ。
しばらくするとバス並に大きい車がやって来た。
「さぁ、行きましょうか」
街よ、しばしのお別れだ。
それから僕達3人は空港に行き、飛行機に乗った。
そして飛行機を2回乗り換え、僕ら専用の船に乗り目的地へ向かう。
「着きました」
「うそ···」
着いた場所は大きな島だった。
島ではあるがまるで大きな街、あるいは小さな国だ。
見たところ関係者以外入れないように、丈夫な壁と巨大な扉、そして隙が無いセキュリティがある。
まず入口は3段階のセキュリティ。
指紋認証、顔認証、数字のパスワード。
こんなセキュリティが無くたって島の外には出られない。
出た所で外は広い海だ。
「次は学園に向かいます。さぁ、乗って」
この大きな島は『ユグドラシル』と言う1つの街らしい。
ユグドラシルでは18歳以下の魔導師と霊媒師、それとユグドラシルで働く人々しか居ない。
そしてユグドラシルの中央にあるのがメインである学園だ。
「着いたよ、ユグドラ学園」
「もっといい名前あったろ」
ユグドラ学園。今日から僕が勉強する場所だ。
「今日は休校、今からある場所に行ってもらう」
そう言って連れてかれた場所では発信機を体に埋め込まれた。
ユグドラシルから僕達が出た時に分かるようにらしい。
つまりユグドラシルを出ようとする者対策と言う事だ。
ただでさえ出る事が出来ないのに。
「麻酔打つよー」
だが僕は神。神は人間の道具や肉体では傷つかない。
「あれ?針が折れた?」
麻酔針は折れる。仕方無く僕は寝たフリをする。
だけど耳の裏がこちょばい。きっと肉を裂いて発信機を入れる。
だから僕は自ら埋め込ませた。
「お!上手くいった!」
きっとアーサーもアリスも発信機を付けられただろう。
常に見張らせているってのは人権的に問題がありそうだが····今は目を瞑っとこう。
その日の夜。
僕は学園の近くの寮を貰った。とても広くて快適な場所だ。
初日で寂しい気がしてアーサーとアリスを部屋に招いた。
「なんか別世界に来た気分じゃない?」
「まったくだ。例えるなら地獄」
やはりアーサーはユグドラシルを出たがっている。
卒業までに七つの大罪が生きてると限らない。
最悪アーサーは復讐が果たせないだろう。
そうなれば僕からしたらラッキーだが、アーサーは気が済まないだろう。
「アーサーまだ包帯してるけど···2日前、誰かと戦った?」
そう言えばアリスにはまだ、再び七つの大罪と交戦した事を言ってない。
「うん、七つの大罪のラストを···こー」
「拘束!!アーサー凄いの!七つの大罪の1人を捕まえたんだよ!」
危なかった。もう少しでアーサーがラストを殺した事がバレるとこれだった。
アリスにそれを伝えるのは荷が重い。
「凄い!なんで黙ってたの?」
「アーサーが照れるかなーって?ねっ!アーサー?」
アーサーの様子が妙だ。反応が薄いし、さっきから黙り込んで···
「なあ、まだ俺達七つの大罪を追う妖撲滅部だよな?」
「もちろん!」
アーサーを見てアリスが微かに笑う。
まるで何かを確認しているようなアーサーはアリスの言葉を聞き安心した表情で、
「情報掴んだ!リーダーの能力がちょっと分かったんだ!」
昨日の淀んだ目をしたアーサーとは違いいつもの爽やかアーサーだ。
アーサーのそう言うところ、尊敬できる。
「なになに?」
「人や物を吹き飛ばしたり引き付けたりしてた。何の魔法かまでかは分からないけど···」
七つの大罪と交戦する事は当分なさそう。
それは僕にとって嬉しかったり、アーサーにとって悲しかったり。
「そうだ!今日は皆でお泊まりする?」
アリスがそう言うとアーサーは飲んでいたジュースを吹き出す。
「零したけど···大丈夫?」
「アリスを含めた3人···で?」
「うん。もしかしてジャックと2人っきりが良いの?やっぱりアーサーって···」
「違う!男女が一つ屋根のした有り得ないだろ!」
アーサーがアリスに女性苦手を発動する事は無くなったが···まだ少し苦手らしい。
「アーサー、意識しすぎじゃない?」
「ジャック!君は女子と変わらないけど俺は男!ジャックとお泊まりですらアウトなのに···アリスはもっと無い!」
顔を真っ赤にしながら言うアーサーを見て僕とアリスは笑いが隠せない。
ん?ジャックですらアウトってのは悪口か?
「早く決めてよ、変態王子」
「俺は変態王子じゃない!」
結局その日は皆でお泊まり会をした。
ゲームをして、お菓子とジュースで乾杯して、楽しかった。
僕がこの不思議な感情になるのは久方ぶりだ。
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「場所は分からないが魔導師協会が魔導師の子供達を隠した」
ある豪邸では7人の魔導師が食事をしている。
長机の上の奥に座る男が食事を取りながら話を進める。
「ユグドラシルだっけ?アーサーも白髪もそこに行ったらしいね」
「アーサーを仕留めたいが、今は情報が欲しい。プライドとスロウスをスパイとして入学させる」
ここは七つの大罪のアジト。
ラースの言葉にプライドとスロウスが反応して、
「「分かった」」
「詳しくは後日」
ラースはそう言って食事を終え、部屋に戻る。
部屋の明かりをつけ自分に言い聞かせるように、
「人間にとっての脅威は絶対的存在の神では無い、執念強い人間だ。厄介なのは白の神ではなかった、復讐者だ」
ラースはそう言って目を瞑る。




